【展示会】今や正々堂々と「天然を超えた国産養殖魚」と明言する大学教授も現れ、天然魚を取り巻く形勢は一挙に不利になった今年のジャパン・インターナショナル・フードショー
■陸上養殖は産業として確立も
第25回ジャパン・インターナショナル・シーフードショーが8月23~25日、東京ビッグサイトで開かれた。魚・シーフード・水産加工・鮮度保持技術の国際見本市で、主催は一般社団法人の大日本水産会。
最近の水産業界の話題は何と言っても「天然を超えた国産養殖魚」(ゴトー養殖研究所)。今回開講された陸上養殖勉強会も第36回となり、大盛会だった。
同勉強会の廣野育生座長(東京海洋大学教授)も冒頭、「勉強会を始めた頃は講師3人に聴衆は3人とか4人しかいなかった。そういうのが何年も続いた。人数が少ないからやめるんではなくて、少なくてもこういう勉強会へ来てくれる人がいれば続けましょうということで続けてきた。2015年くらいに陸上養殖勉強会という会を立ち上げた。それからどんどん会員も増えていまは1000人を超えている。今回は座席を200席用意したほどだ。それでも立ち見が出るほどだ」と喜んだ。
同座長は「現在は陸上養殖の第二次ブームではなく、産業として出来上がってきたのかなという感じはしている。ただまだ安心はできなくて、これからも頑張っていきたい」と述べた。
廣野座長は「これからは食べ物を作ることだけではなく、環境に優しい、サステイナブルであることも考えた陸上養殖が発展していことを願っている」と語った。
「陸上養殖は本当に環境にいいのか。粗放的な池養殖で生産する場と陸上養殖を比較すると、陸上養殖はガンガン電気を使用する。消費量は漁獲漁業の10倍だ。CO2の排出量も10倍になる。目に見えないところで環境負荷が増えている。そういったことも今後考えた陸上養殖が発展すればいいなと考えている」と述べた。
■今年4月から陸上養殖を届出制に
・陸上養殖に関する実態調査(零和4年度)、届出制の状況について、水産庁増殖推進部細馬養殖課栽培養殖専門官・大門高久氏が説明した。
・近年、様々な魚類養殖がされている中で陸上養殖についても企業化されているものが増加している。大資本を背景として陸上プラントだとか、閉鎖式循環養殖の計画が各地で展開されている。特に異業種からの新規参入が相次いでいる。
・陸上養殖にもいろんなタイプがあって水をそのまま掛け流す掛け流し式、RASと呼ばれる閉鎖式タイプもある。閉鎖式陸上養殖が少しずつ増えている。RASは環境負荷を与えない、病原体の流入・流出を防止する、水温調整が可能なので出荷時期が人為的に可能になる、陸上作業なので高齢者の作業が可能であったり、女性の活躍が期待されている部分もあるなどの利点がある。
・一方で閉鎖式なので病原体を持ち込んだ場合のリスクが高まると非常に危険な場合もある。飼育水の確保が非常に大事な部分で、参入企業はかなり気を遣っている。停電等があった場合、養殖の水産物が全滅する可能性があるため蓄電池など停電対策が必要でコストがかかる部分もある。
・様々なメリット・デメリットがあるが、企業はそれらを考えた上で参入していると思われる。
■ヒラメ、クルマエビ、トラフグで全体の5割
・一番多いのはヒラメで約2割、2番目はクルマエビ、3番目はトラフグ。3つを足すと全体の約5割になる。
・事業者別生産規模でみると、令和2年の調査では10トン未満の事業者が約7割、10~50トンが約2割。令和3年では10トン未満は約6割、10~50-トン約3割という結果が出ている。10トン未満の小規模事業者が多い。
・ヒラメは掛け流しが約7割、地下海水の2割を足すと約9割が掛け流し式。クルマエビは掛け流し(地下海水を含めると)約8割。一方トラフグについては全体の5割が掛け流し式で残り半分が閉鎖式。前者と違った傾向を示している。
・課題があるとした参入者は全体の73%あった。土地選定(水が大事)、技術面での支援、電気代の高騰対策を求めている。
・陸上養殖の実態を把握する必要がある。令和5年4月1日からスタート。対象となるのは食用の水産物を海水や淡水の塩分を加えた水等を利用しているもの、閉鎖循環式で養殖しているもの、餌や糞を取り除くもの。古くからあるマス、コイなどは対象外。
■養殖魚がおいしくなっている
・福井県立大学海洋生物資源学部の佐藤秀一教授が「天然を超えた国産養殖魚」の題で話した。
・最近では養殖魚がおいしくなっている。なんでこんなにおいしくなったのか。
・水産養殖魚は世界的に発展している。漁獲漁業の生産量は一定なのだが、海面、内水面を含めて養殖魚は非常に発展している。2012年の生産量だけをみると、養殖業が漁獲漁業の量を追い越してさらに発展している。
