【映画】1948年の済州島で国防警備隊・韓国軍・警察が島民3万人を弾圧・虐殺した事件を映画化した『済州島四・三事件ハラン』

済州島四・三事件ハラン

 

題名:済州島四・三事件ハラン
脚本・監督:ハ・ミョンミ
主演:キム・ヒョンギ
2025年/韓国/119分
観賞日:2026年4月9日(木)ポレポレ東中野

 

■島民を虐殺した事件の映画化

 

1948年の韓国・済州島で、国防警備隊や韓国軍、警察が島民を弾圧し、「アカ」(共産主義者)と称して虐殺した事件を映画化した「済州島四・三事件ハラン」をポレポレ東中野で見た。

同作品のパンフレットに寄稿している文京洙・立命館大学名誉教授によると、「ハランは『寒蘭』と書き、晩秋から冬にかけての寒冷期に咲く東洋欄の一種で韓国では主に済州島に自生する。椿が済州島の春を象徴する花であるとすれば、ハランは済州島の冬を象徴している」という。

韓国では自国の歴史と正面から向き合った骨太な映画がたくさん制作されており、国家権力によって隠蔽された弾圧事件として1980年5月に光州市を中心に起きた民衆蜂起を扱った「タクシー運転手 約束は海を越えて」(2017年)もその1つだった。

光州事件は1963年から79年まで大統領として君臨した朴正熙氏が暗殺され、その後実験を握った全斗煥大統領も相次ぐ戒厳令の発令と民主化運動の弾圧を行い、各地で暴動が起きていた。

 

『済州島四・三事件ハラン』のハ・ミョンミ監督(パンフレットから)

 

■当時の距離感を崩したいと思って作った作品

 

この「済州島四・三事件」について語ることは韓国内でも長年タブーとされ、人々は沈黙の中にいたという。

「済州島四・三事件」が脚光を浴びたのは長年商業映画の脚本家としてキャリアを積み2023年に『彼女の趣味』で長編映画の監督を務めたハ・ミョンミ氏が自身の長編2作目として『済州島四・三事件ハラン』の映画化に踏み切ったため。

ハ監督は2013年に済州島に移住。それまで韓国内では「どこか遠く抽象的で、教科書の中に閉じ込められた出来事として受け取ることが少なくなかった」同事件を「その距離感を崩したいと思って作りました」(パンフレットの監督インタビュー)

同監督は「出来事自体は1948年に起こりましたが、この暴力は決して完全に終わったわけではなく、人々の生き方や記憶、そして沈黙のあり方を今もなお形づくっていると考えている」

「何が起きたのかを説明するよりも、一般市民、特に女性や子どもがあの時代を耐え抜くことがどのような韓国だったのかということに寄り添いたいと思った」と述べている。

 

■あいち国際女性映画祭で上映

 

『済州島四・三事件』に目を付けて上映に踏み切ったあいち国際女性映画祭2025の感覚も鋭い。同事件は「皆がすごく共感している事件かというとそうではありません」(ハ・ミョンミ監督)

ハ監督は同映画祭上演後のトークイベント(2025年9月11日ウィルホール)で「私自身がこの歴史的な悲劇に共感して深く理解しようと決めて、その過程が、その結果物が、この映画なのかなという気がします」と答えている。

作品の中では暴力的なシーンがいろいろ出てくる。出てくるもの、それは最小限のものに限られている。ハ監督は「私が暴力の描写を直接的に見せるのを好まないということもあるが、暴力というのは見えない、見せないところのほうが実はもっと暴力的だと思っている」と述べている。

四・三事件がいかに残虐だったのか。人間はどれだけ残虐な行為を行うことができるのか。戦争を行うことによって人間は残虐になり得るのだろう。

 

済州島の地図

 

■韓国も資金集めは苦しいのが実情

 

済州島四・三事件のプロデューサー、ヤン・ヨンヒ氏は同トークイベントで、「こういうテーマの映画は、企画するのも難しいし、お金を集めることもかなり難しいです」と日本と同様の制作資金事情の苦しさを訴えている。

「韓国では、低予算の映画を支援する助成金がいくつかありますが、脚本が良かったので、まず韓国映画振興委員会に選ばれ助成金をいただき、済州コンテンツ振興院からも、少し支援をいただいて、製作費の半分くらいは助成金で賄いました」

「残り半分は外部からの出資はなかなか集まらず、政治的な困難の時期と言うこともあって、結局製作会社の社長である監督が自分の命と人生を懸けて銀行からお金を借りて、やっとこの映画が完成しました」

 

 

主演のキム・ヒャンギ氏

 

■必死に逃げても最後は「暴徒」として処刑

 

済州島の村で家族と暮らしていた海女のアジン(キム・ヒャンギ役)は夫の安否を確かめるため、老いた義母と6歳の娘ヘセンを残して村民たちと山に向かったが、村に残った老人たちは韓国政府軍によって射殺されてしまう。

祖母に守られて生き残ったヘセンは母と父を探しに山へと向かう。一方軍人が村を焼き払ったと聞いたアジンは娘のことが心配で、一人下山。反政府の武装隊と出くわしたりしたものの、ついにヘセンと再会する。

生き残るため、母と娘の命懸けの逃避行が始まる。母子はどうにか生き延びたものの、最後は「暴徒」としてあっさり殺してしまう。あれだけ必死に逃げてなぜ簡単に殺してしまうのか。

現実は変えることができない。例外なくみんな処刑されていく。殺していくのは人間である。人間は恐ろしい。

 

■歴史の暗部描く骨太映画が大ヒットする韓国

 

韓国映画は自国の歴史に正面から向き合った骨太のテーマ作品が多い。映画ジャーナリスト、斉藤博昭氏は2021年9月14日付けのYAHOO!ニュースで、「日本の年間トップの作品と言えば、社会的テーマを発見できるものの、歴史の暗部を扱ったり、骨太なムードを漂わせるものは出てこない」と指摘する。

『kCIA南山の部長たち』(2020年公開、パク・チョンヒ大統領の暗殺を描いた実録サスペンス)や『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年公開、民主化を求める学生や民衆のデモを軍が弾圧。多数の死傷者を出した光州事件を描いている)などが年間トップ作品に並んでいるのだ。

斉藤氏は2021年9月に公開された『隣の隣人 ある諜報員の告白』を作ったイ・ファンギョン監督とのインタビュー記事で次のように語らせている。

 

■政治的ストーリーを好む国民性

 

「韓国では、政治的なストーリー、社会の不合理に焦点を当てた作品、そして歴史ドラマに強い関心を持つ人が多いのは事実でしょう。これは以前からそうでしたので、おそらく国民性です」

「しかしかつては、韓国の映画界もこうした作品を積極的に作ってはこなかった。10年くらい前から民主化の影響もあって、企画が増えてきた感じですね」

「歴史や社会的テーマを独自に解釈し、観客の欲求に応えるという流れで、シリアスなドラマからコメディまでジャンルも多岐にわたるようになりました」と述べている。

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