「キレイ好き」男子増加の中で団塊世代が「サステナブルな洗濯」を考える
今年も「エコプロ2019」(第21回)の開催日がやってきた。持続可能な社会の実現をテーマにした日本最大級の環境総合展示会だ。主催は一般社団法人産業環境管理協会と日本経済新聞社で、12月5日(木)~7日(土)の3日間、東京ビッグサイトで開催された。
国連のSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを中心に、海洋プラスチックごみ対策や車や食品、スポーツなど生活シーンで採用の広がるセルロースナノファイバー(CNF)など見どころも多いが、各種開催セミナーを眺めながら注目し参加したのは未来洗浄研究会主催の「サステナブルな洗濯を考える(1)ーライフサイクルアセスメント(LCA)の視点からー」セミナーだった。
サステナブルであろうとなかろうと、洗濯するということを考えたことがこれまでなかった。自分で洗濯をしたこともなかった。現役でバリバリに働いていたのだし、専業主婦(妻)がいたので、その必要がなかったのだが、その潮流は今ではすっかり変わってきている。
良いか悪いかはともかく、まず専業主婦自体が減っている上、男の役割も昔と比べ格段に増えている。正規職のみならず、パートやアルバイトなどの非正規職も含め働きに出る女性は過去10年ほどで急増したほか、家庭生活における育児や食事などの男の役割も大幅に拡大しているのだ。
亭主が会社勤めをやめ定年を迎えると同時に、主婦も専業だった炊事や掃除などをやめたいと言い出すケースが増えている。自分で食べるものや部屋の掃除は自分でするのが当然だという論理である。
「あなたがきちんと生活費を入れていた間は私も主婦業をこなしてきたが、定年退職し家にいるようになったら、私も定年です」というわけだ。
男の守備範囲は一段と拡大し、今や潮流は「洗濯」に移行していつつあるようである。一般家庭にプロの洗濯ノウハウを伝える「洗濯家」として活動する男性も登場し、「洗濯王子」の愛称でメディアに出演するようになってきているほどだ。
実は「洗濯が好き」「きれいなのが好き」「しわくちゃなのは着れない」など洗濯することに拘る男も増えている。世の中の情勢がガラリと変わり、自分だけが知らないまま取り残されている現実を知らされている。
エコプロのプログラムの中から「未来洗浄研究会」のセミナーを見つけた。これは「なんじゃらほい」だと思った。たかが洗濯である。その洗濯を研究する意味があるのかと正直思った。
しかし世界は広い。意識も高い。そのことを思い知った。自分の世界を見る目が狭かった。「洗濯」で生きている人もたくさんいるのである。洗剤を販売している会社や洗濯機を作っている会社がそうである。そこで働いて賃金をもらっている人たちがそうである。電気会社も洗濯機に電気を通電し、間接的に洗濯と関係している。「洗濯」がなくなったら、生きていけない人もたくさんいる。
同洗浄会はサステナブルに清潔で快適に暮らせる社会を目指して、洗濯や洗浄について日々考えている人たちの集まりである。環境配慮を意識的に取り入れている。どう「洗濯」すれば、地球環境を維持できるかを考えている。「洗濯」することによって洗濯水が地球環境を汚染することも事実だからだ。
2018年12月に設立したのはFuture Earth(科学者、研究者、イノベーターなどがよりサステナブルな地球を作るための国際的ネットワーク)、東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構(2019年4月、東京大学未来ビジョン研究センターに統合)、花王の3者。
洗濯や洗浄について、「つくる側」と「つかう側」が一緒に議論できる場を作ることで効果的なアイデアや共同活動を生み、サステナブルな洗濯や洗浄のための画期的な技術や社会を動かすムーブメントを起こすことを目的としている。つくる側からの働きかけだ。
