【セミナー】韓国を抜いて在留外国人2位に躍り出たベトナム人から見た日本の魅力と親和性=「労働力だけが欲しかったが、やってきたのは人間だった」スイスの轍を踏まないために
■在留ベトナム人、韓国人を抜いて第2位に
一般財団法人アジアフードビジネス協会(渡辺幹夫理事長)は10月11日、東京都豊島区の自由学園明日館講堂で、人手不足が顕在化する中存在感が高まっている在留ベトナム人に焦点を当てたセミナー「グローバルビジネス成功に向けた人材活用最前線!」を開いた。
同セミナーは日本産の農林水産物・食品のブランディングのためにオールジャパンでの消費者向けプロモーションを担う組織として日本貿易振興機構(ジェトロ)内に創設された日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)の北川浩伸執行役をファシリーテーターとして進められた。
今回ファーカスを当てたのは在留ベトナム人。近年急激に増加しており、韓国人を抜いて今や中国に次ぐ地位を占めている。
多くのベトナム人が日本で働いており、人手不足の担い手としてビジネスの連携も深まっている。今回のセミナーでは短期間で急増しているベトナム人の実態に迫り、今後の可能性について議論を深めるのが狙いだった。
外国人雇用に活路を見出す日本の外食企業を代表して大阪に事業基盤を持つ千房の中井貫二社長、日本とベトナム両国に事業基盤を持ち日越間交流ビジネスに尽力しているブリッジ・グループのグェン・ボ・フェン・ユーンCEO(最高経営責任者)から話を聞いた。
■今回のセミナーは「実践塾」の復活版
北川氏はジェトロの理事を務め、組織マネージメントやハノイ事務所長を含めジェトロ海外事務所での経験が豊富なことに加え、国内サービス産業のグローバル展開で事業者支援にも取り組んできた実績を持っている。2021年7月からはJFOODO経営管理・広報・渉外担当執行役を務めている。
北川氏はジェトロ時代の2014年から「サービス産業海外展開のナレッジ共有と業態を超えたネットワークの構築」をテーマに、「グローバル・サービス実践塾」を手掛けており、今回のセミナーは6年ぶりの復活版となった。
同実践塾の代表幹事はスポーツクラブを運営しているルネサンスの斎藤敏一会長となっているが、実質的な事務局はジェトロの北川氏が担っていたと斎藤氏は自身のブログで明かしている。
北川氏はあいさつの中で、言葉がよくないかもしれないとしながらも、「オンラインというのは所詮手段にすぎない」と述べ、「これを活用し、どう付加価値を付けていくかが重要だ」と語った。
ジェトロにとって海外に行けないことは「ほとんど意味がない」。「海外につなぐことができないのは全くどうにもならない」と述べた。
食品については特にそうで、香港のジェトロに日本の食品を並べた。それを「サンプル商談会」と銘打ち試食もできるようにした。東京とはオンラインで結び、必要なら商談もしませんかというビジネスモデルを作った。これは大当たりした。
人の動きはできないが、モノの動きはできる。日本国内とはオンラインで直結し商談会も可能にした。サンプル商談会はわずか1年半くらいで急成長した。
■大阪外食業界が万博にパビリオン出展
大阪外食産業協会(ORA)は2025年4月から大阪で開催される大阪・関西万博への出展を決めた。大阪で外食と言えば「お好み焼」だが、お好み焼を代表するのが「千房」であり、中井貫二社長だ。中井社長はORAの会長でもある。
その関連からかどうか知らないが、ORAの成瀬事務局次長からオンラインでパビリオンについて説明があった。
コンセプトは「食べる、笑う、生きる。それは『輝くいのち』そのものだ!」。天下の台所「大阪」は、御飯で人を笑顔にしてきた街。大阪の食には必ず「人」がいる。熱が宿っている。この活気に満ちた喜びを食べる機会が今回の万博だ言う。
新しい外食のあり方を、世界に「宴~UTAGE~」として定着させていきたい。日本の外食産業を、関西から元気にしたいというメッセージを込めている。
大阪の「天下の台所」の文化に新しい「賑わい」の精神を吹き込んだ「新・天下の台所」を通して、日本全国で外食を元気にしていきたいと望んでいる。
■外食産業はもう一度アクセルを踏む時期
その後登壇したのはお好み焼きチェーン店「千房」の中井貫二社長。コロナ禍で閑古鳥が鳴いた外食産業の窮状を振り返ったのち、3年を経てようやく外食産業も復活してきたとし、「もう一度アクセルを踏むべき時期にきている」と述べた。中井社長が話した主な内容は次の通り。
