「花蝶」

 現在の東銀座から新橋にかけての細長い一帯がかつての木挽町(こびきちょう)。伝統と格式のある新橋花柳界発祥の地である。芸を磨き、粋を貫く新橋芸者の花街で、政財界の奥座敷。今も「金田中」、「吉兆」、「松山」などの料亭が軒を並べている街だ。

 新橋一の名料亭と呼ばれたのが「花蝶」(Kacyo、東京都中央区銀座7-16-7)とか。昭和2年に開業した老舗料亭として名を馳せていたが、惜しまれながらも数年前に店を畳んだ。料亭として生き残ることは難しい時代なのだろう。

 しかし、料亭「花蝶」を、料亭スタイルのレストラン「花蝶」として蘇生させた人物がいた。舞台演出家の宮本亜門氏。新橋一の芸者と言われつつも、その姿は限られた人にしか見せることのなかった幻の芸者「花蝶」を現代に蘇らせることをコンセプトに「花蝶」をプロデュース。

 贅を尽くした数寄屋造りの佇まいを残しながら、店の設えから、食器、料理など、すべてにわたって、芸者「花蝶」の艶っぽさ、品の良さ、それに妖しさを漂わせた作りになっている。室内は照明も落とされ、都心とは思えない静けさ、そして美しい料理を楽しめる。

 慶事があって、坪庭付個室で「花蝶」の料理と風情を味わった。純白のお皿に素敵な料理が出てきた。ホワイトアスパラガスのベーコン巻き、サイコロステーキ、刺し身、鯛茶漬け。お酒は旭酒造(山口県周東町獺越2167-4)の純米吟醸「獺祭」(だっさい)。贅沢な昼だった。

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