木を多用した「森の建築」
これからの住宅・建築がよく分かる木材総合展示会が2月16-18日の3日間、東京ビッグサイトで開催された。耐震、省エネ、健康、木材利用、ITのうち木材利用について2人の話を聞いた。
1人は隈研吾建築都市設計事務所の横尾実社長の「木を多用した森の建築」。横尾氏は自然と建築の溶け合う状態を「森の建築」と呼んでいたとし、木が森の建築を構成する非常に大きな要素であり素材であると強調した。
▇森舞台(1996、宮城県登米市=とめし)
伝統芸能伝承館。1996年オープン。昔は登米町(とよままち)と呼んでいたが、合併後は登米市(とめし)と簡略化されている。その年の最も優秀な建築物に贈られる日本建築学会賞を受賞。230年の歴史のある登米能(とよまのう)の舞台を再現した。
山裾に開くように配置し、舞台を作った。建物をばらけさせて自然の中に溶け込ませようとした。能舞台、見所(観客席)などを配置した。地場スギを使った。この物件で木の量感、ボリューム感の良さを感じた。
舞台については壊れても良いから木造にしてくれとの要請があった。3.11でもほぼ大丈夫だった。舞台の鏡板には日本画家の千住博氏による岩絵の具を使った老松と若松が描かれた。
▇京王線高尾山口駅(東京都八王子市、2015年)
改修プロジェクト。ミシュランの三つ星取得を契機に乗降客が増加した。駅を綺麗に理想化したいとの要望があり、コンペ開催。受注した。
京王線のデザイン構造のフォーマットで全部作られ玄関口としての顔が乏しい佇まいの駅舎。大きな庇(ひさし)をかけ、その下をコミュニティーを形成する軒下の広場として使えるようなスペースにしたい。
川から山につながるような山並みの流れを活かしたい。広場で待ち合わせ、そこから出発する現象が起きている。
暖かみのある木の素材で玄関口としての顔を作ることを実践している。柱は鉄骨。寒々しい駅舎を木を多用することで暖かみの感じられる空間に変質させた。
スギ材。古葉を見せる。
温浴施設の極楽湯を作った。竹を天井に使っている。
▇獺祭ストア本社蔵(山口県岩国市、2016年)
川の流れている谷筋にあるロケーション。谷筋の緑と溶け合う素材としてはやはり木。建物を覆うようなデザインにした。
民家の佇まいをしている。内容物を継承しながら建物を一新する。
▇新国立競技場(東京都新宿区・渋谷区、2019年11月)
神宮外苑の緑豊かな環境に溶け込ませるのが最大のテーマ。高さをできるだけ抑えて平べったい風景とする。水平の線がデザインの基調となっている。
庇が特徴。外環全体に暖かみを感じさせる。ルーバー(Louver=軒ひさし)。
全国から調達した木材でルーバーを作る。震災の復興を祈念する意味する復興五輪としての位置づけを持っている。国産木材も積極的に使っていこう。スギ材。沖縄県はスギがほとんど自生していないため琉球松で代替する。
日本らしさが求められる。対比すると西洋の建物との違いは素材。日本は雨が多く高温多湿だ。よって使い材料としては日本が木で、西洋は石。木+庇。庇が日本らしさで、それが軽やかに作られている。木自体が比重の軽い物である。伝統建築が培ってきたもの。できるだけ先端を薄く見せることにこだわった。
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構造自体が木造であるものはほぼない。あえて木造に拘るのではなく、木の持つ質感や暖かみを伝える、感じてもらうことが非常に大事な視点ではないか。できるだけ引き立てるように作っていく。
これから木材はものすごい可能性を秘めた材料だ。事務所もかなり積極的に使っている。20世紀の時代は「ないもの」から「あるもの」を作る時代だったが、21世紀は人口減を招きつつある中で、「あるものを使っていく」という視点が大事。
建築で考えた場合、それは「木」ではないか。50年物の木が日本全国一杯ある現状もある。できるだけそういった資源を使っていく。使うことで環境の持続にもつなげていく。木材産業の振興にもつながっていく。そのような連鎖した「森の建築」といった流れを引き続き取り組んでいきたい。