『秘太刀馬の骨』

藤沢時代小説の隠れた傑作だとか

初出(「オール読物」1990年12月号~92年10月号連載)

 

書名:『秘太刀馬の骨』(ひだちうまのほね)
著者:藤沢周平
出版社:文春文庫(1995年11月10日第1刷)

 

藤沢作品はそれこそ、馬に食わせるほど読んでいるが、『秘太刀馬の骨』は知らなかった。系統的に読んできたというよりも、その時折の気分に合わせて読んでいたら、結果的に藤沢作品が多くなったということだ。

藤沢周平(1927-1997)の作家デビューは1971年の『溟い海(くらいうみ)』(オール読物新人賞)。72年の『暗殺の年輪』で直木賞を受賞し、新進時代小説作家として世に出た。

『秘太刀馬の骨』は、「オール読物」1990年12月号から92年10月号に連載された作品。95年に肺炎をぶり返し、96年は入退院を繰り返し、97年1月26日に肝不全で69歳で死去したことから、晩年の作品だ。

題名からして変な作品だなと思った。北国の小藩に、謎の秘剣を求めて、江戸からやってきた1人の剣客・石橋銀次郎が、6人の剣客と1人ずつ、死を賭して闘っていく物語だが、秘剣の裏に、熾烈な執政をめぐる暗闘が隠れていて、筋立ては結構複雑だ。

「『馬の骨』は、手綱を離れて突進してくる病馬に立ちはだかった、矢野惣蔵の機転の剣名である。すなわち、馬は惣蔵に噛みつこうとする。惣蔵は二度三度とかわす。馬はいらだって、竿立ちになる。そして抱き込むように惣蔵の上に前脚を振りおろす。

そのとき惣蔵の身体が右から左にすばやく動いた。振りおろした馬の脚の前、首の下を掻いくぐったようにみえた。掻いくぐって馬の左側に立ったときには、惣蔵の刀は鞘におさまっていた。馬は、首の骨を両断されていた。これが秘太刀『馬の骨』である。馬の骨を切ったので、かく命名されたのである」(文庫本解説・出久根達郎氏)

 

■追記(2014/07/20)

 

石橋銀治郎(内野聖陽)と浅沼半十郎(段田安則)

石橋銀治郎(内野聖陽)と浅沼半十郎(段田安則)

 

藤沢作品は数多くドラマ化、映画化されている。今年のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』はもっぱらBSプレミアム(日曜午後6時~45分)で観ているが、続いて地上波の「金曜時代劇」の再放送も楽しんでいる。

それが7月に入って、何と『秘太刀馬の骨』が始まったから驚いた。本は読んだものの、内容が今ひとつ理解できず、消化不良の気分が残っていた。テレビの力はやはり大きい。石橋銀治郎役の内野聖陽、浅沼半十郎役に起用した段田安則のイメージが作品の個性とよく合っている。

何でまた、この時期にこの作品かといぶかっていたら、テレビ放映されている作品は2005年8月に連続6回で放映されたもののアンコールだった。陰謀をめぐらす家老・小松帯刀役を近藤正臣が務めていることにふと違和感を覚えたときに気づくべきだった。

ざっと読み返してみて、これが藤沢時代小説の隠れた傑作であることに納得した。

■追々記(2014/08/10)

 

銀治郎と家老・小松の側女たき(最終回「暗闘」)

銀治郎と家老・小松の側女たき(最終回「暗闘」)

 

エンディングにトランペットを吹く武士

エンディングでトランペットを吹く武士が面白い

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