「貿易でも米国につぶされた30年」斉藤惇氏

 

日本は確実に貧しくなったと語る斉藤惇CEO

 

ゲスト:斉藤惇元日本取引所グループCEO
テーマ:平成とは何だったのか⑭「バブルの崩壊と再生」
2018年12月4日@日本記者クラブ

斉藤惇(さいとう・あつし)元日本取引所グループCEOが「バブルの崩壊と再生」について語った。

・日本はバブルを作らされ、破壊されたあとも立ち直ることができない。デザインができない。

・規制緩和。市場が莫大に広がっていく。構造的インフレに入った。債券の先物とかオプション導入の張本人が私だ。あらゆる流動性のないモノを証券化して販売する。逆に言うと流動性を付ける。金や石油、最も流動性のない不動産などを証券化することによって流動性を付ける。

・そのバックはそこに正しい理論価格を付けることだった。米国にいたときに盛んにそれを教えられ、ディスカウントバリューの作り方、現在価値の計算、不動産のバリュエーション。不動産を借りている人が払う家賃を金利とする債券を作ったが、日本ではそういう理論が普及していなかった。あそこの土地がいくらだから、ここの土地はいくらだ、という路線価格ベースだった。

・日本のジャブジャブのお金が結果的にできたわけだが、それをジャブジャブに持っていたのは日本の生保。ザ生保が世界に通じた。東証の時価総額を並べられると、トップから30番目くらいまで日本の金融機関がずらり並んだ。世界を全く席巻する姿が見えた。

・いま同じような表を眺めると、27番目のほうにトヨタが1社ポンとあるだけで、日本の日も出てこない。ほとんどがアメリカ、ちょっと中国、スイス、韓国というのが時価総額トップ30の姿だ。

・英シティーではジャパンマネーが世界を席巻してしまうと恐怖感を持って語られ、米ウォール街でも「お前らの最終ターゲットは何だ。世界を支配したいのか」という質問をしていた。私は米国野村證券にいたが、一支店が1400億円も利益を出すことに、彼らは「何をこいつら(日本の金融機関は)やっているんだ」と日本を大変怖がっていた。

・メリル・リンチ本社ビルとかCMEビル(シカゴ)とかエクソンモービルなども証券化したし、東ドイツでさえホテルとして買うほど。「ジャパンマネー」一色だった。ロンドンのウオーターフロントは兆円単位の開発だったが、「日本のマネーが1兆円ほどほしい」といわれ、いい気になっていた。

・振り返って見ると、米国からの内需喚起政策、強烈な貿易規制、クリントン大統領を中心に数量規制をやり始めた。構造協議の前は自動車が160万台から230万になっていたのを再び180万台に規制された。これ以上輸出したらだめだと言われ、日本政府はこれを呑んだ。トヨタは賢いリアクションをやって、アメリカにでかい工場をどんどん作り、うまく対応した。

・日本から輸出しようとするものはみんなブロックされた。半導体も64Kビット当たりで米半導体業界がダンピングしていると言い出した。強烈な半導体交渉を始めた。NECや富士通が拠点になると勢いだったが、20%以上の輸出はだめ。その間に米半導体業界は日本で20%、30%とシェアを上げていく。ブッシュが使ったのはスーパー301条だから似てる。

・トランプが米国ファーストと言うと、「ひどい大統領だ」と言われるが、私は米大統領は初代からずっと米ファーストだと思う。米ファーストじゃないと思う方がおかしい。米国に立ち向かったら、真剣になってたたき潰しにくる。日本はその歴史を戦争に次いで今度は貿易で徹底的にあった。これが平成だと思う。

・海部首相が10年間で430兆円の投資計画を作ってこれがバブルスタートとなった。1994年に村山内閣が社会資本整備費として200兆円を積み上げた。10年と言えども、630兆円というとんでもない金額の内需喚起予算を立てて、これがジャブジャブこの辺に出てきた。これが平成の後半の結果になる。

・米国は輸入規制で米消費者を犠牲にして米メーカーを守った。しかし、GM以外は守ったために強くなれなかった。米半導体協会(SIA)が政府に訴えて日米半導体協定を結んだ。これが日本の今日のAI時代というか半導体時代

・東芝没落は経営ミスだが、フラッシュメモリを1984年に発明したのは東芝社員の舛岡富士夫氏。彼は「フラッシュメモリは将来のためである」と言ったが、彼を逆に左遷し東北大学に追いやった。その時に近づいたのがサムスンとインテルで「フラッシュメモリはすごい」。巨額の設備投資が必要だった。サムスンの大戦略商品になった。

・リチウムイオン二次電池も旭化成の吉野彰氏が開発されたものですし、QRコードはデンソーの原昌宏氏が開発したものだ。非常に残念なのは世界を席巻する商品はほとんどが日本人が開発したものだ。リチウムもパナソニックも頑張っているものの、中国に抜かれた。

