故人の愛した「バードウォッチング」
人は生まれれば必ず死ぬ。早いか、遅いかだけの話だ。とはいうものの、やはり、人が死ぬまでに生きた時間は多寡にかかわらず、さまざまな色に染まっている。とりわけ、1人の人生でなかった場合、ともに生きた人たちの胸には思い出が残る。
息子の義父が亡くなった。脳梗塞で倒れ、入院加療中で、病気のほうはかなり快方に向かい、食事も再開。もうしばらくしたら退院できるめどが付いたと思われた矢先だった。74歳の生涯だった。3月に会ったばかりだった。
直接の死因は誤嚥(ごえん)性肺炎だった。口の中や胃の中のものが誤って気管に入ることで起こす肺炎。高齢者、とりわけ脳梗塞などの脳血管障害がある場合、誤嚥が起こりやすいという。入院して2カ月だった。
故人は家庭菜園とバードウォッチングが好きだった。野菜作りをやめたあたりから体調が悪くなったという。近所に市から農園を借り、野菜作りにいそしんでいた。採れた野菜を家族や孫たちに食べてもらうのが楽しみだったという。そう言えば、東京のわが家にも送ってもらったことがあった。
野菜作りはやさしいようで難しい。これまでに自宅の裏庭で1度挑戦したことがあったが、続かなかった。義父はかなり本格的に取り組んでいたという。そのうち、手ほどきを受けたいと思ったこともある。
故人が最も愛したのはバードウォッチング。「バードウォッチングが大好きで、どんな離島でも双眼鏡を持って飛んでいき、日本にいる鳥はほとんど見たと言っていたことも思い出されます」と喪主は述懐している。
棺には野鳥の会のガイドブックや野鳥の写真集のほか、旅行ノートも納められた。めくったノートのページには、「舳倉島へ」と書かれていた。舳倉島(へぐらじま)は能登半島の輪島沖から北方へ約50kmにある孤島。
透き通った美しい海に囲まれ、海女(あま)による素潜りが伝承され、別名「海女の島」とも呼ばれているという。磯釣りを楽しめるほか、一定の期間、渡り鳥が休憩地とすることから、バードウォッチングの場としても人気のスポットだとか。故人は島で多くの野鳥を見たことだろう。
通夜式に出席。故人を偲んだ。合掌