「アルメニア文化週間」の一夜

 

アルメニア事情を話す牧本次生氏

アルメニア事情を話す牧本次生氏

 

「アルメニア文化週間」(5月19日~24日)の開催案内をもらったので時間を見つけて出掛けた。場所は渋谷・代官山のヒルサイド・テラス。普段滅多に足を踏み入れないエリアで、案の定、田園都市線と東横線を間違えて引き返す羽目になった。

案内には午後6時スタートだと書かれていたが、30分遅れて到着したものの、会場は人影もまばら。関係者らしき人たちが自分たち同士でおしゃべりしてはいても、イベントに来た我々はそっちのけで、イベントの体裁を取っていなかった。日本アルメニア友好協会の主催らしいが、イベントのすべてにプロのスムースな運営を期待してはいけないのかもしれない。

それでも40分ごろに始まった。トップバッターは何と日本で「ミスター半導体」と呼ばれる牧本次生氏。日立製作所の半導体部門に就職してから一貫して半導体畑一筋に歩んだ人物だった。2000年に専務で日立を退社し、ソニーに移籍。05年にソニーも退社。

アルメニアについて知っているのはブランデーの産地くらいで、場所もあやふやだが、牧本氏によると、かつてから「ソ連邦のシリコンバレー」と言われ、その技術資産を活かして今も「IT立国」を目指す「中東・コーカサスに輝くシリコンバレー」だという。

それを可能にしているのが国民の知的レベルの高さ。「ユダヤ人は頭が良くて商売上手。普通の人が3人束になっても適わない。しかし、ユダヤ人が3人束になっても1人のアルメニア人に適わない」と噂されているという。

1991年に独立したアルメニアは2000年に国の将来をITに賭ける大方針を打ち出した。その成果が実ってきて、国内総生産(GDP)に占めるITの比率は5%(日本は1%)にまで高まってきたという。

アルメニアは2011年にITの進歩に貢献をした人物を表彰する「グローバルIT賞」を制定。13年の受賞者として、牧本氏に同賞を授与した。それを機会に同国を訪れた同氏が今月刊行したのが『IT立国アルメニア』(東京図書出版)。日本のミスター半導体が、世界のハイテク分野で脚光を浴びるアルメニアを紹介するユニークなアルメニアガイド本の本人によるプレゼンテーションだった。

 

あいさつするポゴシャン大使

あいさつするポゴシャン大使

 

アルメニアにはもちろん行ったことがない。場所はイランの北で、黒海とカスピ海の間に挟まれたコーカサス地方だとうっすらと分かるが、今一はっきりしない。昔ロンドンで買った「Secondary School Atlas」(1983年発行)を見たら、当然USSR領となっていた。4月にワインを飲んだジョージア(旧グルジア)の右隣りの国だった。

牧本氏によると、歴史的には実に古い国で、紀元前4000年ごろのワイン醸造施設の遺蹟が発見されている(2011)。これは世界最古だと言われている。天然資源が乏しいものの人材が国を支えていること、地震国であること(1988年のアルメニア大地震の犠牲者は2万5000人)、98%をアルメニア系が占める単一民族の長い歴史を持っていること、アルメニア人にとって心の聖地とされるアララト山(大アララト5137m、富士山にそっくりの小アララト3896m)はノアの方舟漂着伝説を持つ神話の国であることなど日本との共通点が多い。

今もアルメニアのシンボルになっているアララト山の周辺にはオスマントルコ帝国に支配される前までは多くのアルメニア人が住んでいたが、今はトルコ領になっている。アルメニア政府は現在の国境を認めていない。

アルメニア政府はトルコ領内で100万人から150万人のアルメニア人が虐殺された「アルメニア人ジェノサイド」(第1次1894年、第2次1915年)と主張しており、今回の「アルメニア文化週間」も100周年目に当たることで組まれたイベントだった。トルコ政府は「虐殺ではなく、内戦だった」と虐殺の事実を否定している。

人類の歴史は虐殺の歴史かもしれない。日本は南京で中国人を虐殺したと批判され、ナチス・ドイツはユダヤ人やギリシャ人を虐殺したと糾弾されている。アルメニアではトルコ人によって多くのアルメニア人が虐殺されたと指摘されている。アフリカ・ルワンダでは3カ月で100万人が殺された(1994年)。人間の歴史は虐殺の歴史だ。何なのだろう。

アルメニアの人口は300万人。面白いのは国外にその2倍以上の700万人が住んでいるという。「ディアスポラ」(ギリシャ語Diaspora、離散ユダヤ人またはそのコミュニティー。転じて単一民族の海外移住者・社会)。ディアスポラとのネットワークでグローバル展開が可能だ。

 

留学生が語るアルメニアの旅

留学生が語るアルメニアの旅

 

アルメニア人留学生のアンナ・ダヴティアンさんと世界の秘境・辺境ツアーが得意なユーラシア旅行社によるトークショーがあった。日本との共通点が多く、最高級ブランデー(フランスも脱帽し、コニャックと名乗ることを認めているという)を有するアルメニアには一度行ってみたい。世界で最初にキリスト教を国教(301年)に定めた国でもある。

秋田県とほぼ同緯度。時差5時間。成田発モスクワ経由エレバン(首都)だと所要時間約12時間30分。これに待ち時間が加わる。「一晩で惚れ込む国」(牧本氏)らしい。

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