金属3Ⅾプリンタで成功したGEの秘訣
第1回次世代3Dプリンタ展が2月6日、東京ビッグサイトで開催され、GE アディティブ日本統括責任者のトーマス・パン氏が金属3Dプリンタ成功の秘訣「アディティブ・マインドセット」と題して話をした。
・GEの創立者はトーマス・エジソン。彼は1万回も失敗しているが、なぜそんなに失敗したのかと聞かれ、「私は失敗していない。9999回のテストしたものが動かないことが分かっただけだ」と答えた。これこそマインドセットの1つ。
・GEの産業ビジネスの柱は①エネルギー供給②人々を安全に運ぶ③人々の生命を救う-の3つ。将来に向けた成功要素にはアディティブ、デジタル、研究開発、グローバル・オペレーション、キャピタルの5つだが、最初に取り上げ重要視しているのがアディティブ技術だ。
・アディティブのマーケットは今後急速な成長が見込まれる。2017年度比21%増の約73億ドル(約8000億円)。金属アディティブは77%成長。樹脂対金属は2対1(2014年)から1対1(2027年)へ。金属アディティブの年平均成長率は10年間で29%増。アディティブへの総投資額は2017年まで4年間で130億ドルだったが、今後10年間で2800億ドル(約30兆円)に上る見通し。
・アディティブ技術は新規技術で、イノベーションから生まれる。GEは世界を対象に「イノベーション・バロメーター」を調査した結果、3Dプリンティングがビジネスに効果を与えると答えた企業幹部が世界で63%だったのに対し、日本は36%にすぎなかった。「期待が低い」。これが日本の現状のマインドセットではないか。
・面白さは感じているが、それが実際にビジネスに影響を与えるかどうかについては日本ではまだ意識が低い。
・金属3Dプリンティングはレーザー式(粉末材料)、電子ビーム式(溶接や形成の難しい難削合金)、バインダージェット式(高速造形スピード&低単価パーツ)などいろんな手法があるが、レーザー式と電子ビーム式が金属3Dプリンタのすべてを占めている。
・金属3Dプリンティングの面白いところは通常加工がしにくい、鋳造できてもなかなか形成しにくい、精度を出しにくいなどいろんな課題のある素材が粉末を使って作ることによってたくさん作れること。樹脂の金属3Dプリンタとは全く位置づけを持っている。
・複雑な金属。組成、ドメインなどを含めて局所的にエネルギーを与える。この手法によってさまざまなことができる。なぜ使うのか。
・スピードが速くなる。何でもいいわけではない。画期的な製品&パフォーマンスも正しい製品を選ばなければ画期的にならない。何を作っても3dプリンティングが速くなるということは絶対ない。設計・デザインに重点が置かれる技術である。
・またサプライチェーン効果も大きい。フローが変るため。後述。
・GEアディティブでアディティブを使いだしたのは2009年から2010年。エアバスとボーイング用のLEAPエンジンの燃料ノズル開発に苦労していた。3Ⅾプリンティングが台頭し始めているころでそれを使ってみたら開発ができた。すぐに量産に進むが、当時のマインドセットは「開発には使うよ。けれど製造はしないよ」。
・それでいろいろトライしたができなかった。モーリス・テクノロジー社と一緒に量産に道筋がつくかどうかをトライした。道筋がついた瞬間に同社を買収しアディティブテクノロジーセンターを構築した。LEAPLジェットエンジン燃料ノズルのFA認証を取得し2016年から量産をスタートさせている。
・社内のマインドセットがどんどん変わってきた。これはできないか、あれはできないか。量産できるじゃないか。成功によってポジティブスパイラルになっていく。
・アディティブ・マニュファクチャリングで量産しているLEAPジェットエンジン燃料ノズルは在庫の削減95%、コスト効率が30%、重量の削減25%、パーツの点数が20個→1個、疲労強度・靭性が5倍以上に向上した。
・同ノズルは2015年にFA認証取得、16年から量産を開始。昨年10月2日に3万台の出荷を達成した。エアバスの6割くらい、同730には100%乗っている。300機~400機世界で飛び回っている。
・アディティブで設計したa-CT7エンジンのミッドフレームは7つのアセンブリーを1つに集約。300部品を1点に統合。5キロの重量削減。エンジン全体では99部品が16点に集約した。
・考えられないパーツの統合・集約になる。300部品1部品になると在庫管理からエンジニアも激減する。品質管理も同様。サプライチェーンは従来工法をベースに作っている。技術だけでなくコスト効果も大きい。
・もっと大きなエンジンにアディティブを使っている。ボーイング777x用のGE9Xターボファンジェットエンジンはすべてアディティブになる。
・「アディティブ=何でもできる」というイメージがあるが、そうではない。絶対にできない。自由設計ではない。しっかりとしたアディティ設計(Design for Additive)ルールがある。アディティブ設計を社内に育てないとアディティブはできない。高いハードルがある。
・何を作るのか。どうして作るのか。これができたらどうなるのか。技術観点だけでなく、ビジネスとして考えるべき。採算を考えないと研究開発はともかく、量産にはならない。試作ができたから量産にはいかない。ハードル高い。
・アディティブ製造への成功への道を開く「AddWorks」。ビジネスの採算性→デザイン設計→試作→量産最適化→量産認証
・魔法の箱。ただデジタルデータを入れれば最終製品が出てくるというマインドで考えられているのとは全く違う。アディティブジャーニーを早く始めてもらいたい。始めないとどんなものか分からない。
・箱に入った小さな鋳造工場。
・欧米企業は始めている。始めないとどんなものか分からない。自動車、医療、衛星、ロケット、アビエーションなど様々な応用産業。
・電話からスマートフォンにあっという間に切り替わった。馬車→車、白熱灯→LED、真空管→半導体。前にあったものが不要になった。アディティブに投資をしている。
・GEのミッションはエコシステムの構築。いろんなことにトライしている。ネットワークを構築し社内で1000から2000くらいのプロジェクトを進行させている。18年から社外に向けたサービスを開始した。
・ATC=アディティブ・テクノロジーセンター(オハイオ州シンシナティ)は航空機関連、CEC=カスタマー・エクスペリエンスセンター(ペンシルベニア州ピッツバーグ)はカスタマー対応。
・金属3Ⅾプリンタの発祥の地はドイツ。GEアディティブカスタマー・エクスペリエンスセンター(ドイツ・ミュンヘン)を17年末に完成させた。エンジニア教育、コラボレーション、トレーニングなどを行っている。
・技術を入れる装置を買うだけでなく、社内の組織を動かすためのアディティブマインドセットを作らなければならない。