『アルゴ』
作品:『アルゴ』(2012年 アメリカ映画)
監督:ベン・アフレック
脚本:クリス・テリオ
主演:ベン・アフレック、アラン・アーキン、ジョン・グッドマン
上映館:飯田橋ギンレイホール
久しぶりの映画館鑑賞、久しぶりの飯田橋ギンレイホールだった。実は見たかったのは2本立てのうち『ルート・アイリッシュ』(英仏ベルギー伊スペイン合作、イラク戦争の実態を描いたサスペンスドラマ)だったが、見終わってみると、『アルゴ』に軍配を上げた。
『アルゴ』(ARGO)は米ハリウッドが製作するSF超大作の作品名。同作品をハリウッドが製作すると大々的に発表しておきながら、実はそれは世界を欺くための芝居。実際は映画をイランで製作すると見せかけて、ホメイニ革命下で米大使館から脱出してカナダ大使公邸に逃れた大使館員6人を脱出させるための仕掛けだった。
イランでは1979年にイラン革命が勃発し、米大使館は怒ったイラン人の群衆に占拠され、大使館員52人が人質になった。しかし、そのどさくさに6人の大使館員はカナダ大使の邸宅に転がり込んでいた。イラン側がその事実を確認するまでは時間との闘いだった。
米CIA(中央情報局)の人質救出作戦のプロであるトニーの仕掛けたのがアルゴ。イラン政府に発覚したら即刻処刑。協力したカナダ大使一家の命も保証されない中での緊迫した情勢が続く。そして最後は隠れた人質の存在をつかんだイラン治安当局との手に汗握る駆け引き。そして遂にテヘラン空港からスイス航空に搭乗し、自由の身に。このクライマックスシーンは体が緊張する。
米政府がこの人質作戦を公表したのは18年後。それまで最高機密として封印してきた。その封印が解かれ、衝撃の実話が明かされた。実話に基づいた作品がアルゴだ。
アフレックは元々が俳優だが、無名時代に共同執筆した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でアカデミー脚本賞を受賞するなどクリエーターとしての才能も発揮していた。2007年に『ゴーン・ベイビー・ゴーン』を初監督、2作目の『ザ・タウン』もヒットさせるなど評価が高い。
アルゴはゴールデン・グローブ賞のドラマ部門作品賞や監督賞、全米製作者組合(PGA)賞、映画俳優組合(SAG)の映画部門最高賞「アンサンブル演技賞」を既に獲得。2月24日(日本時間25日朝)発表のアカデミー賞にも7部門でノミネートされている。
アフレックはインタビューで「実は僕は大学時代に中近東学を専攻していた。中東の文化や歴史にすごく興味を持っていて、今回の企画にも飛びついたってわけさ。映画で描かれているイランの人質事件は30年も前なのに、いまだにイランとアメリカは同じような緊迫状態にある。結局のところ、アメリカは中東各国における主導権について口を出すけれど、本当に自分たちのやっていることが分かっているのか?ちゃんと情勢を理解しているのか?そんな疑問を、説教臭くなることなく提示している脚本が気に入った」(ぴあ映画生活)と語っている。
金曜夜のギンレイホールは午後6時10分上映の『ルート・アイリッシュ』から空席が乏しく、結局、最前列で鑑賞。8時15分から始まった『アルゴ』は通路にシートを引いて座って鑑賞する立ち見ならぬ「座り見」客がずらっと並んだ。女性客も多く、こんな作品(イラクやイランを舞台にした戦争映画)に、こんなに客が詰め掛けるなんてなどと最初はいぶかしく思った。
しかし、作品は話題作であり、内容もしっかりしていることからして、彼らは目の肥えた映画ファンであることを理解した。むしろ、自分の無知を改めて思い知った次第だ。最近、オンデマンドのPC鑑賞の便利さも知ったが、やはり劇場で映画を見ることの意味も知った思いだ。