神事とは言え5億円のNHK放映権料を袖にできず「中止」より初の「無観客開催」を選択した大相撲春場所はもう”土俵際”
新型コロナウイルスの感染拡大の衝撃は驚くべきほどだ。大阪市浪速区のエディオンアリーナ大阪で開催された大相撲春場所初日は遂に初の無観客で行われた。このNHKの画像を見れば、動かぬ証拠になるだろう。大きな空間に関係者だけがパラパラと座っており、異常に静かである。
いつもならワーワーと大声援に包まれ、力士も声援に応えて相撲を取る。今回は一切それがない。テレビ中継があるとはいえ、観客が1人もいないのでは興行の体をなしていない。観客がいてこその大相撲だ。観客抜きで一人相撲だ。
誰もいない土俵から伝わってくるのは静寂だ。力士は気力を高めて体と体をぶつけ合う。すさまじい肉弾戦だが、健康の象徴といわれる力士の体から立ち上ってくるのは静寂である。異様としか言えない。
八角理事長(元横綱北勝海)は「力士の体は健康の象徴といわれ、四股は邪悪なものを大地に押し込めると信じられてきた。日本はもちろん、世界中の方々に勇気や感動を与え、世の中に平安を呼び戻すことができるよう、15日間全力で努力する所存です」と述べた。
また「相撲は単なるスポーツではなく神事。淡々とこなすことで価値がある」と強調したが、それなら観客はどういう存在なのか。観客を無視した試合などない。
大相撲は中止の選択肢もあったが、無観客開催を選択した。神事としての伝統もさることながら、観客収入があってこその試合だ。4億~5億円といわれるNHKの放映権料を当て込んだわけだ。15日間の前売り券の払い戻しは10億円以上の損失が見込まれる。NHKの放映権料は貴重だ。
日本相撲協会は八百長問題で2011年の春場所を中止し、続く夏場所も入場無料、NHK中継もない「技量審査場所」として開催し、48億円を超える赤字決算となった。本場所中止は1946年夏場所以来65年ぶり2度目で、不祥事では初めて。今回は初の無観客開催となった。
プロ野球、サッカー、ラグビー、バレーボール、卓球などのプロスポーツが試合延期や中止に追い込まれている。