日米同盟は「対中同盟」へ変質し「対等な同盟国」として重みを増した日本=神谷防衛大学校教授

 

神谷万丈防衛大学校教授

 

ゲスト:神谷万丈(かみや・またけ)防衛大学校教授
テーマ:対中同盟としての日米同盟と日本の安全保障
2021年4月30日@日本記者クラブ

 

国際政治学、安全保障論を専門とする防衛大学校の神谷万丈(かみや・またけ)教授が登壇し、「対中同盟として日米同盟と日本の安全保障」をテーマに、この間の日米同盟の変化や日本の課題について話した。

 

■「対中同盟」に舵を切った日米同盟

 

・日米2プラス2と菅・バイデン首脳会談をみていて印象深いのは日米同盟が2つの意味で大きく変化しているということだ。1つは「対中同盟」に舵を切ったこと。もう1つは日本が米国の「対等な同盟国」として重みを増したことだ。

・日米同盟はそれまで圧倒的だった「対ロシア」脅威が突然なくなった。世界にとってましな状況になった。1966年の「日米同盟再定義」により、日米同盟はアジア太平洋地域の「安定化装置」であり、特定の国に向けられたものではないといわれた。

・中国に関してもあからさまに名指しをすることをしてこなかった。しかし米国主導のリベラルでルールを基盤とした国際秩序への中国の挑戦が深刻になってきた。そうした中国の挑戦がコロナの下でますますあからさまになった。強さを増している。

・再々定義は行われていないものの、日米同盟は対中同盟的なものに変わってきている。これが2+2と菅・バイデン会談で明確化した。

 

■中国の挑戦に勝利するために日米が取り組む

 

・2+2でブリンケン米国務長官は「中国は21世紀における最大の地政学的なテスト」と発言。茂木敏充外相は「インド太平洋の戦略環境は以前とは全く異なる次元にある」と返答した。

・ブリンケンは「中国が言い分を通そうとして強制や侵略を行った時に必要であれば押し返す」。こうした発言らは4月の菅・バイデン首脳会談の共同宣言に盛り込まれた諸点で合意。

・菅・バイデン首脳会談で一番重要だったのは会談後の会見で、バイデン大統領が「日米が協力するのは中国からの挑戦に勝利するためである」と宣言したこと。さらに「中国からの挑戦を受けて立つために」、そして「21世紀においてもなお民主主義諸国が競争し勝利できることを証明するために」、日米が「共に取り組む」ことだ。

・共同声明の内容は「ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有」

・東シナ海での「あらゆる一方的な現状変更の試みに反対」

・「自由で開かれた南シナ海における強固な共通の利益を再確認」

・「台湾海峡の平和と安定の重要性」に日米首脳会談の共同声明としては52年ぶりに言及

・尖閣諸島への日米安保条約第5条の適用を明記

・5Gや6Gなどの高速通信規格やAIといったハイテク分野や、半導体を含むサプライチェーンの見直しなどでも、経済と安全保障は切り離せないという認識の上に、中国への対抗を意識した協力を打ち出した。

 

■対等性を高めた日米同盟

 

・米国は中国に対し、「協力するところは協力する」。「協力するために言うべきところを言わないということはしない」と明言した。それは4月29日の議会施政方針演説でも明らかになった。

・バイデン大統領は演説で習近平氏を「権威主義者」「専制主義者」と呼んで、彼は中国を世界の中で最も重要な国するために非常に熱心だと言って、「アメリカは同盟国と組んでそれに負けない」と強調した。元の原稿にない点だ。アドリブかもしれない。

・日本が対等の同盟国になってきたことも大きな変化だ。従来は米国にとって同盟の価値は日本の力よりも在日基地の戦略上の意義などが中心だった。米国はいざとなれば自力で何でもできた。しかしアメリカと組むという姿勢を示してくれたことが重要だった。

・米国の力に限界が出てきた。世界の難題に自らの力だけでは対処できなくなった米国。中国の台頭などによる国際的な力の変動の結果、米国は中国やロシア、北朝鮮などからの挑戦を含む国際的な諸問題に単独で立ち向かうだけの力を持たなくなったことを自覚している。

・中国の挑戦からリベラルなルールに基づく国際秩序を守ることもFOIP(Free and Open Indo-Pacific)を実現することも米国単独では達成できなくなっている。同盟国やパートナー国の力が必要であるとの認識だ。

・その中で日本が特にクローズアップされている。日米同盟だけは安倍前首相の外交努力により関係がめざましく強化された。日本については同盟を再構築する必要がない。バイデン政権の米国はそれを活用しようとしている。

 

■第5次アーミテージ・ナイ報告書

 

・知日派の超党派委員会ではあるものの、過去4回の報告書では日本が米国の同盟国として十全な役割を果たすことができず、米国の対等のパートナーとは言いがたい状況にあることへの苛立ちが示され続けてきたが、第5次で初めて「対等な同盟国」と呼ばれた。

・米国が国際的リーダーシップを発揮できなかった時に、日本が積極外交を推進してその空白を埋め、FOIPを提唱しCPTPP(Compressive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership)を締結に導くなど、アジアや世界の戦略的問題に対処する上で主導的な役割を果たし、今や日米同盟にとっての「最大の挑戦」である中国の「非自由主義的な野心」に対抗するための戦略的枠組み作りを進めてきたことと評価している。

・ナイ教授はオンラインシンポジウムで、日本は既にトランプの米国がしないことをして同盟に貢献しており、特に地域での「ネットワーク作り」に果たす役割が重要だと述べた。軍事面のみならず、開かれたインフラ支援などの日本の「静かなソフトパワー外交」が東南アジアや南太平洋島嶼国と日本との結びつきを強め、日米が中国の影響力増大に対抗する上で力になっていると指摘した。

・報告書は「日米同盟は相互依存へと移行しつつある」と述べている。日米は今や「お互いさま」「相互依存」の関係になってきた。これまでの日米同盟は「負担の分担」(burden sharing)が問題にされてきたが、今後重要なのは「力の分担」(power sharing)であると強調した。

・バイデン政権は報告書の内容を実践している。バイデン政権の閣僚が初の外国訪問先として日本を選んだ(2+2)ことや菅首相がバイデン米大統領が最初に対面で会う外国首脳となった。だからどうしたと言う人もいるが、私はこれは大変なことだと思う。

・これを第三者的に評価したのがニューズウィーク誌で「バイデンは日本を新たなAlly-in-Chief(筆頭同盟国)とみている」との記事だ。「中国の影の中で、日本はアメリカと『特別な関係』を構築する」と書いた。これはただのレトリックではないと思う。日本は米国から対等な同盟国として扱われるようになったのではないか。

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