・中国、インドネシア、中国、インド、ベトナム、バングラデシュなどアジア諸国の養殖の生産量は伸びている。鯉、鮒が一番多い。日本では養殖されていて消費も多いサケ、マスも右肩上がりで生産量は伸びている。
・その中心になっているのがノルウェーやチリ。ノルウェーの生産量は1992年に下がった。餌の中の油を多くして魚の体重を増やした。それによって生産量を上げる努力をした。その結果、まんまるとした(油太りした)魚ができてしまった。バターフィッシュと呼んでいた。売れなくなった。倒産企業も出て生産量が落ちた。
・この経験を踏まえてノルウェーでは生産現場、加工について勉強し油太りする魚を作らない。すぐ電気ショックでと殺してきれいにし世界に箱詰めにして送るシステムを作り上げたおかげで同国の輸出量はその後伸びている。
■日本人は養殖魚を食べるようになっている
・日本を見てみると、ピークは1984年(昭和59)。これはマイワシの漁獲量が多かったから。それ以降は生産量は下がっている。世界での養殖の生産量は大きく伸びているが、日本の養殖はあまり伸びていない。ほとんど変わりない。若干下がっている。
・生産量をみると25%くらいだが、生産額は40%くらい。水産養殖で作られているものは普通のものに比べると高い。海水魚の生産量とほとんど変わっていない。日本の養殖業頑張っていないのではないかと言われるが、日本人の魚を食べる量は下がっている。他国は伸びている。
・過去15~16年間で60%くらいまで下がっている。だけど生産量は変わっていない。このことは日本人が養殖魚をたくさん食べるようになった。イワシの味がするとか魚粉臭がするとかおいしくない、厚生物質が入っていないか心配だという悪いイメージがあったが、今の養殖魚はマイワシはほとんど使っていないので臭いはしない。
・流通形態も改善されて野締めから生き締めになっている。これによって日持ちもいい。ワクチンが開発されることによって厚生物質などの需要はほとんどなくなった。餌自体も改善されて固形飼料、さらに低魚粉、無魚粉飼料に変わりつつある。
・天然魚は生産、品質が不安定だが、養殖魚の場合は年を通して管理された環境で飼育するため生産や価格は比較的安定している。餌の量が管理されているのでできた魚の成分も整えられている。消費者が望む品質ができる。生産、品質が安定している。餌の改良、漁業の診断・健康管理、養殖場のモニタリング、ワクチンの普及などによって生産技術が改良された。
・天然魚の場合、漁獲してほとんどが野締めして出荷するため鮮度が落ちたり劣化が進みやすい。多くの天然魚の場合季節によっておいしさの指標である脂の乗りや身の締まりなどが大きく変化する。ほんとに旬の時はおいしいが、それ以外の時はあまりそうではない。おいしさについてもばらつきがある。脱血(血抜き)。一部の天然魚ではやられているが、十分でないために身質や鮮度の劣化が早くなる。
・養殖魚の場合はきちんと管理し電気ショックなど速殺によって鮮度の落ちとかを防ぎ、おいしい魚を市場に出す。歯ごたえが持続し生臭みがなくなったり身質、鮮やかさを保つ魚が登場してきている。
■固形飼料の使用で管理した養殖が可能に
・魚の味に大きく影響するものが餌。生餌原料→モイストペレット(半固形状の飼料)→固形飼料に変わってきている。固形飼料に変えることで栄養成分をコントロールすることによってできた魚の品質を上げている。養殖魚の味を消費者の希望に合わせようなこともできた。
・今まで生食できなかった魚も生産できるようになった。今のお客はサケを寿司で食べるのが当たり前だが、昔は生食では食べられなかった。ルイベという凍らせた状態で食べる方法でしか食べられなかった。サバについても関鯖とか豊後鯖など一部については生食も可能だったが、普通に漁獲したものは食べられなかった。アニサキス。
・安全・安心して魚を食べられるようになった。薬物や餌の問題。飼育の履歴が分かるようになった。マイワシがたくさんとれたので人間が消費仕切れなかったものを魚に与えていたが、今はそんなことはできない。ブリ、真鯛、サケの80%以上を固形飼料が占めている。これらを使うことによって管理された養殖が可能になった。
・餌によって見た目も違うし、臭い(よい場合は匂いと表記する)も違う。臭いが違うと味が変わってくる。おいしい魚をこれからどんどん作れる。
・養殖魚の大部分は人工飼料によっている。ブリも最近では人工飼料が増加している。クロマグロもそう。最近ではウナギもそれに挑戦している。もう少したつと人工飼料を食べたウナギが出回る。
