『アメリカ後の世界』

『THE POST-AMERICAN WORLD』

 

書名:『アメリカ後の世界』(原題:『THE POST-AMERICAN WORLD』)
著者:ファリード・ザカリア(Fareed Zakaria) 訳者:楡井浩一
出版社:徳間書店(2008年12月31日第1刷)

今でも書店で新刊書を買うが、ときには古本屋をのぞいたり、自宅近くのBookoffで古本を買ったりもする。ちょっと古くなると、よほど大型書店に足を運ばないと、欲しい本が買えないからだ。それでも都会はまだ恵まれている。地方にいくと、大型書店が近くにないことも多い。ネットで注文するのもいいが、それは目当ての本がある場合。本屋に行くのは自分の問題意識を浮遊させながら、その時々の波長の合った、ピーンと感応した本との出会いを期待しているからでもある。

そして図書館から借りてきて読む場合ももちろんある。図書館に行くのは手間だし、借りた本はなかなか読まない(タダだから)のと、所有欲が強いので、借りることはそんなにないものの、最近の新刊書は値段が高いし、読みたい本はたくさんあるので、買うだけではなく、借りることも併用しないと、大変なことになる。とりわけ所得が減ると、生活防衛意識も働きます。

本書は千代田区立日比谷文化図書館で借りた。昨年11月に旧都立日比谷図書館から所属が変わって初めて借りた本だ。実に読み応えのある本だった。これだけ情報の詰まっている本も少ないし、ジャーナリストが書いているので読みやすい。訳文もこなれていて、ほとんど翻訳調を意識することなく読めた。

著者は1964年インド生まれ。18歳のときアメリカに留学。政治学を専攻し、イエール大学で学士号、ハーバード大学で博士号を取得。27歳で『フォーリン・アフェアーズ』(非営利の外交シンクタンク外交問題評議会の機関誌)編集長に抜擢された気鋭の国際ジャーナリストだ。本書出版時にはCNNで外交インタビュー番組『ファリード・ガカリアGPS』のホストを務めていた。インド生まれなので、インドへの言及も多く、視点が複眼的なのも面白い。2010年10月から米タイム紙の総合監修者(editor-at-large)。

ザカリア氏は本書のテーマについて、「アメリカの凋落ではなく、アメリカ以外のすべての国の台頭だ」と指摘している。今を「近代における権力シフトのただなかにある」との認識を示した。地球上では過去500年の間に、権力構造の断層的なシフトが3度観測された。権力の分布状況が根底から変化し、国際社会の営み-政治、経済、文化-が構築し直された。

■第1のシフト=西洋の台頭。このプロセスは15世紀に始まり、18世紀後半に劇的な加速をみせた。このシフトは科学、技術、通商、資本主義、農業革命、産業革命など、いわゆる近代化の諸要素を生みだしただけでなく、西洋諸国による長期の政治支配をもたらした。

■第2のシフト=19世紀末のアメリカ合衆国の台頭。アメリカは工業化を達成した直後、ローマ帝国以来最強の国家となった。20世紀のほとんどの間、アメリカは世界の経済と政治と科学と文化を支配してきており、過去20年間、その支配体制のライバルとなる存在はなかった。近代史上初めての現象と言っていい。

■第3のシフト=わたしたちが今まっただ中にある大変化。”その他の国の台頭”だ。政治的、軍事的レベルで言うと、今も単一超大国の世界にいる。しかし、ほかのすべての次元-産業、金融、教育、社会、文化-で見れば、権力の分布は脱・1国支配の方向へとシフトしている。これは”反アメリカの世界”が出現しつつあると言う意味ではない。”アメリカ後の世界”に移行しつつあるという意味だ。

米国が唯一の超大国として、世界を1極支配したのは1990年代以降のほぼ10年間だっただろうか。旧ソ連邦が崩壊し、ロシアは完全に米国からの援助と融資に依存。東南アジア諸国も通貨危機に襲われ、韓国やタイは国際通貨基金(IMF)に泣きついた。中国の高度経済成長も米国市場頼みだった。米国はブッシュ父政権、クリントン政権時代にスーパーパワーを誇示した。

それが2000年代に入ると、様変わりの状況だ。何がどうなったのか。

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