・政治、経済、技術をベースにした世界的な渦が巻いて、最終的には政府間交渉が来るのだが、やむを得ない場面もあるんだが、ほとんど米国の主張を受け入れた。結果的に日本の技術をベースにする産業が育たなくて自らだんだん戦略を喪失していったのが平成の印象がある。

・米国はガルブレイスが予想した通りリーマン危機が起こったが、不正会計をやった。邦銀は相対的にひどい状況ではなかった。

・産業再生機構は国ではないが、「国だ」とすぐ折れる。「しようがないですね」。これをみて怖いなと思った。この切れ味を覚えると人間がだめになる。ひれ伏す。使命感がないと国のお金を易々と民間に使ってはならない。5年の時限立法。

・1兆円のクレジットを設定する。どこよりも低金利でうちから借りてくれと銀行は競争していた。それを投資してやった。利益が800億円程度出た。クレジットは使ったが、現金は使わなかった。国の機関としてこれほど利益が出たのは初めて。これは危ないなと思った。変な集まりの集団に変わってしまう。

・私の平成というもののイメージは世界を股にかけて激しい仕事をした。日本の位置づけがぐんぐん上がっていったが、背景は本当は地政学的な動きから出てきたオーバーフローしたキャッシュの行き所の処理であって、それが日本の銀行をヒットして幾つもの銀行は去らざるを得なくなった。その辺をしっかり読みながら次の政策を打てた企業とそうでない企業、あるいは日本自体がどういう構造の国にするかとデザインできていなかった。

・AIは大きく落ちるし、ロボットもドイツ、中国、アメリカに技術的にも抜かれ始めている。どういう時代が来るからどういう人材をどう育てるか。人口動態も誰でも分かっていた。アタリ氏が朝食会で「Japanese is foolish」と言った。日本の問題は何かと聞いたら人口問題だ。みんな言う。対策は言ったら、女性の担当大臣を作った。どういう政策があるのか。

・フランスには人口というのは力だというのがものすごくある。国力減退の第一歩。教育機会とか援助。子どもを促進するための税制度を作っている。3人作れば、所得税払わなくていい。結婚をしなくても同棲をして3人くらい子ども育てる。そういう人がたくさんいる。バースレートは2ぐらい。正式結婚で子ども3人は意外に少ない。30年から40年かかる。そういう計画が日本にはない。常にパッチワークだ。保育園作っても子どもは増えないぞ。深読みの大きな政策が欠けた平成であったかな。

・70歳定年でも30年あるいは35年の年金生活。危ない。将来をキャリーオーバーした平成だったかなという感想。

・野村はかなり積極的にグローバル展開した。ny支店も20人くらいの日本人が2000人の米国人を雇っていた。ああいうことがなかりせば、ひょっとしたらひょっとしたかな。ウォール街で相当の位置づけになったかもしれない。ゴールドマンといい勝負していた。互角勝負。別の事件で縮小せざるを得なかったが、世界に旗を立てるのが野村の夢だった。失敗した。誇れるものはほとんどない。再生機構の社員は気持ち良かった。ピカピカの人材が必死で働く。「ここで日本が沈んだら日本はおしまいだ」が使命だった。不良債権が8%あったが、これを1%に減らそうという使命感だった。

・日本が取り組むべきだったのはやはり人口問題。フラットにするということと教育の形。縦割り的な大学ではとても勝てない。グループとして国家として勝てない。アジアの優秀な生徒は東京に来る魅力ある制度が必要だった。ハーバード大学の教授は卒業生が20%程度。世界から良い先生を引っ張ってくる。大学のレベルを上げる競争をしている。ハーバード大を出ているから同大の先生に自動的にはなれない。日本の一流の大学はほとんどが卒業生で、しかも縦割りだ。横の連絡がない。これでは勝てない。リベラル、オープンにする。

・純粋に日本人だけでやるのもいいが、自分を守ってくれるのはパスポートだけ。私を守ってくれるのは菊の旅券しかない。どの国だってそうだ。現実を知って、深い発想をしないと言葉で遊んでいることがこの国は今も多い。痛みの伴う、しかし将来は改革になるかもしれない政策は非常に不人気だ。本当の意味での国家計画を立てていかなければならないと思う。

・利益性がない。何を比べても米国に追いつかない。大分良くなってきたが、企業経営を何のためにやっているのか。社会のためという経営者が多く、リスペクトされるが、社会のためなら利益を出さなければだめだ。税金もたくさん納め、人もたくさん採用するのが社会のため。企業を経営する人の倫理だ。利益もあまり、銀行からお金を借りてリスクマネーかノンリスクマネーかも分からない状況でマーケットシェアだけ取りに行くロープロフィットマージンの経営が結局株も上げなかった。あれは株高は株屋がやるものだとリンケージが切れている。

