『詩人なんて呼ばれて』

 

 

会場からの質問に答える谷川俊太郎氏

 

ゲスト:谷川俊太郎氏
テーマ:著者と語る『詩人なんて呼ばれて』
語り手:谷川俊太郎
聞き手:尾崎真理子読売新聞編集委員

 

「日本でもっとも有名な、ただ1人の職業詩人」谷川俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)氏が12月15日、日本記者クラブで会見した。1931年12月15日生まれ。この日が誕生日で86歳だった。

 

朗読する谷川俊太郎氏

 

読売新聞の編集委員、尾崎真理子氏が3年ごしのロング・インタビューを1冊の本にした。本書には全2500作から厳選した詩20編と書き下ろし1編が収められている。語り手と聞き手が会場でさらに話し合い、谷川氏による詩の朗読も行われた。

対談の中で彼の印象的な言葉を拾った。

・国民詩人という言い方は僕全然わからない。どういう人が国民詩人なんでしょうね。(尾崎=誰もが名前を知っていて、詩で食べている人)。詩だけでは食べてませんけどね。名前は知っているけど、読んでない人が大部分ですね。

・(石原吉郎さんを発見されたのは谷川さんですね。谷川さんのすごいところはまっさらな、詩の言葉だけで背景も何もわからない時点でこの人はすごいと言い切られている)。そうお?そうかなあ。石原さんの詩を見てびっくりした。これこそ詩だという言葉だった。あとになってシベリア体験などがあったことを知って余計感動したんですね。

・あいつは親父がちょっとえらくてインテリでさあ、いいとこのぼんぼんだからという風に僕はとっていますけど。(父親は哲学者で法政大学総長だった谷川徹三氏)

・(詩の評価はどれだけ詩集が売れるかとか、どれだけ批評が出るだとかじゃなくて、10年、20年、50年、60年たっても読み継がれているという1点だけに絞られてきている。)『二十億光年の孤独』(1952年、21歳当時発表した第1詩集)は時代遅れで、今は137億光年まで宇宙は大きくなってきている。なんでああいう本がいまだに読まれるのか良くわからないですね。

・中国の詩の朗読会というのは日本と違うのはすごくハデなんですよ。日本は何となく暗い感じがするが、向こうは詩と詩の間にどんちゃん、どんちゃん音楽が入るわけで、何か居心地が悪い感じ。一種スペキュレクタクル的なものになっている。

・(谷川さんは昨年11月に香港国際詩歌之夜2017に出席された・・) 中国人のエネルギーはすごいですね。(行列はしない)ワッとその辺に群がっちゃう。誰にサインしていいのか分からない。(すごい活力がありますね)

・(日本の若い小説家の、この雰囲気は曖昧すぎて伝わらないと思うものほど人気があるんですね。筋書きの面白さということではなく、ちょっとぼんやりした不安みたいなものが良く伝わっているのかなと思うことすらある) コミックスなどのようにビジュアルがもう圧倒的に国際的に優位になっているんでしょう。言語の役割というのが一種特別なものになりつつあるという印象があるんですよ。ビジュアルである程度伝わってしまうようにみんな思っているんじゃないか。ビジュアルの優勢を今を見ていると、言語的な表現が要らなくなるような形で、ビジュアルのほうが先行している怖さがある。(余白とか余韻とかが消されてしまって・・) そんな感じしますね。

・(日本語という言葉についていろんな実験をされてきた。詩人なんですけど、日本語のプロだった)生活に必要だったんですね。詩だけを好きになれていては生活が成り立たない。注文があれば自分ができることは全部引き受けてやっていかなければ。これがまず基本なんですね。絵本のテキストとか映画の脚本とか、自分の問題意識として出てくる。詩以外の日本語と接して、そこでちょっと苦労したことが詩にちゃんと返ってきて詩を豊かにしているんじゃないか。

・(谷川さんのお仕事は『鉄腕アトム』の主題歌の作詞から、現代詩でごりごりの政治的にも理論的にも高度の水準を目指している人々にもおーっと思われるような実験の両極をやってこられたところがすごい) 手塚治虫さんから直接、電話がかかってきて、「主題歌を書いてくれないか」と。言葉に詰まってくると、このヘン、「ラララ」でいいんじゃないの、みたいなことで適当。でも、「ラララ」で歌が生きたのは事実で、あの経験は僕にとっても、強い(この項『詩人なんて呼ばれて』141ページ)。

・(Q詩人は食えているのか?)職業事典に詩人という項はないんです。著述業にしなければいけない。詩の原稿料は波が激しくて、同人雑誌だとほとんどゼロ、1000円くらい。(逆に)コマーシャルメッセージに近いようなものは一編100万円というケースもある。これが月に1編もないから、詩だけで食うというのは今でも大変じゃないかな。ただ私は今はブランドになっているんですね。谷川ブランド。私の詩を読んでなくても、名前で商売できている。自分では気にいってないですけど。まあそういう世の中だなという感じですね。

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