「つぶせば出す」をめぐる対立=日大アメフト部

 

加害者の宮川泰介氏

 

 

アメリカンフットボールの試合で悪質な反則行為をして関西学院大学の選手を負傷させた日本大の宮川泰介選手(20)が22日、日本記者クラブで記者会見し、試合前日にコーチを通じて内田正人前監督(19日付で辞任)から「相手のクォーターバック(QB)を1プレー目でつぶせば(試合に)出してやる」と指示を受けたと説明した。

宮川選手は会見の冒頭、負傷させた関学大の選手らに対し「深く反省しております。申し訳ありませんでした」と謝罪。「事実を明らかにすることが償いの第1歩」と述べた。

宮川選手には多摩パブリック法律事務所(東京都立川市)が同席したが、これまで同クラブでは会場内での待機は認めたものの、壇上での同席は断ってきた。しかし、今回は選手が20歳になったばかりの学生であることも考慮し、今回限りとして認めた。

宮川選手は試合の3日前から「やる気が足りない」などとして試合から外されており、試合前日にコーチから「監督におまえをどうしたら試合に出せるか聞いたら、相手のQBを1プレー目でつぶせば出してやる」と聞いた。

「相手のQBがケガをして秋の試合に出られなかったら得だろう」との発言もあり、「ケガをさせろ」という意味だと理解したという。

「ここでやらなければ後がない」と考え、試合当日の5月6日、内田前監督に「つぶしにいくんで使ってください」と訴えたところ、前監督は「やらなきゃ意味ないよ」と発言。コーチからも「できませんでしたじゃ、済まされないぞ」と念を押された。

宮川選手は試合の1プレー目、パスを投じた後で無防備になった関学大のQBに背後から激しくタックル。計3回の反則で退場となった。

試合終了後、選手らが集まった場で前監督から「(反則行為は)自分がやらせた。相手のことは考える必要はない」との話があったという。(靑字は日経5月23日付朝刊から引用)

宮川選手は20歳の学生。大学スポーツの監督の権力は絶大で、しかも内田正人前監督の地位はナンバー2。彼を擁護する部内の選手やコーチは誰もおらず、事実上1人で会見した。

日本大や日大アメフト部の対応は遅く、宮川選手の会見を受けた後の22日も「コーチの一部発言を事実と認めたが、反則行為を指示したものではない」と否定した。「誤解を招いたとすれば、言葉足らずだったと思う」としている。

日大の内田正人前監督と井上奨コーチ23日夜会見し、内田前監督は反則行為について意図的な指示を否定した。

井上コーチは「つぶしてこい」などの発言をしたことを認めたが、ケガさせる目的はなかったとし、宮川選手の説明に一部反論した。

どちらが正しいかは「言った言わない」問題でもあり、「つぶしてこい」と言われたら、20歳の学生がそれをそのまま受け止めたとしてもおかしくない。日大側が「受け止め方に言葉の乖離があった」と反論したとしても、「コミュニケーション不足」を指摘されても仕方がない。

20歳の選手と絶大な権力を持つ監督・コーチの対立は学生スポーツ界の悲しい現実だ。監督が言葉に反論できる人がどれだけいるのだろうか。

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