日本食はヘルシーフードとしての認識が世界的に知られている。日本食レストランの値段は高いが、富裕層にはよく利用されている。
外国人のインバウンドは2019年まで順調に推移していたが、コロナによって一気に激減した。22年10月の緩和措置によってなんとか盛り返した。
千房の道頓堀店には1日1200人が来店する。9割が外国人。そこで働いている従業員の半分以上は海外の留学生や外国人。訪日客の目的はやはり「飲食」だ。「日本でおいしいものを食べたい」。
日本は人口が減少しておりトップランナーを走っている。昔は200万人以上が生まれた。それが80万人を切っている。人手がいない、人手がいないと行っているのか。「そもそも生まれていない」。
2050年には1億人を切り、2100年には高位推計で6407万人、中位推計で4771万人、低位推計で3770万人になる見通し。まだまだ人口減少は深刻化していく。
■事業環境は依然厳しい
これだけ訪問客がきて、もうかっているんでしょうと言われ、「ぼちぼちでんな」と答えたいのだが、実態は「ぼちぼちではない」。もうかっている店や賑わっている店もあるが、実際のところは飲食業の倒産件数は過去30年間で最大だ。
確かに人が入っているが、われわれの商売は資金繰りがすべて。どれだけ黒字でもどれだけお客様がこられても資金繰りが止まった時点で倒産だ。厳しい事業環境が続いている。
原材料が値上がっている。「またかいな」と言われるが、値上げをせざるを得ない。この流れはなかなか止まらない。為替も円安が続いており、先行きを読めない。
人手不足の対応策としては単純に言うと労働環境の改善、業務効率改善、外国人の採用がポイント。特に新人材の取り込みでは外国人の採用を避けて通れない。人材不足分を充当し独自の付加価値を生かし連携することで国際化も推進する。魅力的な店舗や一緒に働きたいと思ってもらえる店舗作りを進めている。
飲食店の最大の付加価値はやはり人。人が作った料理を人の手でお客様にお渡しする。温もりを感じられる。コミュニケーションを図っていくのが最大の付加価値だ。
■ベトナム人に多い失踪者
技能実習生の失踪者数の推移(平成25年~令和4年)によると、失踪者合計は9246人と過去2位だった。そのうちベトナム人は6016人と全体の65%を占めた。
労働環境(コミュニケーション不足、低賃金、暴行など)やコミュニティーの形成に伴う弊害が原因と思われる。現状を踏まえ、新たな取り組みや制度の新設が検討されるべきだ。
「われわれは労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」(スイス人作家マックス・フリッシュ氏)。ヨーロッパの移民政策の問題点を指摘した言葉だ。
スイスは積極的な移民大国。たくさん受け入れていて今でも4分の1は外国人。働いてくれる人が欲しかった。労働力として必要だった。
スイスは単純に労働力を欲しかった。だから移民を採用した。当然のことながら外国人にも人権があり、家族もいる。喜怒哀楽もあって感情も高ぶるし文句も言うし病気もする。そういうことを当時のスイス人は理解しなかった。
労働力以外は望んでないよと言うが、働いてくれる人はみんな人間。単純に労働力だけを望むのはおこがましい。日本の現状も同じようなことになっていないか。
雇用をする側が主張していかないと50年前のヨーロッパと同じような問題が起こるのではないか。労働力を欲しがっているから外国人材がほしいと思ったら同じようなことになってしまうのではないか。
■ベトナム人は優しくて温厚
千房はベトナムの首都ハノイ市内に2店舗を出店している。新たにもう1店舗出す計画をしている。お好み焼は意外とアジアでは受ける。何食かと思うが、ソース、マヨネーズは洋食だが、青のり、鰹節は和食。日本独特の日本食だ。
ある程度ローカライズしているが、ベースの味は一切変えていない。メニューはかなり多い。東南アジアでは品数が多くないとだめ。地元の客に愛される店で展開している。
変えてはならない点は変えない。サービスはもてなし。日本のおもてなしをしっかり体現できるようにしている。
ベトナム人スタッフは温厚で親しみやすく、真面目で勤勉。言ったことをしっかり理解したうえで再現してくれる。日本人にもなじみやすく、労働者として頼りになる存在だ。
日本流のおもてなしを海外の従業員に対して浸透させるのは難しい。仕事中に携帯電話を触るのはNG。これは徹底して理解させる。
