「グローバル化経済と日本の農業」

イチョウの黄葉にはまだまだ・・・

 

一点の雲もない晴天の中、本郷の東大に行く。赤門から入って、すぐに左に折れ、正門前からイチョウ並木を眺める。予想通り、まだ緑緑していた。緑の向こう側には安田講堂がある。毎年、11月終わりにここに来るが、大体は見事に黄葉している。2週間早かった。出直すしかない。

 

 

本郷に出掛けたのは東大農学部公開セミナー(大学院農学生命科学研究科・農学部主催)出席のため。第43回目のテーマは「グローバル化経済と日本の農業」。消費税増税が決まって、次の話題は環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉。

今朝の新聞で野田首相がTTP問題を総選挙の争点にすると公言したことを大々的に報じたこともあって、タイムリーと言えばタイムリーなテーマだった。この問題をアカデミックな視点からどう論じるのかに興味があった。

始まる前にもらった講演要旨集によると、セミナーの最初の演題は「TTP問題と日本農業の再生を考える」(農業・資源経済学専攻、本間正義教授)、2番手は「TPP問題と日本農業の崩壊を考える」(農学国際専攻、鈴木宜弘教授)。2文字だけが違っていながら、内容が真っ向から対立していたのには笑った。

日本農業の再生を考える=本間教授】

●1993年12月、日本はコメの部分開放を受け入れ、ウルグアイ・ラウンド(UR)は合意した。日本の国際化元年だった。細川内閣は事業費6兆100億円、国費2兆6700億円のUR農業合意国内対策事業費を執行。それから20年経った。日本の農業はどうなった。今日的課題は何ら解決されていないのが現状だ。

●TPP問題の本質はグローバル化が国境措置の削減・撤廃にとどまらず、経済活動の競争条件の共通化を目指すところにある。参加に当たっては農業のみならず、日本経済のあり方そのものが問われている。

●とはいえ、TPP参加のためにクリアしなければならない最大の問題は農業。グローバル化の進展が一番遅れているからだ。日本人の食生活はグローバル化が進んでいるものの、重要品目に高関税をかけ、国内農業のグローバル化を遅らせてきたからだ。

●グローバル化を迫るのはTPPだけではない。日中韓FTAなども広範なグローバル化に向かっている。TPP参加を今回回避したところで、グローバル化への圧力の波は繰り返しやってくる。対症療法ではなく、根本的な問題解決に向けた対策の議論が必要だ。

●FTAもWTOも違うルートでグローバル化を達成するものだ。問題はFTAのネットワークから外れるデメリット、ネットワークの外に置かれガラパゴス化するリスクをどう考えるかだ。不参加はそのリスクを決定的にする。入らないなら入らないながらのリスクを覚悟しなければならない。

●TPPの本質は関税引き下げではなく(製造業や非農産物の関税は既に低い)、経済的競争基盤の共通化だ。アメリカン・スタンダードで良いと思う部分は共通化すべきで、そうでないところは議論していけば良い。共通化していくことがTPPのメリット、大前提であり、関税削減や関税撤廃はその第一歩にすぎない。

●経済競争の基盤や制度・インフラを共通化することで、日本のアイデンティティーを保つことを区別して議論しなければならない。日本的な文化が破壊されるといった情緒的な議論に押し流されて、何もしない、TPPにも入らないと決断するのは大きなリスクを伴う。何もしないことことに伴うリスクをマクロ的長期的視点から吟味することが必要だ。

●グローバル化に耐え得る農業にするための制度改革としては生産者の意見・アイデアを活かし、地域の取り組みを支援するシステムが必要だ。これまでのような一律の「霞ヶ関平均値農政」から脱却し、農政の地方分権を推進することだ。TPP参加に当たっては①人・農地プランの推進②農地がばらばらに散らばっている分散錯圃の解消③農外企業の参入促進④他の農業者とのコラボ⑤農地取得規制の緩和・撤廃-などの構造改革に取り組まなければならない。

●日本農業再生のためには日本農業を①食料基地農業②オランダ型農業③サービス農業-に3分割し、日本型農業を展開していく。

●日本農業はTPPの有無にかかわらず危機にある。しかし、TPPを契機に構造改革への弾みを付けられる。消費者・納税者は農業の自立を願って多くの支援をしてきた。しかし結果を出せなかった。TPPは最後のチャンスだ。

●果樹・野菜では十分な競争力が証明されている。コメもフロンティアでは既に輸出可能性が示されている。どれだけ多くの農家がそこに近づけることができるのかは農地の集約がカギだ。TPPで日本農業は壊滅しない。むしろTPPを一筋の明るい光としてみる農業者が日本農業の新しい地平を切り開く。

 

【日本農業の崩壊を考える=鈴木宣弘教授】

●現段階は「情報収集のための関係国との事前協議」ではない。国民には知らせずに水面下で譲歩条件を提示して、米国の要求する「入場料」水準(自動車、保険、BSEの3大分野)の詰めが進んでいる。「頭金」を払ったと米国が認めたときが実質的な日本の「参加承認」。まだ米国が認めていないので、日本の「決意表明」も見送られているだけだ。国民の懸念を反映して見送っているわけではない。国民不在の秘密交渉が行われている。

●TPPはFTAの1つの種類だが、従来にない規制緩和の徹底を目指し、99%の人々が損失を被っても、1%の富の増加によって統計としての富が増加していれば効率だという乱暴な論理だ。

●政策・制度は相互に助け合い支え合う社会を形成するためにあるが、「1%」の人々の富の拡大には邪魔。米国のいう「競争条件の平準化」の名の下に相互扶助制度や組織(国民健康保険、安全基準、共済、生協、農協、労組等)を、国境を越えた自由な企業活動の「非関税障壁」として攻撃している。

●ISD(Investor-State Dispute)条項により、あとで米国の保険会社が日本の国民健康保険が参入障壁だと提訴すれば、損害賠償と制度の撤廃に追い込める。米国はNAFTA(北米自由貿易協定)でメキシコやカナダにISD条項を使って、人々の命を守る安全基準や環境基準、セーフティーネットまでも自由な企業活動を邪魔するものとし国際裁判所に提訴して損害賠償や制度の撤廃に追い込んだ。

●豪州もISD条項は「国家主権の侵害」として反対している。韓国は「自国の主権が韓国国民から米国の企業に移ってしまった」と嘆いている。米州50州の100人以上の州議会議員が州の自治が崩される可能性を指摘して、ISD条項に反対する書簡を出した。同条項はお膝元でさえ、反対の声が上がっている代物だ。

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