第18回いたばし産業見本市

会場の「東板橋体育館」

会場の「東板橋体育館」

 

東京都内には多くの中小企業が集積しているが、有名なのは大田区、墨田区など。こちらは既にブランドが確立している。この日出掛けたのは板橋区。かつて板橋区に住んでいて、約20年前に練馬区に引っ越してきた。

この板橋区もあまり知られていないが、都内有数の工業集積地で、光学・精密機器関連業をはじめ多くのものづくり企業が立地している。これら企業があることは知っていたが、強く意識したことはなかった。

「第18回いたばし産業見本市」(主催・板橋区)~製造と加工技術展~では国内でも有数の集積を誇り、板橋の主要産業でもある「印刷関連業」について、「広がる印刷技術」と銘打って特別展示を行っていた。

ここ2年ほど、「メイド・イン・ニッポン企業」と称して、日本の中小企業を海外に紹介するシリーズ企画の取材を行っており、中小企業の活動は常に気になっている。しかし、これはと思う企業を見つけるのは簡単ではない。

日本企業の99.9%は中小企業。それこそ星の数だけあるから、その中から、海外企業から見ても参考になりそうな独自技術、異色経営、ニッチ分野開拓、100年以上永続する老舗企業などを発掘して紹介するのは結構骨折りだ。常にアンテナを張っていなければならない。

同見本市には目指す企業が出展していた。「98.5%振動を吸収するサスペンション」(「防振サス」)を世界で初めて開発し、一躍有名になった松田技術研究所(板橋区宮本町)がそれだ。

同社の開発した「免震手押し台車」に代表される技術は、NHKのドキュメント&バラエティー番組「超絶 凄ワザ!」(毎週木曜夜放映、6月12日前編、6月19日後編)でも、「イチゴを乗せた台車を振動から守る対戦(実験)」をテーマに取り上げられた。

11時頃に会場の同社のブースに行ったら、ちょうど松田真次社長がいた。「ずいぶん有名になりましたね」と言ったら、「私はモノを作りたいだけ。有名になりたいとは思っていない。開発することが好きなんだ」との言葉が返ってきた。海外からもずいぶん引き合いが来ているという。

社員は何と6人。開発しかやっていない。製造や販売は別の会社に任せている。それでも世界初、オンリーワンは凄い。面白い会社だ。

松田社長と会えたので目的は達した。帰ろうかと思ったら、13時から会場の一角で、ものづくりセミナーが行われるというので、せっかくだから聞くことにした。神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏が「これからのモノ作り 中小企業が生きる道」と題して講演した。中村氏は昔、神戸で講演をお願いしたことがあった。

彼が指摘したのは日本人に染み込んでいる「より良い物をより安く」というダイエー創業者・中内功氏の考え方の呪縛から解き放たれること。1960年代から80年代にかけて浸透した経営哲学だが、90年代後半以降、「より良い物はより高く」の時代に転換したという。

その結果、日本の技術力なら簡単に作ることができた湯沸かし機市場を仏ティファールに席巻されたり、高くて音が大きく電気代のかかる英ダイソンの掃除機が人気を得るなどの現象が起こっている。何でこんなことが起こったのかと、中村氏は怒る。

中村氏によると、新車販売でも、客の求めに応じて、よい車の安く、安くし、それ以上安くできなくなると、おまけ(オプション)を付ける。「日本人はいい民族だ。より良い物をより安く提供しようとやってきた。しかし、海外はより良い物はより高い時代になっている。日本人はそこを見ていない」

日本人はどんなマックやケンタッキーなどの安売り店でも、それなりのサービスを受けられると錯覚しているが、ちゃんとしたサービスを受けたいなら、ちゃんとしたところ(もっと高いところ)にいくべきだという。

日本にばかりいると、どうしても、過剰サービスが当たり前にように思ってしまうが、そうでないことを理解する必要がありそうだ。いろいろ気づきがあった。

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