外国人人材は人員不足を補う存在であるとともに、国内店舗に来店される外国人のお客様対応(インバウンド対応)、また海外において国際化を進める役割(アウトバウンド対応)にも活用できる。ハノイの千房で働き、日本留学後は大阪・道頓堀の千房でも即戦力として働いてくれている人もいる。
日本とベトナム外交50周年。親和性もあるし交流も持てる。ベトナムに注目している。さらにもっと交流を深めていきたい。
大阪で万博が開かれた1970年は何もなかった。2025年は何にもかもある。唯一の食のパビリオンも出展が決まったのは嬉しい。
■日本とは親密な関係
続いて壇上に上がったのはN&V BRIDGE GROUP のホアン・ナム・フォン氏。同グループは2011年3月、日本で設立され、主に日本企業向けに対ベトナム進出・投資に関するコンサルティング業務を提供している。従業員数は250名、日本は東京、静岡、福岡、ベトナムはハノイ、ダナン、ホーチミン市と全部で6カ所の駐在員事務所を構えている。同氏は概ね次のように述べた。
外務省の調査(2022年1月)によると、ベトナム人にとって日本は親密で友好的な関係を築き、多くの良い印象を持つ国である。重要なパートナーとの認識は米国の71%に続き70%で2位だった。両国関係についても友好的であるとの回答が96%、信頼関係もあると95%が答えた。
またベトナム人にとって日本の魅力はどういうふうに映っているのか。同調査によると、76%は豊かな伝統と文化、63%はアニメ、ファッション、料理などの新しい文化の発信、62%は生活水準が高い、59%は自然の美しさを上げた。
在日ベトナム人は昨年末時点で48万9312人と韓国を抜いて2位にのし上がった。1位の中国は76万人強。日本は旅行、留学、キャリア開発、長期滞在のためにますます多くのベトナム人に信頼され、人気のある目的地になっている。
■類似点や相違点が多いが、ともに発展の道を
ベトナムと日本については、①礼儀正しい文化で、相手に対する敬意が大切だと認識している②教育と家族が社会で重要な役割を果たす③地域の方言および文化の多様性もある④性格は勤勉で真面目、親切で世話好きーなことなどを類似点に挙げ、ベトナム人材は日本企業から高く評価されている。
一方、相違点もある。伝統価値についてベトナムでは多世代家族モデルで住む家族第一主義が根強いのに対し、日本では核家族モデルが一般的となっている。
また時間に関する態度については、ベトナムでは時間順守意識はまだ重要視されていないが、日本では時間順守が欠かせない。
仕事文化ではベトナムでは必要な場合または残業代をもらう場合に限って残業するのに対して、日本では残業は労働習慣であり、会社への献身的な姿勢を示している。
いずれにしても日本とベトナムでは多くの類似点と相違点があるものの、両国はお互いから学び、ともに発展することができるとしている。
■技能実習生を大切に
日越貿易に造詣の深い北川氏はファン氏の話に以下のようにコメントした。
ベトナム人と日本人は分かりやすい。もちろんなにがしらの障壁はあるが、ベトナム人はとにかく家族を大切にする。人間は「お互い様」であり、日本人はそれを理解することがとても重要だ。
日本のためになる仕事をやってくれるベトナム人が私が務めていた日本の会社にもいた。ベトナムではなく日本にコミットできるのはすごいと感じた。これは大切にする必要があると思った。
ベトナムと日本でうまくやっていくコツというのは相手の関心を重視する姿勢を常に持っていることだ。グローバルな仕事をする場合、必要だろう。
時間塾でいうと、ベトナムは日本の1970年代後半から80年代くらいの経済力。そういった時代観を自分で持った上で相手と接するのが効果的かもしれない。
日本から出張してくる日本人経営者に国内のベトナム人技能実習生をぜひ大切にしてくださいと必ず言っていた。賛同してくれる経営者もたくさんいたが、下向いている経営者もいた。若い人を大切にするということは両国関係をサステナブルにするし、日本を大好きになってくれる。
そうでなければベトナム人は日本を好きでなくなるかもしれない。産業競争力の維持という面では大きな損失になるのではないか。仲良く楽しい関係を築いてお互いに共生をしていい方向に行きたい。
■ベトナムの新入生は200万人
ユーンCEO氏=ベトナムの新入学生(1年生)は200万人。すごい数だ。1学年は昔は6クラスだったが、今は10クラスや15クラスが当たり前となっている。1クラス40名。
ベトナムのソン教育訓練相がこの日、盛山正仁文科相を表敬訪問し、日本型教育の海外展開事業である協力覚書交換式を行った。日本の教育に関心を持つ国に日本型教育の「ヘキサスロン運動プログラム」を展開する。プログラムは大手スポーツ用品メーカー、美津濃が開発した。
