「AIは万能ではない」

 

新井紀子国立情報学研究所教授

 

ゲスト:新井紀子(国立情報学研究所社会共有知研究センター長・教授)
一般社団法人 教育のための科学研究所理事長・所長
テーマ:日本記者クラブ総会記念講演会
2019年5月27日@日本記者クラブ

 

国立情報学研究所の新井紀子教授(1962年10月~)は27日、日本記者クラブで講演した。新井教授は「ロボットは東大に入れるか」プロジェクト(東ロボくん)を指揮する一方、幅広い年齢層を対象に読解力を調べる「リーディングスキルテスト」を主導した。

これらの経験をもとにした著書『AIvs教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社、2018)で示された子どもたちの読解力とAI開発の現状は話題を呼んだ。

また近著『日本を殺すのは、誰よ!』(新井紀子、ぐっちーさん、2019、東邦出版)ではAIの台頭でホワイトカラーの半分が機械代替される時代になりつつある日本の課題とその処方せんについて聞いた。

新井教授は日本の数学者。一橋大学法学部に入学したものの、数学の面白さに目覚め、4年の時に数学基礎論の研究が盛んだった米イリノイ大学数学科に留学し、竹内外史教授に師事。1年でイリノイ大学数学科を1年で卒業し、奨学金を受けて、修士課程に進学。1990年に修士号を取得し、帰国した。

AI学者は物理学者に多いが、新井教授は数学者。東大理学部物理学科卒業のサイエンス作家、竹内薫氏によると、「数学と物理学とは小説とノンフィクションの差」があるという。

・2010年に『コンピュータが仕事を奪う』(日経出版社)を出したが、売れなかった。出版が早すぎたんだと思う。当時は検索しても人工知能やAIという言葉は1回も出てこなかった。13年くらいに『AIが仕事を奪う』と書けば、ベストセラーになっていたはずだ。10年にAIブームが始まると思っている日本人はいなかった。

・コンピュータと書いたが、実際はディープラーニングを含めた機械学習。この機械学習とデジタリゼーションがホワイトカラーの仕事を半分奪うというのが『コンピュータが仕事を奪う』の結論だ。今も変わらない思いだ。

・AIに対する危機感が日本人は薄い。この危機感を共有してもらえるかと考えた。これが11年に「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを立ち上げた理由だ。

・AIは人間と同じように考えられるニューラルネットワーク(神経網)とどの記者も書いたが、これは間違いだ。人間がどのように考えるかという数字モデルを使ったことでしかない。AIは万能ではない。

・AIはソフトウエアにすぎない。関数の一部に計算可能関数(数字)があって、その一部にAIと呼ばれている関数が含まれている。

・機械翻訳の場合は、日本語の文字列というセットから英語の文字列というセットへの転換だ。言葉がどんな確率分布に従っているかはだれも知らない。

・機械学習においては正解は人間が作る。それを100%正しいと信じているので正解データの誤りをデータは越えられない。AIが人間の誤りを直すことはできない。人間を越えるシンギュラリティ(技術的特異点=AIが人類の知能を越える転換点)を越えることはあり得ない。

・AIと言えども、Siri (Appleの開発したAIアシスタント)もAlexa(Amazonの開発したAIアシスタント)もペッパーくん(ソフトバンクの開発したヒューマノイドロボット)も東ロボくん(国立情報学研究所の開発したAI)はどれも日本語も英語も全く分からないし理解できない。このことをきちんと書いた記者が過去4年間いなかったのは非常に残念だ。仕組みを分からずに記事を書くことが問題点でもあったことを意味している。

・素敵な手品には必ずタネと仕掛けがある。あばいてこそがメディアなのにこの4年間それをしてこなかった。大変残念なことだ。

・人類の歴史上、どんなにお金を積まれてもすぐできないことがあって、それは数学だ。双子素数。3と5、11と13、17と19などだ。無限にあるか。古代ギリシャのときから問われてきたが、いまでもどうやって解いたらいいのかとっかかりすら分からない。2000年経っても分からない。数学は金を積まれても無理なものは無理。

・GAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)がどんなに金を積んでも無理なものは無理。

・変なホテルのロボットが激減している。太郎は男の子か女の子か聞くと、分からない。AIは意味を考えていない。われわれがどんなにAIに踊らされてきたか。

・統計が分厚いところと薄いところ。みんなが言いそうなことなら言える。

・AIに関心のある記者ならこれくらいの根性がないとだめだ。本当のことに迫ることはできない。機械翻訳というのは日本語の文を英語の文に訳するのではなくて、日本の文字列を英語の文字列に変換する。文と非文の境が分からないから。でも結構正しい。なので、ホワイトカラーのすべては代替されないしシンギュラリティはこないけれども、それでもホワイトカラーの多くは代替される。

・10年に東ロボくんプロジェクトで相談に行った。私は今のAIは東大に入れないことは分かっている。AIブームが来る。アメリカの検索などのサービス系からくる。どこまでがAIができてどこからができないのか。誰かがその限界を確定する必要がある。そのリスクはAI学者はとれない。AI学者は長くブームが続くことを祈るだけ。そうでなければ修士の学生を食べさせていけない。口が腐ってもAIに限界があるとは言えない。これを言えるのは金を必要としていない数学者だけだ。

・数学、特に数理論理学はAIを作った張本人だ。コンピューターとAIという概念をもともと作ったのはうちの分野。私には責任がある。

・東ロボくんプロジェクトは16年に関関同立に入れる。しかし、東大には絶対入れない。日本の70%の大学で合格可能性が80%以上という成績を取っている。

・GAFAはすばらしいテクノロジーを無償で提供すると言っているが、恐ろしい。そのことを通じて結局はデータとお金がGAFAに集積している。各地域から一番頭の良い人がどんどんGAFAに取られている。グーグルCEOのサンダー・ピチャイだってグーグルに行った。奨学金をもらってシリコンバレーに行った。

・どんどんローカルコミュニティーは疲弊して富の再分配なんてできない。これはどうするんですか?バージン諸島に隠し口座を持っていて国際的な富の再分配に寄与しない。インスタグラムなんかすごい悪い会社だ。1000人も雇用していないのに価値が高すぎる。

・日本の会社は生産性が低いとメディアは叩くが、雇用をしてくれるのは最大の社会貢献だ。大して金ももらっていなくても雇用を守ってくれている。文句を言わないでほしい。

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