【バラ園】1800円の入園料をとる老舗の『京成バラ園』はそれだけの価値があるが、地元の『四季の香ローズガーデン』も無料だしそれなりにすごいよ
■バラ人気が沸騰
5月はバラの季節。もともとバラは貴族の嗜好品だったらしいが、貴族趣味の日本人がいつの間にかひどく愛でるようになったらしい。どうやら私もそれに洗脳されたようである。
とにもかくにも、日本人の生活が豊かになったのだろう。株式投資で運命が分かれる時代がやってきて財産形成にも極端の差が生まれている時代だ。
「当座に必要としない資金のかなりを株式に振り向けるべきだ。日本株のインデックス投資を続けることで10年の間に財産を何倍かに増やすことができる」と楽観論を主張するストラテジストもいる。
花の世界にもはやり廃りがある。凜として咲き誇るツバキは「忍耐」や「生命力」の象徴とされ、縁起の良い花ともてはやされたのは昔の話。今はバラに完全に押されている。菊を愛でるなど昔の話である。
バラの鉢は1鉢が3000円から5000円もする。200~300円単位の他の草花とは比較にならないレベルだ。育てやすいと言われながらも結構枯らしたりもする。栽培する(売る)側からすればそれが嬉しいのだろう。
あまりにも綺麗だからつい自分もすぐにバラ栽培の名人になれると錯覚する。錯覚する本人は楽しいが、熱が入り始めると、あっという間に数万円は飛んでいく。バラにはそれだけの魅力があるのだろうとは思うが、なかなかそれに気付かない。お金も時間も費やしてしまうのだ。
■1600品種1万株が咲く
地元にもバラ園はあるが、やはり日本に冠たる京成バラ園芸が運営する「京成バラ園」(千葉県八千代市)は一度は行ってみたい人気バラ園の1つだ。
京成バラ園の歴史は古く、会社創立は1959年。「世界に誇れるバラを作りたい」「日本にバラの文化を広めたい」という想いから作られたという。
今年5月16日(木)、ようやくその願いが叶った。車で行ったので時間もかかったが、入場料もハイシーズン値段の1800円(大人1人)と高かった。しかし行ってみた感想は「一度は行ってみるべきだ」。期待を裏切らない。
とにかく広い。約3万平方メートル。そんじょそこらのバラ園とは違って春にはしっかり1600品種1万株のバラが咲く。秋には1000品種7000株が見頃を迎える。見渡す限りバラ!バラ!バラ!である。
国内には「かのやばら園」(鹿児島市鹿屋市、8万平方メートル)や「花フェスタ記念公園」(岐阜県可児市)など世界最大級のバラ園も存在するが、京成バラ園は都会派の庭園にもかかわらず時折ウグイスがさえずる意外と閑静な場所にある魅力にあふれたバラ園でもある。
■左右対称に植栽された京成バラ園
京成バラ園の最大の特徴は「整形式庭園」で設計されていること。17世紀から18世紀にかけて主にイタリアやフランスなどで好んで築造された。
広大な敷地に設定した軸線に対して幾何学的な模様を用いて左右対称(シンメトリ)に栽植されている。モダンローズを中心に400品種が楽しめる。京成バラ園オリジナルのバラをはじめ、世界中の有名なバラが競うにように咲き誇っている。見事としか言いようがない。
普通の日本庭園は左右非対称。池を中心として構成され、土地の起伏を活かした人工的な山である築山(つきやま)や自然な庭石、草木も配置される姿とも異なる。
左右対称や幾何学的形状に加工して作られた人工的な秩序ある風景を美とする西洋庭園に対して、日本庭園は自然の風景を美とする。
京成バラ園は西洋式庭園を美とし、バラ園も意識的にシンメトリに造形している。まごうかたなくフランス式庭園である。
一方、「イングリッシュガーデン」でお馴染みの英国の庭園は自然の優れた風景を写実的に取り入れた自然風景観が根底にあるとされる。日本の庭園は自然をそのまま具現化するのではなく、象徴的に抽象化する点に特徴があるといわれる。
■ローズガゼボでハイ!ポーズ
日本のブライダルファッションの第一人者で今年4月に94歳で亡くなったデザイナーの桂由美氏がプロデュースしたローズガゼボ(西洋風あずまや)。ガゼボに設えた鐘は恋人の聖地のシンボルと言われているのだとか。
■噴水をあしらった「エデンの泉」
ほかにも庭園の中心部には噴水をあしらった「エデンの泉」もある。噴水にバラを浮かべてフローティングフラワーなるイベントも開催されるそうだ。
落ち着いた柔らかな色彩のバラや草花などを組み合わせた「アルテミスの花園」やむしろコントラストが映える「アポロンの箱庭」などの一画も人気を集めている。
整形式庭園を主とすれば、従ではあるものの対照的な「自然風庭園」も設えてある。なだらかな起伏を利用し、まるで自然にできた風景のように作庭されている。
水面には睡蓮の花が咲きこぼれ、優雅な毎日を演出している。春バラが終わりを迎えるのと入れ替わりに約400品種のアジサイが園内を飾る。
じっくり見損なったが、樹齢60年の大アーチも壮大だ。バラ園を設立当初から見守ってきたという『フランソワジュランビル』の大アーチだという。
設立当初からあった株を、バラ園のリニューアル時に移植。高さ6mになるという。何でも時間が経過すれば、それなりにすごいことになる。
■味わいのある地元ガーデン
京成バラ園は立派だし豪華、さらには1600品種1万株のバラが咲き誇っている名園だが、悔しいかな遠い。サンダル履いて手軽には行けない。
やはり散歩ついでに立ち寄ってしばし観賞して帰るのが最高だ。のんびりした環境で楽しむ手軽さにかなうものはない。地元にそれがあればなおさらだ。
咲いているバラも小ぶりでイベントも少ないものの、「練馬区立四季の香ローズガーデン」(練馬区光が丘)にはそれなりの味わいがあるのが嬉しい。今年は337品種と咲く品種は1600品種の京成バラ園の5分に1にしても庭園との距離は京成バラ園より近いのが嬉しい。
■香りと色彩の2つの味わいが楽しめる
ガーデンは2つあって、1つは「香りのローズガーデン」。ダマスク、スパイシー、ミルラ、フルーティー、ブルー、ティーの6種類の香りごとにバラを配置しバラの香りを楽しめる。
もう1つは「色彩のローズガーデン」。こちらはレッド、ブルー、ブロッチ(斑紋)、ピンク、イエロー&アプリコット、ホワイトなど鮮やかな色合いのバラをパレットのようにカルフルに配置したガーデンだ。
シンボルローズの”四季の香り”は「黄色と桃色の優しい絞り咲きの色で木漏れ日の暖かい光を表現し、光が丘をイメージした鮮やかな紅茶に似たティーの香りが楽しめる」(管理・運営を委託している第一園芸)。
5月19日には光が丘出身のアーティスト、小松和貴さんによるアコースティックコンサートが開催された。
天才肌のギタリストのテクニックの見事さにため息が出そうな舞台が50分も続いた。やはり人工的なイベントの多い京成バラ園に比べ、四季の香りは手作り感がすごかった。
■昔は人工的な川が流れていた
現在のローズガーデンはリニューアルされたもの。5年ほど前は小松氏が指摘するようにコンサートが開かれた色彩のローズガーデンはカスケードのように人工的な川が流れていた。
フランス式庭園やイタリア式庭園、さらにはスペイン式庭園まであった。それがガラリと現代的に生まれ変わった。
新しいものが定着し、昔を知らない人ばかりになっていくのだろう。それも自然の成り行きかもしれない。