人口減少下でも女性の東京圏超過が続くのはキャリア志向が強く活躍制約が小さいため=日本総研「地方創生」シンポ

 

人口減少はどのように進むのか

 

■日本総研が「地方創生」シンポ開催

 

株式会社日本総合研究所は12月3日、「人口減少の地域社会に求められる新たな価値創造力」と題したシンポジウムを経団連会館国際会議場で開催した。同社は三井住友フィナンシャルグループのシンクタンク。

日本は急激な人口減少社会に突入するなか、地方ではインバウンド需要の蒸発、活動自粛の広がりによって観光産業などで多くの雇用が失われる一方、働き方改革の進展や人口移動の変化などで地方にとってはチャンスと見られる。

世界ではデジタル化やカーボンニュートラルなど新しい動きも広がっており、コロナ禍による現下の激震だけでなく、中長期的な潮流の変化も起こっている。

日本総研はこうした潮流変化にも対応していく必要があるとの認識に基づき、今年10月1日付で「未来社会価値研究所」(所長・安達英一郎常務理事)を発足させた。

本シンポジウムでは、新しい時代の地方創生が目指す姿について西村訓弘(にしむら・のりひろ)三重大学地域イノベーション学研究科教授、諸富徹(もろとみ・とおる)京都大学大学院経済研究科教授、横田響子(よこた・きょうこ)コラボラボ代表取締役らが議論した。

 

■人口減少で地方税収も減少し、公務員も不足していく

 

日本総研はまず蜂屋勝弘調査部上席主任研究員が人口減少の影響を取り上げ問題提起した。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によると、人口が減少する過程では1989年から2008年までの20年間でまず若年人口が減少し(局面Ⅱ)、09年以降は総人口が減少(局面Ⅲ)。最後に43年からは高齢人口が減少する(局面Ⅳ)パターンをたどる。

しかも人口減少はすべての自治体で同様な減少が起こっているわけではなく自治体によって異なっている。2005~20年の人口動態によると、3分の2の自治体が局面Ⅲ。局面Ⅳも小規模自治体で現れている。

20~30年の人口動態を見ると局面Ⅳの自治体が増加してくる。単に人口減少が起こる自治体が増えるだけでなく、大都市にも波及してくる。局面Ⅰ~Ⅲは減少してくる。

局面が進むと税収が減少し、そのダメージは都市部でより深刻化すると予測。全国共通のサービスは地方交付税による財源補填があるため、むしろ自治体独自の行政サービスが低下することになる見込みだ。これまで当たり前だったサービスが急になくなることも想定される。

また人口減少に伴い、地方公務員自体も不足していく。30年には9割強をまかなえるものの、35年には9割を切り、40年には8割、45年Ⅱは7割台に落ち込む。また規模の効率が悪くなる見込みだ。小規模自治体でより深刻になる見通し。

必要な行政サービスを守るためには①自治体DXの一段の推進②専門人材の育成③高齢者の雇用機会の拡大-などを提言したい。全ての市町村で最も進んだ市町村レベルまでICT化が進むと、地方公務員数の77%程度で、現在のサービスを維持可能と試算できる。1人の公務員がよりたくさんの仕事ができる環境を整えることが重要だ考える。

また専門的な人材の育成も重要だ。自治体側の需要の継続・拡大が見込まれる。自治体DXを推進する情報技術者や福祉関係の人材、社会資本の維持・管理を担当する土木技術者などを意識的に育てなければならない。

 

女性は第3象限(左下)に向けて移動する

 

■地方創生は失敗だった

 

次いで同じく藤波匠(ふじなみ・たくみ)上席主任研究員が「アフターコロナの地方活性化に求められる視点」と題して新たな問題提起を行った。

地方創生とは何だったのか?2015年にスタートした「まち・ひと・しごと創生総合戦略」。基本的視点としては①転入超過が10万人を超えた東京圏の一極集中の是正②若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現③地域の特性に即した地域課題の解決-があった。

目標は①地方において安定した雇用を創出するのがメーンで、雇用に拘った戦略だ。②は地方への新しいひとの流れをつくる。③は若い世代の結婚・出産・子育ての希望を叶えることだ。

スタートして6年が経過したが、成果は上がったのか。結果は東京圏への転入超過数は減ることなく19年には15万人まで増加。20年も1~3月までは相当数行っていた。出生率も右肩下がりが続いた。結果は失敗だった。

なぜ失敗したか?地方からは「仕事はあるが人手が不足している」との指摘が聞かれ、有効求人倍率も一貫として地方が東京を上回った。地方の指摘は正しかったことが証明された。しかし、「仕事があるのだから人を呼び込めばいい」との発想から移住促進策に偏重する結果となったのは否めない。

注目すべきなのは東京圏の転入超過は女性優位であることだ。2010年以降、女性が男性を上回って推移している。コロナ禍でも変わっていない。男性の1.5倍に達している。

なぜ女性のほうが東京に入ってくる数が多いのか。流入圧力が高いのか。地方のほうが男性中心社会であるとの指摘もあるが、私はデータから分析したい。

 

■高学歴の女性が増加、高度人材は東京へ

 

指標(主成分負荷量)から評価のための2軸を特定し、地域特性の可視化を行ったところ、東京圏はキャリア重視志向が高く、女性活躍への制約も極めて少ないことが分かった。地方は安定重視の比率が高い。

これに女性の転入超過率を重ねると、安定重視のエリアからキャリア重視のエリアに人が流れている。高賃金で大卒人口の多いエリアに女性が流れ込んでいる状態だ。

地方では若い女性が社会に出て働きたいと思ったときになかなか仕事がない。いい仕事があったとしても既に年配の人に押さえられてしまっている。なかなかチャンスが得られないために東京に出て行く流れが生じているのではないか。

女性は、第3象限(左下)に向けて移動する。先行きについても私は(女性の東京から地方への移動には)ネガティブと考えている。今後も女性は東京に集まってくるのではないか。

コロナ禍において男女とも非正規雇用は減ったが、女性の正規雇用は一度たりともマイナスになることなくゼロからプラス方向と堅調に推移している。コロナ禍18カ月間で新規正規雇用の半分は東京圏。医療、介護系が半分、残りはIT、自動車、金融機関などだ。

これら業種は男性を含め高度人材を積極的に採用している。男性は完全雇用に近い状態にあり、対象が女性に広がっているのが実態だ。

背景には女性の4年生大学への進学率が50%を超え、男性と同水準に並びつつある。世の中に出てくる女性の半分は大卒だ。高専もあり、専門学校で幾つも資格を取ってくる人もいる。女性が高度人材化している。

地方に仕事はあるものの、それは高度人材に適する仕事なのか。適切な処遇を持って向かい入れているか。

人口減は受け入れていかなければならない。東京でも同様だ。民間活力を活用し、活力ある地域をつくりたい。またイノベーションや産業育成、ベンチャー支援など若い人にとって魅力的な雇用を創造することを期待したい。

 

 

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