・ほぼ1年中、おいしくて旬のようなお魚を養殖魚は作ることができる。養殖魚のアドバンテージとしては生態系に優しい、環境に優しい、生産量が安定する、価格が安定する、安心、魚の味をコントロールできる。これらの結果が如実に現れているのが東京都月平均単価。寒ブリの時の単価は高くなっているが、養殖物のハマチは平均的で天然魚よりも高い。高く売れる。養殖魚がおいしいことの証拠になっている。
・養殖魚も黒毛和牛の値段と同じようなランクに評価されてもいいのかな思っている。本当においしく作った養殖魚は天然魚とは全く違うものだからだ。
■魚粉の代替飼料を研究中
佐藤秀一教授は講演終了後、「実際に天然の魚との比較はないのか」との会場からの質問に答えた。これに対し、「今回はサンプルが合わなくてできなかった。講演の中で示したようになかなか合わせるのが難しい」と述べた。
またブリは旬の時期の魚とそうでない時期の魚はかなり違う。おいしい時とそうでないときの差が大きいので、その時の味の違いが分かると「天然を目指す、それを超える」という養殖技術はもっと発展していくのではないか。
ブリの場合は脂の乗りが全然違う。寒ブリは非常に脂が乗っているが、それ以外はそうでもない。おいしくない魚になってしまった。真鯛は天然魚と養殖魚の値段はほぼ同じ。カンパチは養殖魚のほうが天然魚よりもずっと高いというデータが出ている。
同教授はこうしたデータから「その辺を参考にすると養殖魚は天然魚に追いつけ追い越していると私は思っている」と述べた。
また固形飼料を今後進めていく上で課題は何かとの問いには「今魚粉の値段が非常に高くなっている。それに代わる飼料原料を探している。特に大豆、トウモロコシ、小麦などの植物性原料がメインだが、陸上の家畜との競争にもなるので、それ以外のものとして今まで使っていなかった昆虫類とかを使いながら安定した飼料価格、性能のよい飼料、それを食べた方々がおいしくなる飼料の研究を行っている」と語った。
「魚によって固いエサでも食べる魚と少し柔らかくないとよく食べてくれない魚がいるので機械(エクスクルーダー)を使うとその辺が調整できるのではないか」と述べた。
天然と養殖の(固さとかの)食感の違いについてはどう変わっていくのか。と殺してから出荷するまでの間が非常に大切になってくると思うと同時に、急速冷凍した場合でも食感が保てるような加工技術が研究されていると答えた。ちまた的には養殖魚は少し柔いとか言われているが、そうした点はエサなどで改良できるのかについては、「エサだけではなくて、泳がせることによって筋肉をしっかりさせるなど養殖魚の環境作りなどによって可能かと思う」と答えた。
運動させすぎると太らなくなるので適度な運動は必要と答えた。
■養殖魚共通のあの味
一方で昔からあるのが「天然物」と「養殖物」の対決話。最近は確かに「養殖物」が「天然物」を凌駕するケースが続出しているようだが、それでも「天然物」に軍配を上げる人の話も聞かないと記事として公正さを欠くことになるではないか。
天然物に軍配を上げる場合、『天然ものでも「質の良しあし」と「食べるタイミング」が大切』だという。そう言っているのは鮨武の店主。彼の主張には反論できないとんでもない力がありそうだ。
東京・代々木上原の鮨屋のブログ氏だが、天然物の美味しさを味わうには①質の良い魚で②締めてから3日ほど寝かせて食べることが大切らしい。
店主が気にするのは「養殖魚共通のあの味」。「鯛でもハマチでもカンパチでも平目でもアジでもサバでも鮪でも全部同じ。それぞれの魚の味にまぎれて、共通の『養殖魚の味』が入っている」。
これは「多分エサが原因」。煮ても焼いても消えないとか。食べた瞬間ではなく、噛んでると後から口や鼻にふわっと上がってくるらしい。
■天然魚の味を感じられる人も
半面、天然魚にある「うま味」や「甘さ」は感じられないともいう。ひどい時は瞬間的に口呼吸に切り替えて速攻で飲み込み、目の前の飲み物で口内をウオッシュ必須とも。
鮨武氏も「漁獲量がどんどん少なくなっている現在、養殖魚の必要性は益々高まっていくので養殖業頑張れ」と養殖魚を応援してはいる。
そんなに敏感な舌を持っていない圧倒的に多数の人にとっては養殖VS天然対決は難しい話だが、単純に「養殖物が天然物を上回っている」という話ではないらしい。
広い世の中には天然物の深い「うま味」や「甘さ」をしっかり自分の舌で感じられる人がいるということだ。そんな舌を持たない自分がとやかく言うこともないらしい。