日本で企業統治が育たないのは「投資家が経営者に圧力を掛けなかった」ため

 

会見する宮内義彦氏

 

ゲスト:宮内義彦氏(オリックス・シニア・チェアマン、日本取締役協会会長)
テーマ:東芝不適切会計問題と企業統治
2015年8月18日@日本記者クラブ

 

オリックス名誉会長を退任し、今はシニア・チェアマンである宮内義彦氏の登場は日本取締役協会の会長として、コーポレートガバナンス(企業統治)のあり方を聞いた。

日本取締役協会は社外取締役、独立取締役の集まり。「経営者、経営者OB、弁護士・公認会計士・大学教授などの専門家、投資家など、経営に携わる人々が、コーポレート・ガバナンスの普及・啓蒙を通じて、企業と日本経済の持続的発展のために集まる、日本で唯一の団体」(協会について)。

宮内氏によると、経済界でコーポレートガバナンスが意識され始めたのは1990年代に入って、バブル崩壊で日本経済が沈滞したとき。立て直すには日本の企業経営に欠けたものがあったのではないかと考え、欧米の事例などを参考に勉強会が始まった。それを具体的な運動にする必要を感じ、経済同友会の有志で推進する組織を2002年3月に作ったという。

当時はコーポレートガバナンスという言葉をまだ聞くことがなく、「そんなものは必要ないじゃないか」との反応もあったという。「経済界の片隅の片隅の運動」(宮内氏)で、存在感は決して高くはなかった。今も経団連や同友会、日商などに比べると、格段に認知度は低いのが現実だ。

コーポレートガバナンスが急に注目を浴びたのは皮肉にも、日本を代表する大企業で、企業統治の優等生と思われていた東芝。歴代3トップが利益のかさ上げや損失計上の先送りを指示するなど不適切会計(要は粉飾会計)処理が明らかになったからだ。

田中久雄社長と前社長の佐々木則夫副会長、前々社長の西田厚聡相談役のトップ3人が辞任した。利益を上げることは重要だが、あくまで適正な会計処理に基づくのが大前提。

コーポレートガバナンスの充実・普及を主導しているのは民間ではなく、政府。アベノミクスの一環で、企業の活性化を図ろうとしているからだ。民間の経営者は自分の思い通りの経営をしたいのに、手足を縛るようなコーポレートガバナンスに熱心に取り組みたくないのが当然だという。

ただ、政府による改革は進み始めている。金融庁と東京証券取引所は今年6月から、東証上場企業を対象に、独立性が高い社外取締役を2人以上選ぶように促すことなどを盛り込んだ企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)の運用を開始した。企業は指針に沿った体制整備が求められ、指針を実施しない場合はその理由を説明しなければならない。今年は「企業統治元年」らしい。

宮内氏が会見で話した内容の一部をYouTube動画を見ながら書き出してみた。

・「欧米の企業統治ははるかに先を行っているという。どのように充実していったかという歴史を考えると、「お金を出す側が自分の本当に大事な資金を、企業の根源的な資金として提供するんだから、それを充実した形で運営してもらわないと困る。それを運営する責任者の経営者に対してしっかりと目を光らせていないとどうなるか分からない。投資家が圧力を掛けてコーポレートガバナンスを徐々に作っていった歴史がある。お金を出す側が自分のお金を守りたいがために経営者がしっかりやっているかどうか、しっかりやっているんだったら、もっとしっかりやらせる。ダメなら代えてしまうという決意をもってガバナンスを作り上げた」

・「日本ではどうか。日本の投資家はどうしているのか。不思議なことに日本の投資家は経営者にほとんど圧力を掛けない。ときどき、はぐれオオカミみたいな物言う株主が出てくると、文字通りはぐれオオカミ扱いで、『不思議なことをするな』ということで終わってしまう。99%の株主はその会社にお金を出して、経営のすべてをゆだねるという形でやってきた。経営者がそれに応えてグローバルに匹敵する業績を上げておくという歴史を作っているならば、日本でガバナンス問題は起こらなかった。しかし、1つの指標ではあるが、ROE(株主利益率)は欧米企業の半分。経営力がないのか、ガバナンスがないから経営力を発揮できないのか、どっちか分からないが、ダメじゃないかと政府からも言われる現状で、ガバナンス問題が出てきた」

・「また、海外の投資家も日本の市場を動かすだけの売買をしているが、実際上、海外の投資家の中のごく一部は物言う株主、まさにこれもはぐれオオカミ的な扱いであって、ほとんどの海外の投資家は日本にある程度のアロケーション(割り当て)をしないといけない。しかも、日本というのは特殊な市場なんだから、ガバナンスとか言ってもできはしないので、ありのままで日本に投資して、その中で、よりましなところに投資しようという態度できたんではないか」

・「内外ともマーケット、投資家が日本の経営に圧力を掛けなかった。だから日本のガバナンスは充実することがなかったんではないか。今や欧米の経営力と日本の経営力の格差が非常にはっきりしてきた。半分しか力がない。制度的には欧米ではかっちりしている制度が日本では皆無。どうして日本の経営力が半分なのかについては答えは分からない。ガバナンスがないことだけははっきりしている。取りあえずこれを何とかしないといけないというのが現在の動き」

・「私に言わせれば、日本のガバナンスが欧米と同じになったら、日本のROEが倍になるかというと絶対にそうはならない。企業経営は形と魂。まさに経営力があるかないかがその次に問われる。ガバナンスがイーコールになった場合は、日本の経営者は力があるかないか、そちらの競争に次はなっていく。その競争をする前の段階として、欧米のガバナンスは社外取締役を2名以上入れるなんていう水準をはるかに超えている。厳格なガバナンスを年々作り上げていっているのが現状。日本のガバナンスは一歩動いただけ。ものすごい勢いで追い付いていかないと、形の上だけでもさらに引き離される危険性がある」

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