『凶刃』(きょうじん)

 

シリーズ第4作

 

好漢青江又八郎も今は40代半ば、若かりし用心棒稼業の日々は遠い・・・。国元での平穏な日常を破ったのは、藩の陰の組織「嗅足組」解散を伝える密命を帯びての江戸出府だった。

なつかしい女嗅足・佐知との16年ぶりの再会も束の間、藩の秘密をめぐる暗闘に巻き込まれる。幕府隠密、藩内の黒幕、嗅足組ー3つ巴の死闘の背後にある藩存亡にかかわる秘密とは何か。

『用心棒日月抄』『孤剣』『刺客』に次ぐ用心棒シリーズの第4作。前3作が短編連作だったのに対し、これは長編の形をとっている。

内容もがらりと変わった。『刺客』以後16年の長い歳月が流れ、主人公の剣客青江又八郎も40代なかばになっている。この時代、40なかばといえば、そろそろ老いを意識する年齢といっていい。人生の秋に入り始めている。その寂寥感が『凶刃』の隠し味になっている。

『用心棒日月抄』で登場したとき青江又八郎は26歳、独り身の青年剣士だったが、いま歳を重ね、自分の身体がもう若くないことに気づきはじめている。妻の由亀もあと2,3年で40歳になる。3人の子ども(上2人が女子、下が男)も大きく育っている。

かつて「私を、青江さまの江戸の妻にしてくださいまし」といった佐知ももうじき40歳になる筈だ。いつの時代も時間はあっけなく過ぎる。

北国の小藩の武士、又八郎が4たび密命を帯びて江戸に出てくるところから物語は始まる。佐知が属している嗅足組が解散されることが決まり、その知らせを密かに佐知に伝えるのがこのたびの又八郎の任務だ。

これに幕府の隠密、藩内の姿を見えない敵が絡み、3つ巴の死闘が繰り広げられていく。

文芸評論家の川本三郎は解説(ふたつの世界を生きる又八郎)の中で、「又八郎は、2つの世界を生きる両義的存在である。2つの顔を持っている」と指摘している。北国小藩の藩士としての顔と、脱藩して江戸に来た素浪人としての顔である。組織人と自由人の2つの面を合わせ持っている。

「彼は藩と江戸を往還することで、2つの世界を生きる。藩にいるときの又八郎は、組織人として藩の制約のなかに生きる。彼はまた藩内では、由亀との家庭を持つ家庭人である。3人の子どもの父親である」

「藩内にいる又八郎がインサイダーだとすれば、江戸に出てきた素浪人の又八郎はアウトサイダーである。藩の密命を帯びているのだから本質的に藩士だが、見かけだけは細谷源太夫と同じように浪人であり、そして自由人である」

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