【会見】外国人労働者に転職制限を緩和し長期就労を拡大した「育成就労制度」が成立へ=人手不足対策以外の視点での議論も必要と川島真・東大教授
ゲスト:川島真・東京大学大学院教授
テーマ:「中国で何が起きているのか」
会場:日本記者クラブ@2024年5月16日(オンラインで視聴)
中国政治・外交を長く研究してきた東京大学大学院教授の川島真氏が「習近平政権の対外政策ー内政との一体化ー」をテーマに話した。司会は高橋哲史日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)
■日本を含め世界の対中観は悪化
このところ信じられないくらいの多くの中国人が日本に押し寄せている。それも観光客ではなくて移住者だ。
その背景にあるのが中国国内の政治的・経済的状況に対する不満やより良い生活環境を求める願望だ。
最近、日本語のボランティア活動を始めた私にとって外国人の加速度的な流入は不思議ではないが、強権的な対日政策を取る中国からなぜ日本にそんなに多くの移民が押し寄せることについては疑問を感じていた。
米調査会社ピュー・リサーチ・センターによると、2023年の中国を否定的にとらえる国は日本とオーストラリアの87%が最高で、次いでスウェーデン85%、米国83%、カナダ79%、オランダ77%と高く、韓国77%、ドイツ76%、フランス72%と続いている。
日本は2002年が42%と高かったものの、06年は71%に急上昇。その後は80%台から90%台と高水準に推移している。ほとんどの国の対中観が悪化しているのが現状だ。
■中国人大学生の4割が「卒業=失業」状態に
その中国人の目が日本に向いている。3月に同じ日本記者クラブで会見した東京財団政策研究所の柯隆主席研究員は次のように指摘した。
「中国は人材強国のスローガンの下で大学の新設や定員増加を進めた結果、22年の大卒者は967万人と10年前の1.5倍、大学院卒業者は86万人と同1.8倍に増えた。大学生の4割超が「卒業=失業」状態に陥っている」
柯氏はまた、コロナ禍の3年間で中小零細企業の倒産が急増した結果、若年失業者も急増したと強調した。これまではどちらかというと、中国人の移住は貧困層が中心だったが、最近は富裕層に移っているという。
そうした新しいタイプの中国人向けの書店が東京で続々開業しているとも指摘する。書店を立ち上げているのは規制を嫌って日本に移住してきた中国人富裕エリート層だ。中国人に限って言えば、移住の中身が変わってきている。
■背景に深刻な人手不足
日本は従来、スキルを持たない外国人の定住には慎重だった。大卒者や専門性を持つ技術者らの在留期間は上限がない一方、技能実習は通算5年までだった。人手不足対策として設けた特定技能でも、建設など2分野を除き最長5年の「1号」しかなかった。
期間限定型だった外国人労働者の受け入れを、永住に道を開く長期就労型に転換する決め手になったのは深刻な人手不足だった。
国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、20年で約7500万人だった15~64歳の生産年齢人口は50年に約5500万人まで減る。技能を持つ人材が現場を支えなければ国の現場は落ち込むしかない。背に腹は代えられない。
日経新聞の記事のよると、企業は国の長期就労型就労制度の導入を歓迎する。計250人が店舗や工場で働くワタミの渡辺美樹会長兼社長は「(長期就労拡大で)店長やマネージャークラスとして働いてもらえる、大きなプラスだ」ととらえる。
また直営工場従業員の約15%が外国人材の水産大手、マルハニチロも「各拠点で人員を確保できるようになり育成にも注力できる。オペレーター業務など習熟が必要な業務を任せられるようになる」(担当者)とみる。
■中国人が日本でマンションを買う場合
中国人の対日移住者急増問題が将来どのような状況を招く恐れがあるのか。教育の視点から指摘するのが川島教授。
「中国人が日本でマンションを買う場合、そこが一体どこの学校の学区であるかをものすごく気にする。北京でも上海でも若い人たちは自分の生まれた子どもがどこの学校に行けるかは大問題で、良い学校の学区はマンションも高い。この傾向が日本でマンションを買う場合にも表れている」と指摘する。
日本が外国人に門戸を開いたからで、こうしたことが起こるのは「当たり前」だと同教授は言う。「外国人労働者の視点からだけ議論されているが、教育の現場も含めて大きく変化している最中なのでこれが10年後、20年後どうなるか分からない」という。
BLOG「中国人の日本移住ラッシュー理由と影響、共生の道」(行政書士いわさき事務所)によると、中国では経済格差が拡大しているという。
特に中間層の家族にとって重要な良好な教育環境を求めることが難しくなっている。「日本のインターナショナルスクールの学費が割安であり、中国人学生を受け入れる日本の学校も増えている」ようだ。
また「日本では国民皆保険制度が整っており、外国人であっても健康保険料を納入していれば日本人と同じように本人3割負担で日本の医療を受けることができる」ことも魅力のようだ。
■「育成就労制度」創設改正案、衆院通過
技能実習制度を廃止して新たに「育成就労制度」を設けることを柱とした出入国管理法などの改正案が5月21日衆院で可決され、参院に送られた。
改正案は自民・公明両党と立憲民主党、日本維新の会の4党により、永住許可の取り消しにあたっては生活状況などに十分配慮することや、法律の施行後3年をめどに制度のあり方を検証し、必要な措置を講じることなどを付則に盛り込む修正が行われた。
また外国人が日本で長く働けるように、生活や労働環境の整備や待遇の改善などに努めるよう求める付帯決議も合わせて可決された。