『蝉しぐれ』

書名:『蝉しぐれ』(初出:山形新聞夕刊、1986年7月9日~87年4月13日)
著者名:藤沢周平
出版社:文芸春秋社(単行本:1988年5月刊行)

 藤沢周平の作品はあまりにたくさんあって、とても読み切れない。自分ではかなり読んだつもりになっていたが、肝心の代表作を読んでいなかった。テレビドラマ化され映画化もされた有名作品だ。とにかく、これほど読後感が爽快で、なおかつしみじみとした気持ちになる作品も珍しい。

 東北の海坂藩(架空の藩だが、庄内藩がモデルとされる)を舞台に、淡い恋、友情、そして政争に伴う悲運と忍苦。ひとりの少年藩士が成長していく姿を静かな筆致で描いた作品は心に沁み入る。1人の人間の成長を平凡な風景の中から切り取っていく作者の暖かい目が優しい。

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