試写会『セールスマン』

 

 

濃密な心理サスペンスの傑作

 

ある夜の闖入者-たどり着いた真実は、憎悪か、それとも愛か-。

 

作品名:『セールスマン』
監督・脚本:アスガ-・ファルハディ監督
出演:シャハブ・ホセイニ
タラネ・アリドゥスティ
2016年イラン・フランス映画/124分/ペルシャ語
2017年6月9日試写会&会見@日本記者クラブ
6月10日(土)Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

 

全く事前知識なしで見た映画だった。物語を重層的に響かせるアーサー・ミラーの戯曲『セールスマンの死』とはどういう作品だったかもよく知らなかった。劇中劇の持つ意味も分からないまま物語は進展。ある夜、闖入者の侵入で事件が明るみに出たことで、私も事件の真相に直面した。

「教師エマッドとその妻ラナは、小さな劇団に所属し、俳優としても活動している。『セールスマンの死』の初日を迎えた日、引っ越して間もない自宅でラナが侵入者に襲われてしまう。犯人を捕まえたい夫と、表沙汰にしたくない妻の感情はすれ違い始める。やがて犯人は前の住人だった女性と関係がある人物だとわかるが・・・その行く手には、彼らの人生をさらに揺るがす意外な真実が待ち受けていた-。」(あらすじ)

せめてこれだけでも事前に知っていれば、筋をつかむのがもっと楽だったはずだ。事前にパンフレットをもらっていたのに、読まなかった。物語についていくのに苦労した。分かったのは途中からだった。

2017年の第89回アカデミー賞は「ムーンライト」が大逆転で作品賞を受賞したことで話題になったが、受賞は監督賞、主演男優賞、主演女優賞など24作品に上る。その中の一つが外国語映画賞で、アスガ-・ファルハディ監督・脚本は『別離』で既に受賞しており、今回2度目の受賞となった。第69回カンヌ国際映画祭(2016)で脚本賞と男優賞も受賞している。

イラン人である主演女優のタラネ・アリドゥスティは、外国語映画賞にノミネートされた2日後の1月26日、自身のツイッターで、トランプ米政権のイスラム国家7カ国入国制限命令に抗議して授賞式のボイコットを表明。同29日には監督も「不公平な状況に抗議をし、さらなる国家間の分断をもたらさないことを望む」と追随した。

2月25日には外国語映画賞にノミネートされた他4カ国の監督らと異例の共同声明を発表。「誰が受賞するかにかかわらず、私たちは国境という考えを拒みます」と宣言した。同26日にはイスラム教徒でもあるロンドン市長のサディク・カーン氏が抗議表明の無料上映会を開催した。

そして同日、『セールスマン』はロサンゼルスで外国語映画賞を受賞した

 

タラネ・アリドゥスティ氏は1984年1月12日、イランのテヘラン生まれ。17歳でラスール・サドレアメリ監督作『私は15歳』で女優のキャリアをスタート。15歳の未婚の母を演じてロカルノ国際映画祭で主演女優賞を受賞した。

アスガ―・ファルハディ監督とは『美しい都市』(2004)『火祭り』(2006)『彼女が消えた浜辺』(2009)でも組んでおり、本作が4本目の出演作となる。また、ニコール・クラウス著『ハウス・オブ・ラブ』やアリス・マンロー著『My Mother’s Dream』を英語からペルシャ語に翻訳するなど幅広く活躍している。

 

会見するタラネさん

 

ポーズを取るタラネさん

 

公開を記念して初来日したタラネ・アリドゥスティさんは会見で、イラン女性の社会的立場について、「イラン人女優として来日したのは私が初めてのようだが、他の国へはよく行っており、自分で映画を撮っている女性もいる。社会的にも活躍している」と指摘した。

本作品が性的暴行問題を扱っていることについて、「性的暴行はグローバルな問題だ。性的暴行を受けるのは女性のせいではない。このことを男性を含め皆がしっかり理解していない。女性がそうした被害に遭うと口にできない。警察などにも話をしたくない。それは気持ちの問題だ。それを見抜かないのでは傷は深まる一方だ。文化的に恥になる(いう考え方)を直していく必要がある。オープンにして考え方を変えていく必要がある」と述べた。

 

 

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