「信長の棺」

加藤廣氏の歴史ミステリー小説「信長の棺」(2005年5月、日本経済新聞社)を読んだ。小泉純一郎首相が「面白かった」との読後感を述べて、それで火が点いたベストセラーだ。ベストセラーに手を伸ばすことはあまりしないが、どうも気になって手を取った。

 著者の加藤廣氏は1930年生まれの経営コンサルタント。本作品は作家転向の第1作だというから、75歳の処女作品だ。経済、経営書の著作は数多くあるそうだが、小説は初めてだとか。構想は、20年以上前の京都の阿弥陀寺に端を発するようで、作品完成までには多くの年月を要している。

 郷里が織田家と係りのある町だったから、織田藩については若干の知識はあるものの、好きな人物ではない。自分の性格と相容れないものを感じていたし、本書を読んで、かくも多くの一般民衆を苦しめた男であることを知って憤激を覚えた。

 びっくりしたのは「隠れ里・丹波」が出てきたことだ。信長や秀吉時代の丹波の姿が小説の中で登場してきたのはこれまでに記憶になく、それだけに実に懐かしく、嬉しい気分を味わった。予想も期待もしていなかったことで、意外性に驚いた。これだから、読書はやめられない。


 (追伸) その後、「文芸春秋」1月号を何気なく読んでいたら、「75歳ベストセラー作家の誕生」のタイトルが目に飛び込んできた。加藤氏がベストセラー誕生秘話を語っていた。要は好奇心だろう。「文学は老人の仕事」かどうかはともかく、老人も仕事がないと精気を失うことだけは確かだ。

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