ゴーン元日産会長、逃亡先のレバノンで「無実」主張
日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告は日本時間の8日午後10時から、レバノンで記者会見した。同元会長が会見するのは2018年11月に逮捕されて以来初めて。
同被告は日産に損害を与えた会社法違反(特別背任)罪と役員報酬の未払い分約91億円を有価証券報告書に記載しなかった金融商品取引法違反の罪で起訴された一連の事件について、「日本の検察や日産の経営陣が画策したもので自分は無実である」との従来の主張を繰り返した。
日経新聞によると、ゴーン元会長は、東京の自宅から新幹線で大阪に直行。関西国際空港からプライベートジェット機に乗ってトルコ経由でフランスの旅券を使ってレバノンに脱出したもようだが、「日本の司法は非人道的。公正な裁判を受けられないと判断した」などと述べ、自らの逃亡を正当化した。
また、拘留の長さを強調するなど日本の刑事司法制度の批判を展開したが、逃亡方法などについては一切話すつもりはないと述べた。
ゴーン元会長は起訴された一連の事件について、「検察や日産の経営陣が画策したものだ」とし、西川広人前社長兼最高経営責任者(CEO)ら日産の元幹部ら6人の実名を挙げた。
森雅子法相は9日未明に会見し、「刑事裁判そのものから逃避し、許されない」と批判した。また東京地検の斎藤隆博次席検事は「日本の刑事司法制度を不当におとしめる主張で到底受け入れられない」とのコメントを出した。
さらに日経によれば、日産の幹部は「ゴーン被告の会見は自分を正当化する茶番劇にすぎない」と反論し、別の幹部も「不正の証拠もたくさんあり、ゴーン元会長の主張は議論のすり替えにすぎない」と指摘した。「
「劇的な脱出に成功したゴーン被告、海外はどう見ているか」。フォーブス・ジャパンのオフィシャル・コラムニスト、ピーター・ライオン氏は、「ゴーン被告は日産を救ったヒーローだと思っているレバノンの市民にとって、同氏の脱出の選択は正しかったと同意している国民が多いようだが、フランスでは意見が別れる」とみている。
「彼のようなお金持ちが逮捕され、ごく普通の容疑者と同じような扱いを受けることを喜んでいる人もいれば、日本の司法制度に反感を覚え、今回の脱出にエールを送る人もいる」と述べている。
同国の有力誌フィガロの調べによると、読者の82%がゴーンの逃亡に賛成しているとのこと。弁護士が許されない取調室で、1日に16時間も続けて尋問され、暖房のない部屋で寝かされたりすると、フランス人の日本の司法制度に対する印象や意見は悪くなるのだろう、とも言う。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルも、日本の司法制度に鑑みれば、ゴーン被告が日本から脱出したことは理解できると伝えている。
同被告は会見後に米CNNと単独インタビューに応じて、「隠れていたとされる箱の中はどうだったか」と聞かれ、「ノーコメント。過程はどうであれ、自由とは甘いものだ」ととぼけた。
それにしてもゴーン氏の今回の脱出劇は007の異名を持つ英MI5のジェームス・ボンド(初代ショーン・コネリーから6代目ダニエル・クレイグ)や「ミッション・インポッシブル」で米秘密諜報組織IMF(Impossible Mission Force)に属するイーサン・ハント(トム・クルーズ)も顔負けだ。
ダニエル・クレイグ主演の007の新作「No time to die」が4月10日に日本国内でも公開予定だが、ハリウッドもゴーン氏の脱出内容に大いなる関心を持っているはずだ。
日本の刑事裁判では起訴されれば、90%以上が有罪だ。99.9%の確率で有罪となる。法務省の「諸外国の刑事司法制度」によると、日本の無罪率は約0.1%だが、米国0.4%、英2%、仏6.4%(重罪)、ドイツ4%、イタリア20.7%、韓国0.5%。日本が圧倒的に低い。起訴されれば有罪確定だ。
1997年3月に発生した東電OL殺人事件は1審で無罪、2審で逆転有罪、最高裁も有罪確定した。しかし、ネパール人被告人ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏(逮捕当時30歳)の求めによる再審請求が行われ、2012年に無罪が確定したのは極めて希な例である。えん罪そのものだった。