「栄養失調」の研究から「白肝」を作出する

 

家庭の中の農学

 

第52回東京大学農学部公開セミナーが6月24日(土)、農学部の一条ホール(文京区弥生)で開かれた。テーマは「家庭のなかの農学」。プログラムは3本で、「アミノ酸シグナルを利用して高品質食資源を開発する」(応用動物科学専攻・高橋信一郎准教授)は面白かった。

アミノ酸は生体の構成物質として利用されている一方、代謝などを制御するシグナル分子としても機能している。例えば、動物が全アミノ酸量(窒素量)が不足した食餌(量の不足した食餌)や、特定の必須アミノ酸が要求量に達していない栄養価の低い食餌(質が低下した食餌)を摂取していると、これが情報となり、タンパク質同化が抑制されたり、タンパク質異化が促進される。このような情報を「アミノ酸シグナル」と呼んでいる。

つまり、量が不足した食餌や質が低下した食餌を摂取した動物では、アミノ酸シグナルの変動により、タンパク質代謝が制御される。さらに、この代謝活性の抑制により、エネルギー必要量が減少し、平常通り摂取されているために過剰となるエネルギー源は肝臓や筋肉、脂肪組織に取り込まれ、脂肪として蓄積され、その結果、正常な血糖値を維持しているわけだ。

一方、筋萎縮が刺激となって、筋衛星細胞や脂肪細胞へ分化、これが成熟して脂質を蓄積するなどの結果も明らかになっている。このような一連の機構を介して、アミノ酸シグナルの変動に応答しえ、臓器特異的に脂肪蓄積が起こっていると推定されている。

高橋准教授のチームは、食餌タンパク質の量(窒素量)や質(栄養価)、給餌のタイミングを調節することによって、脂肪を蓄積する技術を確立することを目指している。

具体的にはこれらを利用して、①脂肪交雑したジューシーな豚肉を安定供給する技術②ブロイラー^を用いてフォアグラのようなレバーを安定供給する技術③天然魚肉のような味の用祝魚肉を生産する技術-の開発など高品質食資源の開発技術の確立を目指している。

農水省農林水産技術会議の食品産業科学技術研究推進事業委託事業(平成22~26年度)として実施された。知の集積と活用の場の研究開発モデル事業などの助成も受けている。

「クワシオルコル」(英・仏語Kwashiorukor)はタンパク質の欠乏による重症の栄養失調。これは線虫からほ乳類に至る動物では必ず起こる。この発生機能を利用することによって、高橋伸一郎准教授のチームは魚、鳥、豚などのいろんな臓器への脂肪蓄積量を調節し、これらが高品質食資源になることを見つけた。

肝臓または筋肉への脂肪蓄積を起こすモデル動物の作成(イメージ図)

 

    (「イノベーション創出基礎的研究推進事業」(農業・食品産業技術総合研究機構)資料から)

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