六本木ヒルズクラブ

 東京タワー(高さ333m)というのは下から見上げるものだとばかり思っていたが、六本木ヒルズ森タワー51階の「六本木ヒルズクラブ」(東京都港区六本木6-10-1)からだと見下ろす感じになるのがひどく不思議だった。森タワーの最高部は238.06m。少し離れているからだろう。

 東京のすべてを見渡せる眺望の中に、8つのレストラン・バーを配した斬新かつゴージャスな作りだ。イベントなど文化活動を通した交流の場としても使える新時代の会員制クラブを謳っている。メンバーの知人に連れられて行った。それまで存在すら知らなかった。

 シティクラブ・オブ・東京、東京アメリカンクラブ、日本記者クラブなど日本にもクラブは増えているが、六本木ヒルズクラブは規模、施設、内容のどれをとっても桁違いの超巨艦クラブ。新型バブルの再来のように感じられるが、それはともかく、現代日本の1断面を象徴する施設には違いない。

 旧時代のクラブはロンドンの会員制紳士クラブだろう。テムズ川近くの閑静な場所にはナショナル・リベラル・クラブ、リフォームクラブなど格式の高いクラブがひっそりと軒を並べている。近代的なビルとはかけ離れた古めかしい石造りの建物で、会員はクラブの図書室で静かに調べ物をしたり、書斎で思索に耽ったり、とにかく静か。地方の会員のための宿泊設備も備えている。

 世界の味を一カ所で楽しめるのも決して悪くはないが、大切なのはそこだけでしか得られない独自の味を提供することではないのだろうか。それが文化であり、その文化活動の拠点がクラブではないか。新規性を追求する貪欲な姿勢は貴重だが、伝統を踏まえない新規性は味わいを欠く。そんなものはお金で買えるからだ。

 そんなことを考えていると、なぜか中学時代の国語の先生から教わった言葉が頭に浮かんだ。

 伝統なき創造は盲目である。
 創造なき伝統は空虚である。

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