墨絵の冬

 

カウンター席は春満開

 

「こんなところに、こんな店が・・・」という意外性を楽しめるのが東京・新宿駅構内のメトロ食堂街にある「墨絵」(すみのえ)。フランス料理がベースのカジュアルな西洋料理と自家製パンを楽しめる不思議な店だ。同じ食堂街には丼自慢の「笹陣」や肉の「万世」、天ぷら「つな八」もあるが、今夜の気分は心に決めたカジュアル・フレンチ。女性層に圧倒的な支持を受け、予約がなかなか取れない。仕事を終えて、即行で直行し並んだ。横並びで2人分確保できた長いカウンター席は生花と桜の活け込みがどんと置かれ、春だった。

 

取りあえず泡を飲みながら友を待つ

 

メニューの検討に入る前に、取り急ぎ、乾いた喉を潤す必要があった。とにかく、ビールを飲まないと始まらない。ザ・プレミアム・モルツとハイネケンの小びんしかなかった。サントリーのモルツを頼んだ。

 

ひたすらメニューの検討に没頭する

 

メニュー選びは至福のひととき。季節の素材を使った料理を、3カ月ごとに楽しめる。12-1-2月は冬コースで、「前菜」「スープ/リゾット/グラタン」「メイン料理」「デザート」からそれぞれ選ぶ形式だ。メインはAとBに分かれ、それぞれ2種類、3種類用意されている。魚、肉というよりも、値段で決められているようだ。とにかく選択肢があって、結構迷った。迷った挙句、スープ/リゾットを頼み忘れた。オニオングラタンスープはさぞ絶品だったことだろう。友人がそれを頼んで「うまい」とうなっていた。

 

 

前菜「鯛の昆布じめとブロッコリムース」

 

前菜は5品の中から選ぶのだが、これが難しかった。メインで肉を選択したので前菜は魚系でいくことにし、「海の幸のサラダプレート」「あんこうのピカタとあん肝プリン」「仔羊燻せいのサバイヨン焼」「かにクリームソースの小パスタ」を次回以降に譲ってこれにした。「こぶの風味をふくませた真鯛さしみにからすみをまぶします。ブロッコリムースと水菜にのせてサラダ仕立て」。水菜の下にブロッコリムースが控えていた。フランス人もびっくりではないか。

 

牛ヒレ肉ソテーフレッシュチーズモツァレラのせ柚子こしょう風味

 

メインAは「黒むつのカネロニカルボナーラソース」「地鶏のベシャメルあえ」、Bは「黒鯛と七草のつつみ焼」「めだいと海の幸のロールキャベツ」とこのソテー。今夜は肉を食べたい気分だった。「ヒレステーキにゆず胡椒ソースをからめてフレッシュモツァレラをのせます。白ごまバターソースを流してにんじん飾り」。芸術品でした。

 

グラスワインは「デイアブロ」

 

この店にはワインリストはなかった(と思う)。ボトル売りもなかった(と思う)。HPにもワインに対する言及はない。料理に特化しているのだ。ワインが入るとどうしても最終的に支払いが高くなることを考慮し、あえて高価なワインを意識的に「無視」しているのかもしれない。それでも何種類かあって、好きなチリ産ワイン「カッシェロ・デル・ディアブロ」を迷わず選んだ。仏ボルドーから持ち込んだブドウ苗を仏人ワイン職人が育てたと聞いたことがある。

焼りんごラムレーズン詰め

 

コース料理のデザートはアイスクリーム(きんかん、塩キャラメル、あんずチェリー、バニラ)かシャーベット(紅玉りんご、みかんとしょうが、ジャスミンティー)を選べるが、コース価格に280円プラスで、タルトタタンとりんごムースか、焼きりんごに替えられる。後者を選択した。ラムシロップ風味のクッキーとレーズンを詰めた焼りんごのそばにアングレースソース(卵とミルク)が配され、さらにシナモンが降りかけられている。そしてりんごの上にバニラアイスクリームはちみつかけ。

 

花も愛でる

 

店主の城恭子氏によれば、墨絵のコンセプトは「おんなの息抜き」「ちょっとグルメ」「楽しいおしゃべり」「また来たいねと思ってもらえる」ような店を造ろう。そして1983年にできた。「女性のお客さまがエレガントに見える照明と雰囲気」と「季節の木や花をたくさん活ける」ことに気を配っているという。居酒屋ばかりではなく、こういう空間ならば、男もジェントルマンリーに見えたにちがいない。

墨絵は焼き立て、作り立てのパンも楽しめる。フランスパンやいちじくパン、くるみパン、オレンジパン、ベリーベリーパン、ぶどうパン、オニオンパンなどなど。食事と一緒に食べる。これがまたおいしいのだ。テイクアウト専用のお店も店の一角にある。支払いもビール小びん1本とグラスワイン2杯を含めても4800円。むしろ居酒屋より安い。リッチな気分に浸った。

 

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