『刑事たちの夏』

書名:『刑事たちの夏』上下
著者:久間十義(ひさま・じゅうぎ)
出版社:新潮文庫(初出・日経新聞夕刊連載=1997年2月8日~)

「大蔵官僚が墜落死した。自殺なのか他殺なのか―。緊急招集された捜査一課強行犯六係・松浦洋右はいち早く他殺を示唆する状況証拠をつかんだ。しかし、突如その死は自殺と断定され、捜査は中止となった。マスコミに情報をリークし、単独捜査を続ける松浦は警視総監と警察庁長官の対立、その背後にあった大蔵省の暗躍にたどり着く。政官財を巻き込む巨大な陰謀を描く傑作警察小説」(上巻解説)

 新聞連載中から読んでいたが、たまたま書店で物色中に目が合って久しぶりに改めて読み直した。他の警察小説と違って、テンポが軽快で歯切れが良いのだ。重厚さに欠けるところは物足りないが、松浦刑事の青臭い正義感には共感するものを感じる。

 松浦が戦っているのは権力を恣意的に行使する政治家や大蔵官僚や警察官僚などとそのシステムそのものだ。黒幕は最後の最後まで姿を現すことなく、松浦を翻弄し尽くす。子供じみた正義感に最後まで固執し、命を散らしていく松浦の最期にそれでも微笑が訪れたのは救いだ。たとえ自己満足であろうと、正義を貫いた達成感に浸ったのかもしれない。武装勢力の自爆テロリストもこうなのだろうか。

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