山から木が出てこないのは「インフラ未整備」のため
NPO農都会議主催のバイオマスWG「林業技術の革新」を聞いた。国内では大型を中心としたバイオマス発電所の建設・計画が目白押しだが、これを補うのは過半が輸入だ。
日本の山々には放置された残材や未利用材がたくさんあり、利用の活性化が迫られている。山には木がたくさんあるのに、なぜ出てこないのか。本質的な議論が展開された。
3人のパネラーの中で特に面白かったのは三井物産フォレスト企画業務部長の吉田正樹氏。三井物産は日本国内74カ所で4万4000ヘクタールの森林を保有し、三井物産フォレストが山林管理を受託している。つまり社有林を管理し、21人の現業社員(チェーンソーをもって木を切ったり、下刈りをしたり、ハーベスターに乗っている)が山林用の苗木生産から丸太販売までを実施している。一般社員を含めた合計社員は67名。
日本の森林面積は約3730万haの国土の3分の2に当たる約2510万ha。その4万4000haは国土面積の千分の1(0.1%)の広さ。新幹線に乗って線路の両側100mが社有林だとすれば、どのような長さになるかと言えば、北海道の函館から熊本の水俣までの土地になる。
面積の8割が北海道にあるので、民間の持つ森林としては王子製紙19万ha、日本製紙9万ha、住友林業4万6000haに次ぐ日本4番目だ。
米国最大の森林企業であるウェアーハウザー(Weyerhaeuser)。川上の木材生産から川中の製材工場まで手掛けている大手企業。本社ワシントン州シアトル。所有面積は520万ha。国内山林保有企業トップ25社の合計は52万haだから、その10倍を1社で保有する。国土も広いが、「収益を生む基幹産業と捉えられている」(吉田氏)「先進国で林業でもうけない、黒字を達成できない国は日本くらいのものだ」(同)という。
商社が山林を取得した経緯について、旧三井物産が1911年に取得を開始した。炭鉱の坑木用が始まりだとか。戦前、北海道に東洋一野製材工場も確立され、川上から川下までサプライチェーンが確立した。
長期に社有林を保有することを2006年の経営会議で決定した。持続可能な森林の証しとして世界の森林認証FSCと日本の認証であるSGECの両方を三井物産は取得している。
平成25年度森林・林業白書によれば、日本の森林蓄積は人工林を中心に年間約1億㎥蓄積増加。木材資源を余すこと無く使い切る「カスケード利用」を行っている。年間5万~6万㎥伐採し、仕入れ材を含め9万~10万㎥の丸太を当社で取り扱っている。ほとんどが北海道産で、内地はその端数みたいな感じ。
北海道では今年4月28日に「苫小牧バイオマス発電所」(5900KW=5.9MW)が稼働した。燃料の木質チップは北海道に約3万5000ha保有する林地未利用木材で全量を賄う。三井物産が40%を出資し、残りは地元の林業事業体イワクラ、住友林業、北海道ガスが各20%を出資する。
北海道は林業先進地として植える、育てる、切る、使うという林業のサイクルが回っている中で、バイオマス発電の出現でA材、B材、C材、D材といったカスケード利用が進んた。北海道では消費の底上げが進んだが、一方内地の山林ではどうなのか。
付加価値の推移を見ると、昭和55年(1980)は木材がピークだった頃。山元立木価格は2万2000円、丸太価格は3万8000円、製材品価格は6万8000円。それが28年後の平成20年(2008)には13%の3100円、30%の1万1000円、61%の4万2000円となっている。山元価格の減少が著しい。
吉田氏は、「もう少し山元業者にもうけさせてくれませんか」「全部、山元にしわ寄せが来ている。丸太を出す意欲もなくしてしまって、そのまま膝を抱えているのが全国的な零細な山林所有者」と指摘した。
山元としては付加価値を上げて売り上げを伸ばすか、コストを下げる対応しかない。
蓄積が年間1億㎥も増えているのに、なぜ山から木が出ないのか。「山元価格の減少からみれば、経済合理性がないだけ。生産コストを下げ、販売代金を上げていくしかないが、この数式がうまくいかない」。これが結論だ。
バイオマス用にまで経費を掛ける余裕は山元にはない。内地では林内に放置している。そのままにしてある。取りに来てくれ。山渡しだ。
基本のインフラ。山からの搬出林道の整備だ。利用期に差し掛かった山林を積極的に伐採して資源の循環を図ろうという気持ちはあるが、「広域基幹林道」(延長約20km)。全通していない。プラスαの材が出ていかない。
林業を成長産業としたいならば、地域活性化に資するインフラの後押しがなければならない。一企業で賄うコストではない。バイオマス発電所に国産材の供給を続けるのは容易ではない。1つの県に5MWでもできると、全県一丸となってCD材を集荷しなければならない。いくつもできると一体どのように集荷するのか。何で山から出てこないのかと言われる。
山側と発電所側の需給のアンバランス解消するためにも、自分たちの伐採量は一瞬で燃えるようなものでしかない。地域を含めたインフラ整備が安定供給体制の構築の中で必要だ。
一度いまの状況がずっと続いて、もしかして国産材のcd材が需要開拓できなくて、輸入燃料にシフトできると、これを盛り返す体力はないのではないか。機械も集材方法もそういうふうなことのできる大規模なインフラ整備が前提ではないか。
山林を評価する言葉に「出しのいい山と出のいい山」がある。「出しのい山」というのはインフラがいい。集運材コストが低い。しかし、それは50年くらいで無くなる。出しの悪い山を開拓していかなければだめだ。「出が良い」というのは成長が良い。両方兼ね備えているのがベスト。
広域林道のような基幹となる林道が開設されていくと、その周辺の集荷地域というのがくすんでいる地域からバラ色に変わる。民間が林道を付けてくれた例を見た。それによって周辺地域が活性化した。「風力発電の資材運搬道」だった。山元は大歓迎だ。自分でできないのをよそのお金でできる。羨まし限りだ。
川上は搬出コストの削減と付加価値の増大に努力していく。