「尾花」のうな重

店構えからして、おいしそう

飲む相手によって、飲む場所も店のグレードも変わってくるのは当然だ。常磐線沿線の住人で、お金がない者同士に打って付けなのが南千住の大坪屋(荒川区)。地下鉄日比谷線南千住駅南口から歩いて30秒。雨が降っていても、速攻で飛びこめるし、とにかく安い。牛煮込み、焼餃子、とうふなど大体は200円だ。

この大坪屋で飲むつもりで友人と待ち合わせたものの、1時間も早く現着したので、もう暗くなっていたにもかかわらず周辺を散策していたところ、出くわしたのがこの「尾花」(おばな、荒川区南千住5)。住宅街を常磐線沿いに駅に戻っている途中で、門構えが異常に立派だった。玉砂利を踏んで近づいていくと、「うなぎ」の暖簾。中の座敷には大勢の人が賑やかに食事中だった。

店の人に聞いてみると、どうも東京都内でも有名な鰻屋らしいことが分かった。上品な鰻屋には何度も行ったが、こういう座敷で一緒にわいわいがやがや言いながら食べるのが下町流。この機会を逃せば、この店に来ることはまずないと思い方針転換。飯はこの店で食べることにした。「チャンスは前髪」である。うな重はうなぎの大きさにより3000円、3500円、4000円の3種類。出てくるまで40分ほどかかったが、注文を受けてからさばいている証拠だ。

うな重(3000円)

うなぎは安くない。国産のきちんとしたうなぎを使っているところはそうだ。尾花は普通の店より500円ほど高いかもしれない。それでも味が良ければそれでよし。タレは比較的あっさりめで、うなぎのうま味や香りを引きたてている。備長炭で焼かれた身はふっくらと、香ばしさもたっぷり。それでいて焦げ臭さなし。うまかった。「素材と焼きの技術と伝統が合わさり生まれる最高峰のうな重」とべたほめの評価もあるぐらいだ。

それにしても、こんなところにこんな店が・・・という感じである。昔、千葉県松戸市に住んでいたときには通っていたはずだが、南千住に途中下車したことはなかった。ちょっと調べてみると、尾花は小塚原刑場跡(延命寺)のすぐそばだった。暗くて気づかなかった。橋本左内や吉田松陰はここで処刑されている。

駅周辺にホテルやカラオケ居酒屋の看板が目立つ。なぜだろうと思って後で検索すると、昔のドヤ街・山谷(さんや)も近かった。日雇い労働者の簡易宿泊所も多い。駅からスカイツリーを眺めながら白鬚橋に向けて5分ほど歩いた涙橋周辺がそうらしい。「あしたのジョー」こと矢吹丈が流れ着いたのもこの辺りだ。

歩いていると、外国人旅行者向けホテルもあった。誰が利用するのかと思っていたら、外国人バックパッカー。他をけちっても高いホテルに泊まるのでは話にならない。ドヤが安宿ペンション代わりになる。大した知恵だ。

「尾花」ではうな重+きも吸い+大瓶ビール1本に我慢。白焼も、うざくも、鯉こくもあきらめ、とにかくうな重に集中した。腹は満ち足りたものの、飲み足らない。当初の目的地・大坪屋に向かった。

どういうわけか、ここでは元祖25度焼酎ベースのチューハイを飲むのが習わしのようだ。焼酎は「キンミヤ焼酎」(三重県四日市市の宮崎本店醸造、鈴鹿川の伏流水を使った甲類焼酎)で、大坪屋はじめ下町酒場の名脇役とつとに名前がとどろいている。

大坪屋でチューハイを頼むと、キンミヤ焼酎の入ったグラスと炭酸入りボトル(アズマ炭酸)1本が台の上にポンと置かれる。セットで200円成り。尾花と大坪屋のコントラストが大きい。しかし、どちらも満足した。満足度はお金の多寡ではないようだ。

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