【会見】「需要不足型」から「供給不足型」経済に転換した結果、高インフレに直面した2023年経済見通し=竹森俊平氏

 

 

 

ゲスト:竹森俊平・経済産業研究所上席研究員
テーマ:「2023年経済見通し」
日時:2023年1月16日@日本記者クラブ

 

経済産業研究所上席研究員の竹森俊平氏が世界経済に高インフレ時代が到来した背景と、そのなかで日本がとるべき施策について話した。

竹森氏は1997年から2021年まで慶応義塾大学経済学部教授を務めた。三菱UFJリサーチ&コンサルティング現理事長。

 

■高インフレが起きたのは「需要不足型」から「供給不足型」経済に転換したため

 

・前回ここで話したのはユーロ危機の時だった。今も危機的な状況にあることは同じだが、データモデルで経済予測をするのではなく、いま何が問題かという観点から指摘をしたい。

・読売新聞に月1コラムを持っていて、そもそも「こういう状況で経済が見通せるのか?」と考えている。

・要は今年もインフレ気味な状況が続くだろう。水準が2%目標より高い。これまでと異なる政策になるだろう。

・何でインフレが続くのか。一言で言えば、世界経済が「需要不足型」から「供給不足型」へ転換したからだ。

・高インフレ率は1970年代にもあった。それも長引いた。利上げすると需要が減る。安定した仕事のない庶民が困る。上げても上げなくても庶民から不満が来る。さてどうするか。政治家はだらだら悩み続けた。米はインフレ抑制に10年間もかかった。

・供給側に問題がある、供給側に原因がある場合には経済への打撃が極めて大きく、金融引き締めにも手心が加わりインフレは長期化する可能性が高い。

 

■供給不足の背景にはエネルギーギャップがあった

 

・供給不足の構造的要因の1つはエネルギーギャップ。ロシアのウクライナ侵略で浮上したが、不足の背景には構造要因があった。

・脱炭素の動きが既に台頭しており、ガソリンを電気に変える動きが表面化していた。エネルギーの需給から考えると2030年代に自然エネルギーが主力になるまでは依然として化石燃料の増産も必要だった。

・しかし化石燃料への投資は金融市場には不人気なため停滞し、需給ギャップが出てきた。それをロシアは利用して、そのタイミングで戦争を仕掛けた。

・ロシア産石油やガスを国際需給から外す動きが生じている。ガス外しは大変だ。欧州はガスの4割をロシアに依存しているからだ。ドイツに至っては55%もロシア産ガスに依存している。

・ロシアを外した場合、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)もしくは米国のシェールの生産を上げなければならない。しかしそれでもサウジなどの増産でもロシア分を埋め切れない。G7はロシア産原油価格に80ドルという上限価格を設けた。

・ガスについてはロシアは先手を打って供給削減に踏み出している。ノルドストリーム1の対欧州供給を減らしている。欧州はLNG確保に奔走したが、去年の冬を乗り切れても今年の秋から冬にかけて問題が深刻化する見通し。

 

■2つ目の供給不足は米の対中半導体政策

 

・2番目の供給不足は対中半導体政策。中国の半導体が技術更新できないようにする。中国製品の技術が劣化して「ガラパゴス化」させることが狙いだ。

・そうなれば中国の軍事脅威も先端産業を中国に独占される脅威も消えてなくなる。米国はこうした政策を進めている。

・中国に新製品の半導体を供給した企業を米国の補助金の対象から除外し、AI、スパコンに関わる半導体技術の輸出を禁止している。

・中国は米国を世界貿易機関(WTO)に提訴。米国はトランプ政権時代に続き、「安全保障」を目的とする保護貿易措置なら黙認するというWTOルールを盾に方針を貫いている。国際貿易の根本原則は経済効率から経済安保に転換した。

・米国の政策の結果、中国産半導体の品質の劣化と高価格化が起こるなら、中国半導体を搭載した中国製部品にも劣化と高価格化が起こり、西側企業は、中国を外したサプライチェーンの再構築を図らなければならなくなる可能性がある。

 

■日中対立の狭間を担うのは日本なのに・・・

 

・半導体はいまどんどんナノ化(微細化)している。中国が半導体の更新をできないとナノ化がストップする。日本や米国なら1個のチップで情報が十分あるが、中国の場合、チップが大きく半導体が2個必要。値段がかかるし性能も落ちる。

・中国は現在世界のサプライチェーンの中心に立っているが、中国産部品は中国産半導体を搭載している。チップが2個必要になり高価格。こうなると、中国がサプライチェーンの真ん中にいられてもまずいので中国を外して他所に行こうという動きが起こる。

・どこへ行くか。中国製造業が後退した穴は他の国の規模拡大で埋める必要がある。候補となる国は限られ、その先頭に立つのは日本。そこに日本の活路があるのではないか。

・米国の対中制裁が本格的に実行されるのは2024年。23年はそれまでの準備期間だ。準備が進んでいるのか気になっているが、どうやら日本はあまり準備していないようだ。

・今半導体は余っている。コロナのため需要の落ち込みがあって供給過剰になっている。世界のメーカーは投資を減らしている。しかしSamsung(サムスン)は投資計画を変えない方針だ。強気姿勢を貫いている。米中対立の狭間で商売の機会がどっとくるから、ライバルを引き離してシェア拡大のチャンスだからと攻撃的な投資を行っている。

・サムスンがやっていることは日本がやるべきことではないか。13兆円もの現金預金を持っており余裕がある。投資で攻めるのが重要だとの方針を傾注するのは面白い。

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