『イスラエルがすごい』

 

 

作品名:『イスラエルがすごい』(マネーを呼ぶイノベーション大国)
著者:熊谷徹(くまがい・とおる)
出版社:新潮新書(2018年11月発行)

 

「イスラエルは天然資源に恵まれず、人への投資で国を立て直したことや周辺国の脅威にさらされている点で日本と似ている」(ベンアリ駐日イスラエル大使2018年1月18日日本記者クラブでの会見)が、ネタニヤフ首相の対パレスチナ強硬姿勢もあって人気が薄い。

同首相は1996~99年と10年後の2009年に返り咲いた第2次政権で既に10年超に上る政権を維持している。19年9月17日に実施した再選挙、その強硬路線には国内からも批判が出ている。

21世紀の世界にとって最も重要な資源は石油でも天然ガスでもなく、「知識」と「独創性」だ。世界中で知的資源の争奪戦が繰り広げられ、昨年に建国70周年を迎えたイスラエルは知恵を武器とする国の代表選手である。

イスラエルは米シリコンバレーに次ぐ世界で2番目に重要なイノベーション拠点となった。世界中の多国籍企業300社強が研究開発拠点を設置、日本企業も最近イスラエル進出を強めている。

今の時代は変動性(Volatility)や不安定性(Uncetainity)が高く、複雑性(Complexity)や曖昧模糊性(Ambiguity)に満ちている時代。この「VUCA」と呼ばれる時代をいかに勝ち抜いていくかが問われている。

日本でこの時代を象徴している産業は銀行や損保ではないかとSOMPOホールディングスの櫻田謙悟CEO(最高経営責任者)兼代表取締役社長は指摘する。同氏は今年4月から経済同友会の代表幹事も務めている行動派の経済人だ。

そして昨年10月にイスラエルのテルアビブに「SOMPOデジタルラボ」を日本の保険会社として初めて開設した。東京、シリコンバレーに次いで3番目だ。

櫻田CEOは「シリコンバレーにやってくる天才の多くはテルアビブやインド、深圳からだ。テルアビブのラボのトップはGEデジタルのイノン・ドレブ氏をヘッドハントした」と述べた。

熊谷氏はNHKで8年間働いた後、1990年からドイツ・ミュンヘンに住み取材・執筆活動を行っているフリージャージャーナリスト。イスラエルの注目しており、2003年以来8回訪問している。

イスラエルの人口は17年で約880万人。1000万人にも満たない。国土面積は四国よりもややくらいで、人口も日本の15分の1だ。GDPの規模も2826億8400万ドル(31兆952億円)で、日本の17分の1にすぎない。

ただし経済成長率はハイテク産業が、17年は3.5%で、日本やドイツ、米国よりもはるかに高い。経済協力開発機構(OECD)によると、国民1人当たりのGDPは3万8540ドルと韓国(3万8350ドル)を上回った。米国(5万9535ドル)、ドイツ(5万878ドル)、カナダ(4万6705ドル)、英国(4万3321ドル)、日本(4万3299ドル)、フランス(4万2858ドル)、イタリア(3万9433ドル)に次ぐ8番目だ。

高い経済成長率と富を生み出す源泉は同国のハイテク企業、特にスタートアップと呼ばれるベンチャー企業だ。現在イスラエルには5000社を超えるベンチャー企業がひしめいている。

熊谷氏によると、17年12月時点の日本のベンチャー企業数は948社。米国は15万社超。人口が900万人未満で5000社はかなり高密度だ。「イスラエル人の起業家精神が旺盛なことを示している」。

その中でもサイバーセキュリティはイスラエルが最も得意とする分野の1つだという。企業をコンピューター・ウイルスなどから守る「ファイアーウォール」(防壁)の技術がイスラエルで生まれていることを熊谷氏は指摘する。

この技術を生んだのは1993年にテルアビブで創業したチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーだという。「ファイアーウォール1」(vpn-1とも呼ばれる)は世界で初めて商業用に開発されたサイバー防衛ソフトである。

同社はサイバー防衛テクノロジーの「国際標準」を構築し、同社製品を使っているのは10万社に上る。同社はサイバーセキュリティの分野ではマーケットリーダーだ。

世界中の企業の間では、クラウドシステムの使用が急増しているほか、サイバーを使った犯罪も常識化。これへの対抗策を求める企業のニーズは絶えない。イスラエルの需要は高まるばかりだ。

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