ボツ原稿

 

加賀屋関係本3冊

加賀屋関係本3冊

 

5月の連休明けに和倉温泉(石川県七尾市)を訪れた際、あの温泉が加賀屋の本拠地であることはもちろん知っていたし、近くから眺めたこともあったが、自分で加賀屋のおもてなしについて原稿を書くつもりはなかった。つもりがなかったので、写真も撮らなかったし、情報収集もしなかった。

東京に戻ったあと、あるウェブサイトから「何か書けるネタはありませんか」と聞かれ、頭に浮かんだのが加賀屋のおもてなしだった。場所が北陸で旅費もかかるし、泊まるとなると高額。しかも一人客は泊めないようなのでコスト高は必至。

それだけのコストをかけてでも取材する価値があるとは思ったが、及び腰で提案してみたら、案の定却下された。ちょうど東京ビッグサイトで、おもてなし力向上見本市と銘打って「インバウンド・ジャパン2016」(7.20~22日)が開催され、セミナーで前会長で現相談役の小田禎彦氏による講演があるのでそれを聞いてから判断しようと考えた。

話を聞いたら、何とかして原稿を書いてみたいと考えるのがライターの習性だ。書きたくなった。日比谷図書館から女将の書いた『加賀屋 笑顔で気働き』(小田真弓)、『加賀屋の流儀』(細井勝)『加賀屋さんに教わったおもてなし脳』の3冊を借りだした。

 

インバウンド・ジャパン2016(東京ビッグサイト)

インバウンド・ジャパン2016(東京ビッグサイト)

 

しかし、所詮自分で取材していない記事はリアリティーがない。書いている本人がそう感じるのだから、読者はすぐにそれを見破る。それなりの水準のものを書ける自信はあるし、それを書けるのがプロと思うが、リアリティーだけはどうにもならない。

おもてなし解説書はたくさん出版されているし、加賀屋に関する記事はネット上にも氾濫している。オリジナリティーを持たない記事をいくら書いたところで意味がない。一応書き上げたが、見送ることにした。次回は是非きちんと取材をして、良い記事を書きたい。以下はボツにした記事だ。

加賀屋の「おもてなし」

宿泊客が求めていることを求められる前に提供する

 

日本が「おもてなし」の力で外国人旅行者を引き寄せている。日本はこれまで、「物づくり」の面で強かったが、これに「おもてなし」が加わった。日本はこれで他国がまねをできない2つの力を備えた。おもてなしのシンボル的存在は北陸・能登半島の温泉旅館の加賀屋だ。

◇見返りを求めない日本人のホスピタリティー

訪日外国人旅行者(インバウンド)の数は増加の一途をたどっている。13年には初めて1000万人を突破。14年は1300万人台、15年1900万人台と急増。16年も熊本地震の影響を克服して1~6月で1171万人を記録し、このままのペースが続けば年間2500万人程度に達する可能性も出てきた。東京オリンピック・パラリンピックの開催される20年の目標は4000万人だ。

国際オリンピック委員会(IOC)総会の五輪招致最終プレゼンテーションでのフリーアナウンサー、滝川クリステル氏による「おもてなし」スピーチは印象的だった(13年9月7日、フランス語)。「『お・も・て・な・し』は見返りを求めない日本人のホスピタリティー(歓待)の精神であり、日本では先祖代々受け継がれながら、超現代的な文化の中にも深く根付いている。日本人がお互いに助け合い、お迎えするお客さまを大切にするのはこの精神の表れ」と説明、強くアピールした。おもてなしサービスを経営理念にまで作り上げたのが石川県七尾市にある老舗旅館「加賀屋」(小田與之彦社長)だ。

◇客には「できません」と言わない

加賀屋は東京から新幹線で2時間半の北陸の古都・金沢から、さらに特急で1時間以上も能登半島に入り込んだ和倉温泉に立地している。開湯以来1200年の歴史を積み上げてきた温泉場にある25軒の旅館の1つで、1906年(明治39年)から110年にわたって温泉旅館を営んでいる。

加賀屋の前会長で、現在相談役の小田禎彦氏が7月21日、東京ビッグサイトで開催された「インバウンド・ジャパン2016」でおもてなしの精神について話をした。自分の母親で、現在の加賀屋のサービスの基礎を作った女将・孝(たか)が客から無理な要望を突き付けられてもすぐには「できません」とは言わないようにして、1人1人の宿泊客と真剣勝負をするつもりでサービスに当たっていたと指摘。

「要望に対するベストな答えではないけれども、汗をかいて何とかベターな答えを見つけ出してきたのなら、客もその努力を認めてくれるはずだ。そんな汗をかくことが重要だ」と客室係を指導していたと語った。客がいかに満足を得られるかを第一に考えながら、気遣い、気配り、気働きを行う。それが加賀屋のおもてなしの原点だという。

加賀屋は232室、1日に約1400人も宿泊できる大型日本旅館だ。これだけの施設を約300人の従業員(うち客室係は約180人)で担当しているという。日本の旅館は客室係が客を部屋に案内し、着替えも手伝うし、部屋で夕食、朝食も提供するのが普通。部屋に案内し設備の説明をするだけで、客のプライバシーに立ち入らないホテルとの大きな違いだ。

◇料理自動搬送システムを導入し企業内保育所を設置

加賀屋は自社で行うサービスを、当たり前のことを当たり前に行う「正確性」とお客様の立場に立って「ホスピタリティー」の心で接することと定義し、それを実現させるための企業努力を続けると経営理念でうたっている。その取り組みがおもてなしで、目指しているのは「宿泊客が求めていることを、求められる前に提供することだ。

そのための努力の1つが料理自動搬送システムの導入だ。1981年、12階建ての新館をオープンさせた際に2階にある調理場から、客室のある各フロアに配置されたパントリー(配膳室)までを機械化した。これで客室係が料理を運ぶ手間を大幅に減らすことに成功した。結果として、客室係は重労働から解放され、その分宿泊客に接する時間も増えた。

もう一つは86年に企業内保育所「カンガルーハウス」を作ったことだ。おもてなしの最前線に立つ客室係は女性。子どもを持った女性が安心して働けるよう加賀屋の本館から徒歩3分の場所に8階建ての母子寮を作った。

◇おもてなしを台湾に“輸出”

加賀屋は10年12月、台湾を代表する台湾北投温泉に、現地資本と合弁で「日勝生加賀屋」(台北市)をオープンした。加賀屋の施設、備品や和室などのハードはもちろん、ホスピタリティー精神といったソフトも能登から台湾に”輸出”した。

台湾から10人の研修生を受け入れて、半年間加賀屋で客室係の基本を教え込んだ。「70人募集したところ300人が応募してきた。彼女らに着物を着せ、正座も覚えてもらった」(小田相談役)。台湾でも加賀屋の流儀を踏襲している。

加賀屋は今年も旅行新聞社の主催する「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」の総合部門で一位を獲得した。36年連続だ。加賀屋のおもてなしへの評価が揺るぎないことを示した。ぜひ一度世界の旅行者の評価を聞きたい。

 

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