ヘキサスロンは運動が苦手な子どもでも楽しく遊び感覚で「走る」「跳ぶ」「投げる」など基本的な動作を自然と身につけられる運動遊びメニューと運動能力測定を組み合わせたプログラム。
ユーン氏は在日ベトナムサッカー協会の理事を務めている。ベトナムの都市部の小学校にはグラウンドがなくプールもない。運動スペースがない中でどう運動能力を引き上げるのか。上げないとサッカーも強くならない。
スポーツができないので限られた環境の中で何ができるのかという発想の中から遊びグッズを美津濃が開発した。体育の授業を楽しんでもらう。体力を付けてもらう。
ベトナム人には日本の自然への関心も高い。戦争で古い建物が破壊されほとんど残っていない。100年以上残っている物はほとんどない。100年以上続く老舗企業などもベトナム人にとって信じられない存在だ。
私の中ではこんなに公園の多い国は日本以外にないのではないか。東京・千代田区の公園の数はハノイ全体の公園の数より多いと思う。
■調査は不可欠
中井氏=ベトナムは逆に魅力的なコンテンツをたくさん持っている。女性や健康に気にする人は特にベトナムの食事を好まれる。ベトナム料理店は人気で女性ばかり。パクチを好きな人も多い。うちのベトナム店にもお好み焼の上に山盛りのパクチを乗せるパクチ焼がある。
ベトナムの街を歩いていても太っている人が少ない。健康な人が多い。公園もあって自然を好む国民性は日本と親和性があるのかなと感じる。
人は真面目で勤勉で、言われたことを忠実にやってくれる。ベトナム人が話す日本語は非常にチャーミング。「豚玉 ひとちゅ」「やきそば ふたちゅ」。無茶苦茶可愛い。何であんなに真面目なのか。
ユーン氏=学校で教わったことや海外と仲良くなるためには真面目にならないといけないということも教えられている。
中井氏=日本流の「おもてなし」は世界で理解されにくい。「そこまでやらなくてもいいでしょ」という気持ちがある。フィリピンやもっと南国の人たちは全く理解しない。なんでそんな非効率的なことをしないといけないのか。
ベトナム人はある程度日本を理解しやすいし、真面目なのでその通りやってくれるが、おしぼりや水の提供の仕方など。テーブルのガスの付け方など他の国は理解してもらうのに時間がかかっている。
ユーン氏=日本流のサービスをどういうふうに理解していたのか。最初はなんでそこまでやらないといけないのか、エビを食べるのに別のおしぼりを出すとか、「手間が増えるじゃありませんか」全く理解できなかった。
コストも上がると思ったが、丁寧にサービスすることで「印象を残す」。これは戦略であると教えられた。「ああ、それ良いですよね」。それなりのおもてなしのサービスをできるようになった
北川氏=製造業なら知識を形式化するのは割とやりやすい。こういう手順でこういうものを作りましょう。職人さんが守っていることを形式的に行う。対人間のサービスの要素が多い。異文化の中でコミュニケーションを取りながら訴えるようなことはまた難度が高くなる。
認識が違う。認識がずれたままでは商売にならない。難しい仕事をしているという意識がないのも本質的な問題だ。正解ということはない。これとこれとこれをすればマルということにはならない。
中井氏=ベトナムで商売するのはハードルが高いことも申し上げておく必要がある。独立資本で日本の企業を作るのはなかなか難しい。物がなかなか送れない。時間がかかる。お金の行き来もハードルが高い。
レギュレーションもあってハードルが高い。本当に下調べをした上でジェトロと相談しながら進められた方が望ましい。オープン日に小麦粉が届かなかった。バックパック(リュックサック)で持っていく、手荷物で持っていくことで何とか間に合った。一番大きなスーツケースにビニール袋の小麦粉を満タンに詰めて送り込んだ。これが税関でひっかかったら大変だなと思った。
北川氏=モノを知っている人が結局勝つので調査は不可欠だ。
■たくさんのヒントを生かせー渡辺理事長
最後にあいさつしたアジアフードビジネス協会の渡辺幹夫理事長は、「日本人だけではできない。海外と一緒に仕事をするか。今回はベトナム人と日本人、いろいろ親和性や違いもあるが、どのようにハーモナイズしていくか。今回のセミナーの中には今後のコロナ明けの外食産業を考えていく中でヒントがたくさん潜んでいる。これからもビジネスサービス実践塾をサポートしながらみなさんと一緒に歩んでいきたい」と述べた。