ささやかな幸せ

スポーツクラブを今年3月末で退会してからもう半年。クラブ加入は運動不足の解消よりも、水に浸かっていることの心地よさやスパゾーン(風呂・サウナ・リラクゼーション)での気分転換に効用を認めていたことのほうが大きかったが、この半年、そうした、ささやかな快感さえ、会社の仕事に奪われていたのが実情だった。自分勝手に会社に身を捧げていた、というのが正確だろう。果たして、それで、いい仕事に結びついていたのか、との疑問は残る。

 再入会はずっと懸案ではあったが、難しいのはタイミング。この日はいいタイミングではあった。自分で再入会の手続きをする予定を作っていたのだから、なおさらだ。しかし、往々にしてそうした決断が鈍ることもある。当然のことながら、鈍るだけの理由はあるのだが、それはなかなか表現しにくい。

 この日もそうだった。決断が鈍りそうになった。その日の行動予定の中に、クラブに行って、再加入の手続きをする時間を入れていたが、直前になっても、「半年以内に再加入すれば、入会金、事務手数料は無料です」と書かれたThanks Card を眺めながら、どうしようかと悩んでしまった。

 再入会に必要な同カードはちゃんと、ポケットに入れていたが、1万円超もの会費を毎月出して、それでいて、クラブに行ける日がほとんどないのなら、お金をどぶに捨てるようなものではないか。その危険性もなくはない。悶々と悩み、決断できず、とうとう、その駅に着いてしまった。

 「迷ったときは取りあえず、行ってみる」というのがこうした場合の基本的な対処方針だ。一応、予定を立てた段階で、そうしようとの判断をしたのだから、最初の判断を尊重しようというわけだ。これまでの経験則から言って、「結果が裏目に出た」ことはまずない。「やはり来てよかった」ということのほうが圧倒的に多い。逆に、行かなかった場合、あとでどうしても、後悔するのが常だ。決断して、結果が悪るかっても、まだ納得できる。行かなかった場合は納得できない。

 この日ももう夜の8時前で、受付自体は終わっていたが、スタッフがまだ居て、Thanks Card を見せると、9月末で切れる「入会金・事務手数料無料」の特典期限を1カ月延長した上、1day trial ticket をくれ、この日の施設利用が可能となった。その上、再加入の判断をする余裕がさらに1カ月与えられたのだから、ラッキーである。

 「取りあえず行った」からこそ得られた幸運だった。行かなければ、逃げた幸運である。半年ぶりにプールに浸かった心地よさ、サウナで流した汗、リラクゼーションルームで見たベルリン女子マラソンでの野口みずきの優勝シーン。自分の決断が正しかったことを改めて確認した上、忘れていたささやかな快感を取り戻せ、とても幸せだった。 

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