SNSでも記事を書かないと首の飛ぶ米NYタイムズ紙の「記者を宣伝する」

 

「記者を宣伝する」とはこれいかに?

 

ゲスト:津山恵子(ジャーナリスト・長崎平和特派員)
テーマ:トランプ政権と対峙する米メディア NYからの報告
2019年10月28日@日本記者クラブ

ニューヨーク在住16年で米メディア事情に詳しいジャーナリスト、津山恵子氏(元共同通信)が28日、日本記者クラブで「トランプ政権と対峙する米メディア」の現状について報告した。

津村氏は会見後、米国で一番成功しているといわれるニューヨーク・タイムズ紙(NYT)の記者も「FacebookのようなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で発信することができなければ首になるんですよ」と述べ、それほど米メディアの状況が厳しい現状を明かした。

同氏は会見前の揮毫(毛筆で言葉を書くこと)したのは「記者を宣伝する」。その真意について聞かれ、「米国のメディアで闘っているジャーナリストやカメラマンは身体を張っているという気がしている。身体を張りながらも、そのことを理解してもらうためには『自分はこういう記事を書いたよ』、『こういう写真やビデオを撮ったよ』ということをSNSを使って読者に宣伝して理解してもらおうとしている」と紹介した。

読者と記者がどうやって直接つながることができるかについて、「一番簡単なのは(SNSなどのウェブサービスを含めた)ソーシャルメディアを使うことだが、それ以外のときも機会をとらえて、自分たちのやっているジャーナリスト、カメラマンの仕事を宣伝していかないといけない」と述べ、米ジャーナリストの行動をひとつのあるべき姿ととらえた。「自分に対する課題も含めてこう書かせてもらった」という。

 

力強く語る津山恵子氏

 

津山氏はホワイトハウスの取材環境について、ケーブルテレビ局CNNのジム・アコスタ記者のハードパス取り上げ問題や競争他社とも協力関係を結ぶ必要性があるなどの例を紹介し、髪の毛が毛羽立つほどの恐い仕事をやっていることを痛感していると述べた。

ホワイトハウスと戦いながらもグッド・ニュースも少しはあると同氏は言う。変化の激しい時代に努力することで多少は良い傾向も見えてきていることも話した。

新聞のデジタル化で一番成功した例としてNTYを今年も紹介したい。デジタル版購読者数は今年第二四半期(19年6月末現在)は378万人に達した。紙だけを出していた時代のピークは110万部超だったので3倍以上に達した。デジタル+紙で470万部。紙だけの時代の約4倍。他紙は非常に苦労しているが、デジタル購読者がこれだけ獲得できたNTYは勝ち組になっている。

トンプソン最高経営責任者はこれに弾みを付けるため、2025年までにデジタルオンリーの購読者を1000万人にする目標を発表した。20年が大統領選挙の年であり、ニュースの需要が増えるうえ、グローバル戦略も加わって4半期純増20万人(現在同10万人)を獲得し、実現する考えを示した。

また同社の収入構造について、売上高が5.2%増え、中でも販売(購読)収入が3.8%増と広告収入の伸び(1.3%)を大幅に上回ったことも特筆すべきだと指摘した。これまでの米紙は7~8割が広告収入だったからだ。豊富な広告収入で駅売り価格を低額に抑えてきたのもこのためだった。

しかしデジタルの時代だ。NYTは広告ではなく記事に対して対価を払う形に切り替えて購読収入の割合を引き上げようという努力をしている。ワシントン・ポスト紙もデジタル版が好調で170万部に達している。

一方、津山氏はケーブル・テレビ局について売上高、視聴者数とも堅調で、トランプ大統領出現以来、なかでもFOX NEWSの一人勝ち状態が続いていると述べた。FOX NEWS 、MSNBC(リベラルな論調)、 CNN(日本では一番有名なオンラインニュース局)の順番だ。

これはニュースの政治イデオロギーを10点で評価した場合(PEW research center調査)、保守系のニュースを提供するメディアが非常に少ない現実の中で保守的なニュースを読みたいと思っている人の割合が多いことと関係しているのではないかと指摘した。メディアも分極化していることを読者、視聴者も感じている。

2020年の大統領選挙の年がまたやってきた。討論会のカバーが始まっている。討論会前夜、ファクトチェック班、Liveblog班、ソーシャルメディア班、ビデオ班など1社約20人ほどで総力カバーする。また専用ウェブサイトや選挙戦ニューズレター(メールマガジン)などでも報道する。

NYTは2004年以降討論会をホストしていなかったが、20年に返り咲きCNNと組んで民主党の討論会を10月15日にホストすることを決めた。討論会でホストを務め、アンカーないしデスクに質問させることで信頼されるメディア、闘っているメディアとしての存在を読者にアピールし「良いメディア」であることを立証していくチャンスと受け止めている。

ABC CBS NBC3局のニュース担当者らは地方でリストラされている新聞、ラジオ局の記者を積極的に雇用している。地元の有権者に強い記者らに選挙期間中ずっと取材を続けてもらいのが狙いだ。

候補者と同じ飛行機に乗って移動するのが「トラベリングメディア」のスタイルだが、有権者に取材することなく回っているだけ。これに対する反省から有権者の声をじっくり聞く必要を感じたのではないか。

選挙の舞台も報道の舞台も100%と言っていいほどデジタルだと思うと津山氏は語る。候補者がありとあらゆるソーシャルメディアを使って自分で思っていることやきょうの自分の活動を四六時中出していく。ソーシャルディアでの露出度が一番問題だから。トランプが16年にこれで勝ったからだ。

津山氏はロシアは関与を否定するものの、ネット世論を操作する「トロール部隊」の存在を指摘する。米国人を装ってアカウントを作ってデマ情報を発信していく企業の存在だ。そういう情報を出す量がトランプはクリントンを遙かに上回っていた。3~4倍。

左の2つをdeep fake ソフトにかけると実演効果が出て右の偽動画になる

 

同氏は、デジタルが舞台になった20年大統領選挙の行方について、ウクライナゲートと大統領弾劾の動きがどうなるのかも重要だが、もっと恐いのはfake news(テキストベースの偽ニュース) 、cheap fake(速度を落とすことでこのビデオはちょっとおかしいのではないかと思わせるソフト)、 deep fake(本物の映像や声をそっくり真似た偽の動画のソフトウェア)ではないかと提起した。deep newsはfake newsの動画版だ。

市民や有権者を簡単に騙すことができる状況が生まれてきている。deep fakeを見分けるソフトを開発したり記者教育も必要になってきている。

またフェイスブックが10月25日に「Facebook news」のアプリをローンチすると発表した。Yahoo newsに似ている。フェイスブックで格付けをして流していく。ニュースのアルゴリズムを変えてメディアのアクセス数を15~20%減らし、報道機関に大きな痛手を与えたこともある。

プラットフォーマーのフェイスブックが走り出してからアルゴリズムを変更することもあり、そうなった場合、とても恐いと思うと津山氏は語った。

ウクライナゲートと大統領弾劾、deep fakeの登場、Facebook newsの出現など2020年は16年とは全く違う波乱の要因が3つあると津山氏は答えた。

 

youtube動画

 

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