・株というのはインディケーター。完全に指数なんで長期的にみたら企業の利益の正しい姿を表していく。ですから我々が舞い上がったときは3万8000円、総額600兆円。ny証券市場は470兆円。今相手は3000兆円。日本はまだ700兆円。この差だ。これだけ日本は相対的に米国あるいは世界に対して貧しくなっている。決して豊かになっていない。貧しさという点では本当にみんな思うほど豊かではない。若者の給料が200万円、300万円だが、米国ではちょっとした人でも大学を卒業しただけで1000万円単位。そういう時代になっているのに、利益を出すことを卑下する感覚が強かった。配当を上げる。結果的に利益が出ないから賃金も上がらない。

・マクロ的にどーんと伸びていくときにはグループでうまくいった。ある程度まで達して個別利益の段階に入ったときに幹をなくしてしまった。皮肉なことに米国の工場の生産性改善の理論はトヨタだ。トヨタの看板方式を理論化している。大学や識者がそう言っている。アマゾンのビジネスモデルは典型的な日本が昔やったシェア主義。ものすごい借金をしてもうからなくてもシェアを取りに行く。非常に計画的にやったために競争相手が競争できないくらいまでシェアを抑えた。

・工業技術と同じように経営技術も意外と日本にもあった。アメリカの場合はビジネススクールの教授とかコンサルタントファームやプライベートファンドあたりが一緒になって理論化して普遍化する。トヨタの看板方式は自動車生産だけでなくリテールや国の経営などありとあらゆるところに使われている。これがアメリカの工場の生産性を上げている。

・一番普遍化しているのは日本ではトヨタしかなくて、アメリカは日本から学ぶものはないという言い方をしている。オリジナルはそういうこと。非常に残念。国内景気的に見ると、もっと利益を追わないといけないと思う。

・安倍さんは現実的な政治という点では非常にポイントを突いた政策を出している。しかし既得権益勢力に打ち返されて忸怩たるものがあるだろう。医療全体では上がる。そのために設計が必要だ。

・日本人はコンピューターとかAIとか言っているが、一番向かないじゃないか。例えば住所。東京都中央区内幸町1丁目1番地を1-1-1と書いたりしている。こんな国はない。外国から見ると、非常に非効率国民だ。不可思議に思う。数字だけでなくローマ字や漢字が入る。機械のスピードが違う。交通信号もずっと青信号。日本はガチャガチャと詰まる。これで交通事故がないんだよ。走れないようにすることで交通事故を減らす。交通事故のない警察官の点数は高い。どうやって車をガンガン走らせないか。これが警察官のアイデア。ジグザグジグザグ。ものすごく不経済だ。

・シカゴの高速では詰まる。何をやるかと言うと、こっちへこいと側道を走らせる。日本はおまわりさんは隠れて捕まえる。こういうことなんですよ。これがいろんなことにある。日本の制度、行政、考え方。既得権益にそういうものが出てくる。全体を大きくするためにはどうしたらいいか。論議してプランを作っておく。それぞれに任せると縦割りがひどい。おまわりさんは中央区の点数。そうじゃない。何時から何時までは車が混むので道を流してやることをきちっと決める。そういうことをやっていく。

・AIの時代だ。数字で決まっている。0-1,0-1の数字でカクカク。この数字に乗らないと非常に不合理だ。それが経営なんかにも現れている。

・M&Aは日本人がトップじゃなければいけないという考え方。これ無理ですよ。マーケット自体が落ちている中で、大きくなろうとすれば世界しかない。そうしたら世界に通用する会社を作らないといけない。日本の会社に入ったら日本ファンになるから日本の文化はあっていいが、経営者のラショナル(理にかなった)な能力というのは正直いうと、彼らが勝っている。人員整理を行った場合、マスコミは大騒ぎする。9000人の整理をしなかったらあの会社は潰れている。潰れていたら何万人と失業している。9000人を整理してあと何万人と採用している。その効果をなぜ評価しないのか。感覚がおかしい。

・M&Aに対するバリュエーションが全然違う。ちゃんと教えないとだめだと思う。優秀な経営者はたくさんいるが、グローバルに出て行った場合、株主からみればCEOも使用人。優秀な連中を使えばいい。こちら株主で。プライドを持ってしっかりやれ。やれなかったらお前は首だと使っていけばいい。

・もっと早い段階で人口対策や教育対策をやっていれば別だが、やっていない。セカンドベストをやるしかない。グローバルM&A。そして世界の人材を持ってきて会社をプロフィタブルな組織に変えると社会にもいい面がスピルオーバーするはずだ。

 

 

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