『冬の喝采』

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書名:『冬の喝采』
著者:黒木亮(くろき・りょう)
出版社:講談社(2008年10月20日第一刷発行)

 

黒木亮氏は1957年、北海道生まれ。大型シンジケートローンを巡る攻防を描いた『トップ・レフト』でデビュー。『エネルギー』や『巨大投資銀行』『貸し込み』『アジアの隼』などの国際経済小説で知られる小説家だが、氏が箱根駅伝を走ったアスリートだったことは知らなかった。自ら走った箱根駅伝をテーマとした氏の自伝的長編小説だった。

潰瘍性大腸炎の第1期手術で入院(2014年9月23日-10月26日)した時、5冊ほど読みたい本も一緒に入院した。『冬の喝采』はその中の1冊だ。

入院前でブックオフで買った数冊のうちの1つ。買ったのは書名に惹かれたこともあるが、むしろ100円均一コーナーにあったことのほうが大きい。実は読み始めて初めてこの本が経済小説ではないことに気づいた。

箱根駅伝をテーマにした内容だが、主人公の金山雅之は黒木亮の本名だった。金山青年は早稲田大学競走部の一員として箱根駅伝に2回出場。3区と8区を実際に走った。3区ではチームメートの瀬古利彦選手からタスキを受け取っている。

術後しばらくは、本を読むどころではない。ベッドの上でうめいているはずだ。体力が少し戻ったとしても、なかなか本を読む気にはならないものだ。ベッドに寝っ転がりながらテレビを見るのがせいぜいだ。

それが今回、『冬の喝采』を読むことが入院生活の励みになった。読み続けることによって、自分もしっかり生き続けることで、人生というマラソンを走り続けねばならないという気持ちになるのだ。それは何故か。

金山青年の人生の前半は陸上競技。それも中学生から大学卒業まで10年以上ずっとだ。

ケガや故障に苦しみ抜きながら、養子だったという出生の秘密を養父から明かされる精神的葛藤を克服しながら、中村清早大競走部監督(当時)の偏執狂的な指導に耐えながら、それでも、「走ること」を続けた金山青年。

彼の最高度にストイックな生き方、人生への取り組み方に感動した。読んでいると、力を与えられる気がするのだ。こんな若者が日本にいたのか。私より10年若い。

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