【映画】松本幸四郎を主役に「新時代の鬼平犯科帳」が開幕=すさまじい迫力と切れ味鋭い”ド正統”な時代劇を楽しんだ日
■劇場版「血闘」
「鬼平犯科帳」のSEASON1が始まった。今年1月に放送・配信となった2時間スペシャル「鬼平犯科帳 本所・桜屋敷」を皮切りに、5月10日公開した劇場版「鬼平犯科帳 血闘」、それ以降に放送・配信予定となる「鬼平犯科帳 でくの十蔵」、「鬼平犯科帳 血頭の丹兵衛」の4作品だ。来年5月にはSEASON2の製作も予定されている。
SEASON1全4作品のうち劇場版は1作だけで、残りは「時代劇専門チャンネル」で放送・配信される。
鬼平犯科帳は好きだが、これまで主に見ていたのはテレビ版。時代劇専門チャンネルやBS放送を通してだった。
池波正太郎の代表作「鬼平犯科帳」をめぐっては時代劇専門チャンネルを運営している日本映画放送株式会社などを中心に、時代劇パートナーズが池波正太郎の2023年の生誕100年を記念して映像化に動いていた。
それほど熱心なファンではない私はSEASON1のトップランナーで今年1月にテレビ放送された「桜屋敷」を見ていない。見たのは5月の劇場版「血闘」だけで、正直全体像がつかめなかった。
■鬼平役に松本幸四郎
昭和、平成を駆け抜け、時代劇ファンから絶大な支持を集めてきた、池波正太郎原作による「鬼平犯科帳」。それが鬼平役に十代目・松本幸四郎を迎えて「鬼、新時代。」。
鬼平の映像化は松本幸四郎の祖父に当たる初代・松本白鴎主演で1964年にスタートしたが、その後丹波哲郎(1975年)、萬屋錦之介(1980~82年)へと引き継がれ、幸四郎の叔父・中村吉右衛門が1989年から2016年まで、実に28年間演じて当たり役とした。
今回装いも一新。新時代の「鬼平犯科帳」に突入する。主演も松本幸四郎ならば平蔵の役宅を彩る妻・久栄役に仙道敦子、配下の筆頭与力・佐嶋忠介に本宮泰風、木村忠吾に浅利陽介、酒井祐助に山田純太、沢田小平次に久保田悠来、小野十蔵に柄本時生など、全体に若々しいキャストが集結する。
また事件の探索に欠かせない密偵役には、平蔵と昔なじみの相模の彦十に火野正平、おまさを中村ゆりが演じるほか、小房の粂八役で和田聰宏も参加している。
■ゲストスターも豪華
各エピソードのゲストスターも豪華。第1弾の「本所・桜屋敷」には山口馬木也、原沙知絵、松平健が登場し、劇場版の「血闘」には柄本明、志田未来、北村有起哉、中井貴一が出演している。
また「できの十蔵」には窪塚俊介、藤野涼子、浪岡一喜が出演、「血頭の丹兵衛」の凶賊には古田新太が出ている。各話に顔を出す本格派の盗賊・蓑火の喜之助には橋爪功が存在感を放っている。
監督は中村吉右衛門のシリーズでもメガホンを取った山下智彦。脚本を映画「仕掛け人・藤枝梅安」二部作で池波正太郎が描いたダークな裏社会を見事具現化した大森寿美男が担当している。
音楽は2008年のNHK大河ドラマ「篤姫」が大好評だった吉俣良が担当。新たなテーマと楽曲で重厚な画面を盛り上げる。
■当ブログでも7作品を記事化
私はそんなに熱心な鬼平ファンではないものの、このブログを見ただけでも鬼平関係の記事は7本出てきた。
・『鬼平犯科帳スペシャル浅草・御厩河岸』(2015.12.18)
・鬼平スペシャル『見張りの糸』(2013.5.31)
・鬼平「盗賊婚礼」(2011.9.30)
・「鬼平犯科帳」第4シリーズ@BSフジ(2010.10.19)
・「鬼平犯科帳スペシャル~高萩の捨五郎~」(2010.6.18)
・鬼平犯科帳スペシャル~凶賊(2006.2.18)
・鬼平犯科帳スペシャル(2005.2.12)
鬼平犯科帳は時代劇のヒット作品でいろんな形で映像化が試みられている。原作者・池波正太郎から「原作にないものはやってくれるな」と遺言され、工夫を凝らして映像化するのも限界があったといわれている。
鬼平物で当ブログに最後に書いた『鬼平犯科帳スペシャル浅草・御厩河岸』(2015.12.18)は中村吉右衛門主演シリーズとしては149作目に当たる。それ以降、新作はほぼテレビから消えた。
■”盗賊”現場のすさまじさ
とにかくすさまじい殺陣である。火付盗賊改方の面々もすごいが、「血闘」に登場する凶賊・網切の甚五郎(北村有起哉)による店の者をはしから惨殺する手口もすごい。
これまでの殺陣に比べて2倍も3倍もすさまじかった。松本幸四郎演じる新平蔵もこれまでとは違った熱が入っている。
五代目・鬼平役者として登板した幸四郎は密偵などに優しさをのぞかせながら、一方で殺傷に走る凶賊には”鬼”の厳しい顔で立ち向かう。優と厳の使い分けがなんとも見事である。
平蔵役を演じる松本幸四郎はパンフレットに記載されたキャスト・インタビューで「代々の血を受け継いで”鬼平”を演じられるのは、自分しかできないことと思う」と自信の一端を見せている。
「歌舞伎の場合、先代から受け継いで演じることが当たり前。ただ祖父や叔父はかなりの本数をこなしたが、私は1本1本が勝負だと思っている。その積み重ねで次の作品ができればいい」と述べた。
「まずは目の前の1本に100%の自分をぶつける。『鬼平犯科帳』という確固たるブランドに、これからもチャレンジャーとして挑んでいきたい」と語っている。初々しく、かつ爽やかな新スターの登場である。