藤沢周平「漆の実のみのる国」

 藤沢周平の「漆の実のみのる国」(文春文庫上下)を読み終えた。貧窮のどん底にあえぐ藩財政の立て直しに懸命に取り組む出羽国(現在の山形県)米沢藩の物語。題名が示す通り、漆、桑、楮(こうぞ)など商品作物の植樹による生き残りを模索する同藩の苦闘を丁寧に描く。

 改革の先頭に立ったのが第10代藩主上杉治憲(1751-1822)。治憲は享和2年、鷹山(ようざん)と改称し、髪を総髪に改めた。米沢藩の財政を立て直し、産業、教育の改革に力を尽くした江戸時代の名君の1人。しかし、藤沢周平の物語自体は肝炎発症のため、予定していた枚数に達せず、未完成。彼は回復を待たずに1997年1月26日、69歳で長逝の途についた。

 なぜ「漆の実の・・・」を読もうとしたのだろうか。用心棒シリーズ4部作(「用心棒日月抄」、「孤剣」、「刺客」、「凶刃」)とも違うし、映画化されて評判の「たそがれ清兵衛」や「蝉しぐれ」とも別系統。やはり、財政再建、経営再建への取り組みの中に何かヒントを求めたのだろう。

 それにしても、9月17日付の日経の広告を見て驚いた。上杉鷹山が登場しているからである。例の名文句ももちろん大きく、それもゴチックで引用されている。「なせばなる なさねばならぬ」。何と、財務省の広告(政府広報)だった。

 「日本の財政は、いま非常に厳しい状況です。将来世代へ負担を先送りしないために、財政構造改革を強力に推進しています。」

 具体的には「一般会計予算の4割強を公債収入(借金)で賄っており、その残高も年々増加し、平成17年度末で538兆円にも上る見込み」で、「今後の財政も高齢化で一段と厳しくなることが予想される」。「財政負担を先送りしないため、いま、財政構造改革に取り組んでいる」と苦境を訴えている。

 財務省が取り組んでいる財政構造改革とは歳出削減もさることながら、歳入増のための”増税”である。それしかないからだ。国民負担を訴えているのだ。財務省には歳出削減をできるはずがない。改革とはそういうものだ。組織の内部から改革するというのは本当に大変なことである。外部に要求するのはそんな難しくはない。

 国の借金は本当はもっと多い。国債以外に借入金、政府短期証券を合計すれば、今年6月末時点で795兆8338億円にも膨らんでいる。もちろん過去最高である。3月末に比べ、14兆2821億円も増えている。天文学的数値である。生まれたばかりの赤ん坊も含めると、国民1人当たり約623万円の借金を背負っている勘定だ。
 

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