銀行と政界の悪をあばいたエンタメドラマ『半沢直樹』=視聴率32.7%という現実は何を物語るか
今はいくらかかるか分からないが、昔は全国紙に1面広告を打てば2000~3000万円はかかると聞いたことがある。新聞の広告価値は下がっているので今はそれほどでもないと思うが、それでも500万人ほどの全国の読者に届くのである。それなりに広告価値はあるだろう。
TBSが9月27日(日)の日経朝刊に一面広告を打った。「今夜9時15分拡大スペシャル さらば半沢!」と銘打っている。TBSの看板番組・日曜劇場『半沢直樹』ついに最終回!!と書かれている。
かなり長い間日経の読者であり続けているが、テレビ番組で新聞広告を、しかも1面全部を使って宣伝をしたのは寡聞にして聞かない。初めてだ。どうしようかと考えたが、やはりこのブログで紹介することにした。
自分がテレビを見ることが分かっているからでもある。内容はともかく、楽しんでいる自分が厳然といることを知っている。現実離れのところが多いのは知っているが、やはり何と言っても面白いからだ。
「おい、サラリーマンも既に終わって年金生活をしているいいおじさんがどうしたの」と言いたいのはやまやまなれど、正直ドラマの中に入り込んでいることを知って愕然とするのは自分である。騙された自分のほうが悪い。騙したドラマの制作陣は何も悪くない。
今回の『半沢直樹』(東京中央銀行のバンカー、堺雅人氏主演)は池井戸潤氏の原作。2013年に同じTBS系で放送された時は『おれたちバブル入行組』(2004年、講談社文庫)『おれたち花のバブル組』(2008年)をベースとしたドラマだったが、7年ぶりに制作された2020年は『ロスジェネの逆襲』(2012年)『銀翼のイカロス』(2014年)がベース。13年の続編だった。
第1回目からずっと見てきた。ストーリー性は変わらないし、どうせつまらないだろうし、ドラマ化も2回目で既視感があって退屈だろうと思っていたが、ところがどっこい。歌舞伎役者が次から次へと出演し、演技が半端じゃないのである。役者の底力を見せつけられた。
大和田常務(香川照之)や伊佐山部長(市川猿之介)、黒崎金融庁検査官(片岡愛之助)などの”顔”の演技も出色で、ついドラマに食らいついてしまった。
9月27日に放送された最終回(第10話)の平均視聴率はビデオリサーチによると、関東地区で32.7%だったという。全シリーズの最終回の平均視聴率は42.2%(関東地区)だった。インターネット偏重が主流で、テレビを介した視聴が落ちている中で「とんでもない数字」ではある。
最終回の序盤に白井亜希子国交相(江口のりこ)が半沢との会談のために半沢家を訪れる。部屋の中は小料理屋の5周年記念のために贈る花の鉢植えが一杯に並んでいた。白井のファンだった花(上戸彩)はとっさに紫色の一輪の桔梗を胸ポケットに差し込んだ。
「桔梗です。花言葉は『誠実』。凜としていつも真っ直ぐな白井大臣そのものでしょう?応援しています。この国のこと、お願いします」。この花の一言が白井大臣の心に染みていく。最後のテレビ生中継の会見で箕部幹事長(柄本明)に反旗を翻す伏線となる。
生会見で白井大臣は「タスクフォースが作った(帝国航空)再建案は完璧なものです。ですが、正直申し上げて、東京中央銀行が苦労の末に作り上げた再建案と瓜二つ。ほとんど丸写しに近いものと言えます。時間をかけたにもかかわらず、タスクフォースは何らその使命を果たせなかったと言えます。これは任命した私の責任であり、リーダーである乃原弁護士(筒井道隆)の怠慢によるものです。言い換えれば、銀行が提案した再建案に基づけば、帝国航空は債権放棄などしなくて十分に立て直しが可能であると私は考えます」とたんかを切ったのだ。
箕部幹事長は会見場で土下座をし、会場を逃げ出す。
原作者の池井戸潤氏は日経のブックコラムで、困難が多い時代にエンタメが果たす役割について、「エンタメはなくても困らないものですし、コロナで仕事や暮らしが厳しくなってエンタメどころではないという人もたくさんいるでしょう。今発信して、どのくらいの人に作品が届いてくれているのか、不安に感じるところも正直あります」
「でも、半沢直樹シリーズは明るくて前向きなエンタメ作品ですから、つらい状況にいる人にこそ読んでもらいたいと思います。半沢が世の不条理や横暴な上司、小悪党に毅然と立ち向かい、言いたかったこと、やりたかったことをやってくれますから。でも決して、まねはしないでくださいね」