米朝首脳会談は「歴史的な会談」

 

慶応義塾大学法学部の礒﨑敦仁准教授

 

ゲスト:慶応義塾大学法学部の礒﨑敦仁(いそざき・あつひと)准教授
テーマ:朝鮮半島の今を知る⑧
2018年6月7日@日本記者クラブ

 

慶応義塾大学法学部の礒﨑敦仁准教授が来週に迫った歴史的な米朝首脳会談を前に、米国と北朝鮮について見解を表明した。

・北朝鮮は戦略性を持っている。論理は日本とかけ離れてはおり、理解しずらいことは多々あるものの、今年9月で建国70周年を迎える国がこの体制をいかに維持すべきかという点に全力を尽くし、彼らなりの合理的な判断をもってやってきた。だからこそ北朝鮮という体制は崩壊していない。

・北朝鮮を希望的観測で甘く見ているとろくなことにならない。甘くみていたからこそ、北朝鮮は核を開発してしまった側面がある。これは忘れてはならない。

・一方で北朝鮮が合理的な判断をしていると彼らが考えていたとしても、それがすべて彼らの思うとおりにいくかとなると、決してそうではない。国際環境で予想外のことが起きうる。計算ミスは起きうる。

今年3月8日にトランプ大統領が米朝首脳会談にゴーサインを出したことは明確に北朝鮮にとってはサプライズだった。労働新聞の論調の分析に力を置いているが、論調が大きく変わった。キーワードとなる言葉が出てこなくなった。

・トランプ大統領への名指し批判が3月11日付の労働新聞から一切なくなった。トランプ大統領と米朝首脳会談をすることに北朝鮮が用意をしていなかったことを示す。今年の1月1日の新年のスピーチで明確の対話を呼び掛けており、韓国当局への批判は少なくなり、もしくはなくなっている。

・米朝首脳会談を想定していたならば1月、2月頃からトランプ名指し批判を減らしておくべきはずだが、しかしそうではない。3月上旬直前まで批判を続け、ゴーサインを出した途端にトランプ批判がなくなった。

・北朝鮮のもう一つのサプライズはトランプ大統領が5月24日に米朝首脳会談を中止すると表明したことだ。外務次官ではあったが、個人の声明、個人の談話という形で米国を批判したが、トランプ政権には通じなかった。

・北朝鮮は70年間政権交代のないまま、大きな人事異動がないまま、築き上げられて、物事の発想が明確になっている。一番重要なのは金正恩の”お言葉”、国外に対してはそれに準じる政府声明が最も大切。1年に1回出るか出ないか。滅多にない。次は外務省声明、外務省談話・・・。朝鮮中央通信の報道、個人の談話。こうした位置づけで発信している。

・昨年夏には「グアム方面に4発のミサイルを撃ってやる」、「太平洋上で水爆実験をしてやる」、「日本を海に沈めてやる」こんなとんでもない発言がたくさんでてきたが、これはいずれも個人の談話、朝鮮中央通信の報道という出し方をしてくる。政府声明で出すときは注意しているといわざるを得ない。

・しかし、日本では北朝鮮に対する関心があまりにも高いために、”逃げ道”を作りながらの情報であっても、内容がセンセーショナルなものだから大きく報道されてしまう。

・政府声明で言えば、2016年1月6日に政府声明を出した。「政府の核抑止力を質量ともに確実に強化していく」。核実験、ミサイル実験を加速させる。1年10カ月間、暴走しているのではないかと思われるほどたくさんのミサイルが発射された。

・昨年の11月29日の政府声明。「3回目のICBM実験を成功させた」。中身は「国家核戦力完成の歴史的対応が実現された」。北朝鮮なりの勝利宣言。ミサイル実験は打ち止め。彼らはこういう論理でもって物事を発信している。北朝鮮の論調を読み解く者にとっては「そろそろ対話に出てくる」。大きな方向性を打ち出した。

