『コーン・アイランド』
作品名:『コーン・アイランド』(Corn Island) 第49回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭グランプリ受賞
監督:ギオルギ・オヴァシヴィリ
2014年グルジア・チェコ・フランス・ドイツ・カザフスタン・ハンガリー製作映画
2015年4月22日@日本記者クラブ
とても不思議な映画だ。今までに見た映画とまるで違う。登場人物は最初は老人1人。そのうちその孫娘らしい少女が加わるが、10分くらいは会話も何もなく、最後までそれが続くのではないかと思ったほどだった。
「どこからともなく老人が川の中州にできた小さな島に上陸し、こつこつと小屋を建てる。やがて、その小屋を拠点に島の土を掘り返し、畑を耕していく。途中から若い孫娘が合流し、老人を手伝う。黙々と続く作業の合間に、両陣営の兵士がボートで中間地帯たる島の前を横切っていく…」(作品解説)
「セリフを最小限に抑え、土地を相手に働き続ける老人の姿を淡々と描く映画の話法によって、観る者は画面の中に連れられていく。人間の争いへの批判を底流させつつ、ひたすら大自然に対する畏敬の念を驚異的な撮影で表していく奇跡のようなドラマ」(作品解説)だ。
だから、何も考えずに見るだけでも作品の上質さを感じることはできる。しかし、作品がメッセージを伝えようとしている限り、背景を知っておく必要がある。舞台は旧ソ連諸国の1つ「グルジア」(Georgia)の最西端に位置するアブハジア自治共和国。北のロシアとの間にエングリ川が流れており、それが国境になっている。
アブハジアとロシアの間を流れるエングリ川は、春の雪解けとともにコーカサスから肥沃な土を運び、中州を形成する。その中州にできた島は中間地帯だ。
西は黒海、東はカスピ海に面する。北はロシア、南東はアゼルバイジャン、南はアルメニア・トルコと国境を接する。1991年にロシアから独立した。首都トビリシ。アブハジアは独立を主張して、92年から93年にかけてグルジアと戦争状態になった。現状は南オセチア地方とともに、グルジア政府の実効支配が及ばない。
老人が耕した島に植えるのがトウモロコシ。作品名の由来だ。手漕ぎボート、手作りの小屋、魚を捕る籠、大工道具、スコップ、長靴など見慣れない道具がいろいろ登場してくる。
言葉はアブハズ語(アブハジア自治共和国で主にアブハズ人によって話されている言語)、グルジア語、ロシア語が使われている。せめてロシア語を知っていれば、ボートでパトロール中の兵士と老人との間で交わされる会話の緊張感を感じ取ることができたかもしれない。