国際秩序が直面する課題と展望~外国メディアの視点から~

 

国際シンポジウムについて

 

フォーリン・プレスセンター主催の国際シンポジウム「国際秩序が直面する課題と展望~外国メディアの視点から~」が9日、日本記者クラブで開催された。英米加3カ国の現役記者が議論に参加し、白熱した議論が展開された。テーマはタイムリーというか、タイムリー過ぎて、結論も何も出なかった。

 

メアリー・デジェブスキー氏(英フリーランス/元インディペンデント紙論説委員)

 

最初に登場したには元インディペンデント紙論説委員のメアリー・デジェブスキー氏(英)。彼女はEU離脱によって過去50年間の外交政策が逆転したと述べた。

英国が現在直面している雰囲気は、2007年から08年にかけた金融危機と2003年に勃発したイラク戦争の影響を強く受けていると強調した。前者は銀行家が富有になる一方、労働層は一層貧困化。こうした差別を予見できなかった専門家を批判するのがファッションにもなった。一方、イラク戦争の失敗は英外交政策、外交の専門家の大きな失敗だったといわれている。

こうした結果、国民はこうした専門家を信頼しなくなっていった。政治家も信用できない、国のリーダーも信頼できない。これがBrexit(Britain+Exit)の投票にもつながった。これが今日、英国内の国民のムードを作っている。思っているよりこの要素が強かった。

 

 

ベイ・ファン氏(米、ラジオ・フリー・アジア編集長)

 

2番手はベイ・ファン氏(米)。彼女はトランプ大統領が使った「America First」という言葉を使ったことを指摘した。1941年に孤立主義者のグループが使ったフレーズだ。白人のブルーカラーの投票者に向けて使った。仕事は中国、韓国によって、安い労賃の国に奪われ、労働法が緩和され、多くの移民が米国に入ってきたためと感じている人々だ。

「他国はアメリカの寛容を悪用した」と述べ、同盟関係を疑わせるような発言「NATOは陳腐化した」もした。日米安保条約についても十分な役割を果たしていないと述べた。

マティス米国防長官の訪日で、「日本は費用負担の面で模範的国だ」と述べた。これで日本は安心したのではないか。

メディアの役割については極めて重要だと考えているが、トランプ大統領は国民とのやりとりを一変させた。「ツイッターで語る。友人が語るメディアしか見ない人を対象とした」。

 

ジャン・フレデリック・レガレ・トレンブレー氏(カナダ、ル・ドゥヴォアール紙国際部門記者)

 

ジャン・フレデリック氏(カナダ)は、カナダは”島”のような存在で、大きな政治的な多国的な関係は持っていない。大きなテロがあったわけでもない。近隣諸国や同盟国とは同じ環境には置かれていないと指摘した。

カナダの外交政策の基本となっているのは多文化主義であると述べた。これが「オタワが移民を受け入れる歴史にある」と答えた。G7の中でカナダが一番移民の割合が高い(約20%)。トルドー労働党政権はシリアから3万5000人の移民を受け入れると述べたが、この決定があっても別に恐怖心が高まるとかいう政治的なリアクションの起こることはなかった。

とはいえ、カナダは米国の隣に位置している。お隣で大きな変化が起きた。米国にすごく依存しているし、米国の一番大きな貿易相手国。輸出の80%が米国に向かっている。それだけ近い。

国民がトランプに批判的な意見を持っているときに、非常に難しい状況に置かれた。自由貿易や気候変動でもトランプとは違う。一致できるのはエネルギーだ。カナダはトランプ政権に様子見で、慎重に接触している。トランプ政権は移民について、「アメリカに入れない人は歓迎しますよ」と述べたものの、「それ以上の批判はしなかった」。バランスをとろうとしている。

「アメリカの隣国にあるということは象の隣で寝ているようなものだ。そんなに影響力を行使することはできないという意味だ。象が寝返りを打ったら、潰されてしまうんですから、それに抵抗できない」とトルドー元首相は言ったという。よって、「その象が寝返りを打たないよう気を付けている」。

 

中山俊宏氏(日本、慶大総合政策学部教授)

 

中山俊宏慶大教授(アメリカ政治)は、現状をトランプ旋風に巻き込まれていると表現した。トランプ氏の勝利前から国際情勢は揺らぎを見せていたからこそこういうテーマでシンポを開催したフォーリンプレスセンターにリスペクトを表したと語った。

日本国内では外交・安全保障政策に関してコンセンサスがあると感じている。1つは台頭する中国の在り方が将来不透明なことであり、それにどう対処していくかについては日本では最重要な問題の1つであることはかなりはっきりと共有されている。もう1つは北朝鮮が今後どういう方向を取っていくか。安保政策の脅威認識ということで言えば、コンセンサスの基盤を共有していると述べた。

また脅威にどう対処するかのツールについてもコンセンサスがあると思う。基本的には日本自身ができることを高めていくことについてコンセンサスがあると同時に、日米同盟は死活的に重要だということについてもコンセンサスがあると指摘し、日本外交の安定性があるとした。

日米同盟についても思考実験でオプションがあり得る。例えば地域機構だとか国際機関、ほかにどういう同盟があるのかとか、自主防衛、非武装中立だとか、いろんな同盟以外のオプションをずらっとリストアップしても、「いずれもファンタジーの領域に近い。リアルじゃない」ということを日本の幅広い国民が同意していると答えた。

海外で台頭している右派的なポピュリズムがほとんど見受けられないとも述べた。移民社会であるゆえに異質な人たちと出会う局面が多い。日本はそういうことがないので、外からの侵入者によって安定した共同体の空間が脅かされるという意識が薄い。

安倍政権は安定長期政権であり、外に対しても顔を見える政権であることも対外政策の基盤になっていると言える。対外脅威、ツールに対して基盤の強い政権があることが日本は先進諸国の中で安定していると答えた。

 

 

細谷雄一氏(日本、慶大法学部教授)

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