・対話がいつ呼び掛けられるかというタイミング、どのくらいのトーンでくるのか。私のような研究者は無理。大きな方向性を読み解くには役に立つが、万能ではない。

・核開発に一つの区切りを付け、昨年9月以降、経済に集中した。制裁が厳しい中、対話に出てくるんではないか。状況証拠。北朝鮮が大きな取引をしようとしている状況証拠がぽろぽろと見つかっている。

米朝首脳会談はどういう合意になろうとも歴史的な会談であることは間違いない。1回で決まるものなのか何回かやるのかは分からないが、大きな流れからすれば、歴史が動いている世界史的な動きである。

・北朝鮮のやることを疑わしく思うのは当然である。特に拉致問題で不誠実な対応をしてきた結果、北朝鮮がしてきたことを疑わし思うのは当然だが、なぜ今回史上初の米朝首脳会談をどうしてもやりたいと思ったのか。特使キムヨンチョル氏をニューヨーク、ワシントンに派遣してまで米朝首脳会談をしたのか。

・単にアメリカからの攻撃を避けるということであれば、韓国や中国の首脳と首脳会談を続けていれば、アメリカが攻撃してくる可能性は低まるでしょうし、必ずしも米朝首脳会談する必要はない。

・米朝首脳会談で34歳の若き指導者が大きな取引をしたいのではないか。超大国のアメリカは1973年に連絡事務所を作ったほか、1979年に中国と国交正常化。毛沢東が統治していた中国。1995年にベトナムと正常化、キューバとも3年前に国交正常化している。今回の動きは大きく見るならば国交正常化を見据えた動きであり、利益代表部を早々に作る動きになるのではないか。

・トランプ大統領という不確定要素がある。「北朝鮮を攻撃してやる」と言いながら、「北朝鮮の体制を保証する」とあっちに行ったり、こっちに行ったりする。「アメリカが・・してくれたら、何何をします」という条件説がよく付いている。

・「トランプ大統領が安易な妥協をすることなく完全な非核化という最後の目標まで粘れるか」中間選挙に勝つだけでなく、ノーベル平和賞をもらうだけではなく、非核化という短期の目標を粘れるかにかかっている。

・北朝鮮にとっては体制を温存する、現体制を護持するという目的を崩すことはないが、国内は柔軟に対応出来る体制だ。小泉元首相は北朝鮮に乗り込み、日本側も歩み寄る対話をすることによって拉致問題は政府のでっち上げだと言ってきた北朝鮮を謝罪に追い込み、5人を奪還した。こういう外交が求めらている。アメリカはどうするか。

・今の体制を返るつもりはない。温存するためにどういう取引をするか。小さな手段には目をつぶっていく。

・核は北朝鮮にとって体制を守るための最大の抑止力、手段であると考えている。核を持つことを目的化されているわけではなく、アメリカに攻撃されたら体制はもたない。中東諸国の教訓を言い、だから核を持たなければならないと核開発に邁進してきた。

・「核を持たなければアメリカにやられてしまう」と思い込んできた。私もそうだ。これまでになく強硬なトランプ大統領が誕生し、実際に爆撃するぞと何度も脅かし、シリアには実際に爆撃を加えている。こういった大統領があそこまで北朝鮮を追い込め、圧力・制裁をかけたにもかかわらず、北朝鮮は3回もICBM実験を成し遂げ、9月にも6回目の核実験をして自分なりにここまでは成し遂げたんだとい11月29日政府声明を出した。そこまで行ってから転換してきたことを考えると、1つの状況証拠ではないかと思う。

・北朝鮮はリビアやイラクとは違う。韓国と日本というアメリカの同盟国があり、韓国と日本を攻撃できるだけの力を持っている限り、アメリカの大統領は手出しができないはないか。

このことが昨年1年間である程度実証された。日本も人命に被害の出る事態は避けるべきだし、韓国としても戦争だけはやめてくれと必死にトランプ政権に訴え、これがトランプ大統領を止めた要因だ。北朝鮮はそう考えたのではないか。

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