【国宝】任侠の一門に生まれ歌舞伎の世界に飛び込んだ喜久雄が御曹司・俊介との友情を乗り越えて国宝となった一代記

ユナイテッド・シネマとしまえん

 

作品名:『国宝』
キャスト:花井半二郎(渡辺謙)
     花井東一郎(吉沢亮)
     花井半弥(横浜流星)
原作:吉田修一
監督:李相日
鑑賞日:8月3日@ユナイテッド・シネマとしまえん

 

 

■主人公の壮絶な50年を描いた一代記

 

歌舞伎は一子相伝が伝統。その家の伝統的な芸や技法、役柄、名跡などを親から子、または養子などの血縁や縁故関係にある後継者へ一対一で継承するが、最近では血縁関係にない一般家庭から弟子入りするルートも増えているようである。

その”非伝統的”手法を映画の世界で実現したのが話題作の『国宝』。一般家庭というよりも任侠の一門に生まれた男を歌舞伎役者として選び、さらにその男を人間国宝にまで引き上げた話題作である。

任侠の一門に生まれながらも、歌舞伎役者の家に引き取られ、芸の道に捧げた主人公・喜久雄の50年を描いた壮大な一代記は見応えのある作品に仕上がっていた。

 

人物相関図(パンフレットから)

 

 

■才能を武器にのし上がっていく喜久雄

 

 

上方歌舞伎の名門の当主で看板役者の花井半二郎(渡辺謙)が長崎の料亭「花丸」(花月)で抗争相手の襲撃を受けて落命した立花権五郎(永瀬正敏)の息子・喜久雄(吉沢亮)を引き取った。

半二郎には実の息子、俊介(横浜流星)がおり、彼は生まれながらに将来を嘱望された歌舞伎役者になることが運命づけられていた。物語はそこから始まる。

喜久雄と俊介はライバルでありながら親友でもあり、ともに切磋琢磨していく。喜久雄は才能を武器に稀代の女形として脚光を浴び、才能を開花していく一方、俊介は生来のいい加減さもあって結局足を切断して女形を演じられなくなっていく。

実の息子である俊介を差し置いて喜久雄にチャンスを与えるということは現実の歌舞伎の世界ではあり得ないことながら、それはそれで完全なフィクションと理解するしかないにしても、そのフィクションが現実化してくる。

原作はそれをさもあり得るように描いていく。それが映画の中の世界なのだろう。

 

二人道成寺(パンフレットから)

 

■才能で喜久雄を選んだ半二郎

 

喜久雄を引き取った半二郎(渡辺謙)は「曽根崎心中」での自分の代役に喜久雄を指名する。親の立場や気持ち、家系的な温情といったものにきっちり蓋をして、今必要なのは喜久雄なんだと決断する。

「物心がついた5~6歳の頃から稽古を始めて、先人たちが生み出した形や動きを習得しつつ、日々研鑽して自分のものにしながら大人になっていく」歌舞伎の世界。

渡辺謙はパンフレットのインタビューで「あの二人はそれぞれに熱く燃えているんだけれど、炎の種類が違うと思っているんですよ。喜久雄を演じた吉沢は青白くて『パチパチ』と燃えている音もしないけれど、ものすごく温度と熱量の高い炎をまとっている感じがしましたね」と評する。

渡辺は「もし自分の替わりに舞台に立たせるなら喜久雄だという思いを花井半二郎としては抱いている」と指摘する。実際に半二郎にアクシデントがあって、どうするかとなった場合、この状況に耐えうるだけの稽古をしてきて才能があるという点で、彼は喜久雄を選ぶ。

 

真のライバル

 

■けんかも寸止め

 

喜久雄と俊介の2人がけんかした際に発した言葉が印象的だった。言葉上では喧嘩をしているのだが、実際に殴り合いはしていないのだ。殴りかかろうとした時、「~って言ったらおもろいやろな」で終わってしまう。”寸止め”で止めるのだ。

喧嘩は2度。最初は代役が喜久雄に決まり、半二郎の見舞いの帰り橋の上で俊介が「泥棒と一緒やないか。人のもの勝手に取って行って。いきってるちゃうぞ!てな感じで言ったら面白いんやろけどな」*いきってる=粋がってる(関西弁らしい)

2度目は半二郎の遺影に参った帰り、俊介が追いかけてきて何か言った後、喜久雄が「結局、歌舞伎は血やないか。出てった奴の力なんか借りたないわ!てな感じで怒ったらおもろいんやろけどな」(どちらもヤフー!知恵袋くらくらちゃんさん「国宝のセリフ」について)

 

立花喜久雄/花井東一郎(吉沢亮、パンフレットから)

大垣俊介/花井半弥(横浜流星、パンフレットから)

 

■興行収入142億円、1000万人突破

 

『国宝』を配給する東宝は9月16日、同作品の興行収入が142億円、観客動員数が1000万人を突破したと発表した。

邦画実写としては22年ぶりの100億円を突破し、『踊る大捜査線THE MOVIE2レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年、173.5億円)に次ぐ第2位の成績を記録した。

16日までの公開102日間で、今後の勢い次第では『踊る大捜査線』超えも見込める状況になっているという。

 

■噂が噂を呼んで大ヒット

 

誰もこんなに大ヒットするとは思っていなかったが、噂が噂を呼んでじっとしておられず、自分で映画館に足を運ぶリピーターが続出したようだ。

少しは歌舞伎に興味・関心があるものの、これまではそんなに強い気持ちはなかった。それが友達とのおしゃべりなの中で期待が膨らんでいく。

吉澤亮と横浜流星という若手が長期間、厳しい稽古をして代役も立てずに芸に打ち込んだことも評判を呼び、一躍「国宝を見ることが当然」という社会現象になっていく。

見ていて映像が美しく3時間の長尺物にもかかわらずあっという間に終わる。気が付いたら3時間が過ぎていた。3時間トイレに行くのをすっかり忘れていた観客も少なくなかったのではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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