「命をささえ、平和をつむぐ」

 

講演会会場の立て看板

講演会会場の立て看板

 

アフガニスタンで30年以上にわたって医療活動や灌漑対策に取り組んでいる中村哲医師の講演会が6月10日、練馬文化センターで開催された。主催は「市民の声ねりま」(代表・池尻成二練馬区議)。

中村哲医師は1946年福岡生まれ。「まもなく70歳になる」という。1984年に、ハンセン病撲滅を目指す国際医療協力を行うためにパキスタン・ペシャワールに赴任。旧ソ連軍の侵攻で79年から始まったアフガン戦争でパキスタン北西辺境にはアフガン難民が殺到。中村医師は86年、アフガン患者のため、アフガン医療チームALS(アフガン・レプロシー・サービス)を設立し、難民キャンプへの巡回診療も開始した。

ALSは89年、JAMS(ジャパン・アフガン・メディカル・サービス)に改称。アフガン無医地区でハンセン病を含む一般診療を開始。89年に旧ソ連軍が撤退後、パキスタンから難民が続々帰郷するのに合わせて、91年、医療過疎地でハンセン病患者の多いクナール川沿いのダラエヌールに診療所を開設した。

アフガンは人口2800万人の多民族イスラム国家。国内中部を7000m級の山が1200kmにわたってヒンズークシ山脈が走る山岳国。同山脈は「アフガンの生命線」と言われ、「アフガンでは金がなくても食っていけるが、雪がなければ食っていけない」(中村医師)という。山の雪解け水が農地を潤し、豊かな実りを約束してくれるからだ。

しかし、2000年、アフガンは記録的な大干ばつに見舞われる。水不足により、赤痢、コレラが急増。「数千人、数万人規模の村があっという間に消えていった。土地が砂漠に戻っていった」。中村医師が痛感したのは「飢えと干ばつは薬では治せない」事実だった。

中村医師はその現実を見て、水源確保事業に乗り出す。井戸を掘る一方、カレーズ(伝統的地下灌漑用水路)の修復を図った。しかし、カレーズの枯渇や地下水利用の限界にも直面した結果、「100の診療所より1本の用水路が重要」として、2003年3月、「マルワリード用水路」に着工。10年3月全長25.5km、灌漑面積3000haの用水路が完成し、15万人が村に戻った。

10年10月からは国際協力機構(JICA)との共同事業を開始。16年現在、マルワリード用水路周辺の水利工事を進め、20年までに耕地1万6500haの安定灌漑、65万人の農民の生活を護る地域復興モデルを目指している。

地元民が作業し、中村医師も重機を操った。「医者の私が土木作業をやっているのはそのためだ。用水路が延びるたびに村々が復活していく。水の威力はすごい」という。

地元民たちは①1日3回ご飯を食べられる②家族と一緒に村で暮らせる-幸せを喜んだという。「先生、これで生きていけます」。水があれば何でもできる。中村医師らは現地に適した取水技術を確立する一方、日本の治水技術も応用した。洪水にも渇水にも耐える取水堰も作った。

「農地の乾燥・干ばつがアフガンの直面している深刻な問題。水不足が続く限り、食料不足に陥り、収入を求めて傭兵になる」ことの繰り返しが続く。2000年から始まった干ばつは現在も進行中だ。この干ばつの理由は「ズバリ温暖化」だと指摘する。

地球全体についても経済成長に伴って等比級数的に気温が上昇。雪線(万年雪が積もっている部分とそうでない部分の境界)が700~800m上がっているという。

中村医師は会場との質疑応答で、「我々団塊の世代は豊になれば幸せになると思ってやってきたが、そうした時代は終わりつつある。豊かさをGDPで測ってはならない。経済成長することでバラ色の社会を得られる時代は過ぎた」と述べた。

経済成長を追求することで物質的繁栄を得たことも事実だが、半面失うものも多かったのは確かだ。しかし、恐らく、成長を放棄することで得るものも多いだろうが、失うものも少なくないはずだ。

成長を放棄した瞬間から文明の後退が始まるのではないか。成長をやめたから、人類社会が安定するなんてうまいことにはならないのではないか。人類を待っているのは逆にもっと悲惨な結末ではないないのか。そんな気がする。その悲惨な結末の最初の犠牲者はもちろん貧困者だ。

必要なのは「成長か安定か」ではなくて、成長の目標の方向転換なのではないか。それこそ「低炭素社会」「脱炭素社会」実現を目指す新たな成長モデルではないのだろうか。

中村医師が現地代表を務める「ペシャワールの会」(事務局・福岡市)の活動資金はほぼ日本からの寄付金に依存しており、これまでの総額は30億円。チリも積もれば山となった。

市民の声ねりま主催の中村医師講演会は2003年以来、今回が6回目。私は2009年9月19日の講演会に出席した。中村医師の地道な活動を熱い思いで支援する人が会場にいっぱい詰めかけた。年配者も若者も中年も。日本人も捨てたものではないなと思った。

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