セミナーで最初に話をしたフューチャー・アース日本ハブ事務局長の春日文子東京大学未来ビジョン研究センター客員教授によると、20~60代の既婚女性1000人を対象に行った調査で、「好きな家事は何か」を聞いたところ、「洗濯」に関することが上位2番目と3番目に上がっているという。また男性の中からは「洗濯が好き」「洗濯に命を懸けている」という人もいたという。
洗濯機を使う回数も週7回以上が6割以上に上った。5割以上が週8回以上洗濯している。毎日1回以上回しているという。
しかし、「洗濯をすること」や「洗濯機を回すこと」は必ず水を使う。洗剤を使う。電気も使う。今のペースで世界中の人が洗濯を行った場合、果たして地球上の水やエネルギーをサステナブルに使っていると言えるのか。
汚れた洗濯物が洗濯によってきれいになって出てくるのと同時に、排水や素材によってはマイクロファイバーも出てくる可能性もある。洗剤の入っていた容器はゴミとなって出てくる上、エネルギーを使うときには必ずCO2(二酸化炭素)が出てくる。
春日教授は日本人の清潔感について、「もしかすると清潔を求めすぎているのではないか。どのくらいが適切なのか改めて考えたことはあまりない。これを裏付ける科学的データも入手しにくい」と述べた。
AI(人工知能)の登場する時代に何が「適切な洗濯」の水準を判断するのか。
高齢化時代でもある。今の洗濯が高齢化時代に合っているのかどうかも考えてみる必要もある。外国人の居住者も増え文化も多様化しつつある。こういう情勢の中で委員会はワークショップやグループ討論を行ってきたという。
「洗濯」することで環境に対価が発生していることに気づいたとの受け止めもあった。洗濯の素材も違う、汚れの種類も違う、選んでいる洗剤も違うなど「洗濯」にも多様性がある。
こうした中から出てきたのがライフサイクルアセスメント(LCA)。共立女子短期大学生活科学科の山口庸子教授によると、資源、製造、流通、使用、リサイクル、廃棄といったライフサイクル全体を通して環境負荷を定量的な算出する方法がLCAで、それが環境にどのように影響を与えていくかをみていく手法をとる。全体を人間にたとえて、「ゆりかごから墓場まで」を定期的に評価をする。
洗濯のLCAについては以下のような問題意識が考えられる。
・水質・水温はどうか。
・大家族なのか、1人暮らしなのか。
・洗濯機のサイズは大型なのか。
・縦型(洗濯槽が縦になっている従来からのタイプ)なのかドラム式洗濯機(洗濯槽を回転させるタイプ)か。
・乾燥機能はどうしているか。ヒートポンプ乾燥かヒーター乾燥か。
・洗剤のタイプはどういうものか。
・すすぎは1回か。
・漂白剤、柔軟剤を使っているか、使わないか。
・衣類は家庭洗濯できるものを購入しているのか。
・アイロンがけを必要としているのか。
・衣類の素材を意識して買っているのか。
・洗濯機は100ボルトなのか、200ボルトなのか。
・まとめ洗いタイプなのか、毎日洗濯をしているタイプなのか。
・風呂の残り湯を日常的に利用するのか、しないのか。
・部屋干しや浴室乾燥か。干し方を考えているのか。
山口教授は洗濯機のタイプについて、2007年までは6割以上が全自動だったが、2019年になると全自動は50%、乾燥機を組み込んだ洗濯機が増えていると指摘した。すすぎ1回の洗濯機は13年に登場。すすぎ1回の洗剤も09年から販売されている。
男は大変である。とりわけ団塊の世代などはどうにもならない。いまさら地球環境に配慮して「洗濯」をせよと言われても、「ハー?」と答えるばかり。どうにもならない。
働くだけ働いた君らの世代はもう終わった。今さら地球環境への配慮を要求されたり、ふんだり蹴ったりである。と言っていまさらライフスタイルを変えることはできない。せいぜい、未来洗浄研究会のセミナーにでも行って自分の考えを今風に「洗濯」するしかないのかもしれない。