気候変動の深刻化で「社会主義」を魅力的に感じる『大分岐の時代』に

 

斎藤幸平准教授

 

ゲスト:斎藤幸平(大阪市立大学准教授)
テーマ:ベルリンの壁崩壊がもたらしたもの
2019年12月11日@日本記者クラブ

斎藤幸平大阪市立大学准教授が登壇し、冷戦終結以降の経済システムの変化やこれからの社会・経済のあり方について語った。

斎藤准教授は1987年生まれ。米国の大学で学んだ後、ドイツ・フンボルト大学哲学科で博士号を取得した。マルクス理論から環境問題を論じた著作で2018年にマルクス研究界最高峰の賞「ドイッチャー記念賞」を史上最年少で受賞した。日本人の同賞受賞は初めて。

革命の政治哲学者マイケル・ハート氏、哲学界のロックスターのマルクス・ガブリエル氏、鬼才の経済ジャーナリストのポール・メイソン氏との対話を収めた編著者『未来への大分岐』(2019年8月、集英社新書)では、資本主義システムの行き詰まりを指摘し、新たな社会の展望を探っている。

斎藤氏は会見で、「気候変動が深刻化していくと、無限の経済成長を追い求めるだけの経済システムを有限の地球の上でやる(追求する)のは結構無理があるんではないか。資本主義や利益第一主義に疑問を持つ人たちが若者を中心に現れてきている。アメリカでも社会主義という言葉が魅力的なものとして感じられるようになっているが、これはどうしてなのか」、「21世紀の社会主義は資本主義を相対化するための思考的なツールとして使えるか」などについて話をしたいと述べた。

冷戦終了後30年間はアメリカを中心としたグローバル資本主義が新しいマーケットを見出して、新しい廉価な労働力を見出してさらなる投資先やマーケットを見出して繁栄していった「市場こそが最も効率よく、人々を豊かにするという信念の下で経済活動がグローバルな規模で押し進められてきた」30年だった。

他方で、共産党を中心とした左派政党が衰退し、それに対応する形で社会運動や労働運動も弱体化。マルクス主義思想や経済学もものすごい勢いで衰退化。大阪市立大学もマルクス経済学の伝統のある大学だったが、「実質マルクスをやっているのは私しかいない状態」だと述べた。

東京大学も宇野弘蔵(1897~1977)を中心とする宇野学派の牙城だったが、小幡道昭先生が辞められて以降は新しい先生を採っていない。東大経済学研究科長の渡辺努氏は「ある時点で、東大の経済学部はマルクス経済学を専攻する専任教授は新規に採用しないという意思決定をしました」(日経12月2日)と述べている。やはりこれは問題だと思わざるを得ないと語った。

マルクス的なものが重要ではないかと確信を強めている。「大分岐の時代」と呼ばれる大きな分かれ道に立っている。世界では貧困、格差、労働問題、金融危機、失われた長期停滞、人類の存続が脅かされる規模での気候危機、右派ポピュリズムの台頭(民主主義の危機)、AIが人間を駆逐しAIに人間が支配されていくシンギュラリティ(人間性の危機)などいろんな危機を抱えている。

2020年からの30年間にどういった対策をとるのか。このまま二酸化炭素をもっと出し続けるのか。2030年までに1.5度上昇すると言われているまで排出し続けるのか。あるいは規制をかけてプライバシーを守るのか。どういう対策を取るかによってどういう社会が待っているかを大きく左右する10年になるのではないかとみている。

一部のリッチがより富んでいって分断や格差を生む社会になるのか、それとも、より平等や自由に重きを置く社会となるのか。

一部の国は干ばつや水不足、熱波で苦しみ、飢え死にをするような人が出てくる。難民も増えている。メキシコの壁を作って分断・格差を作り上げるような社会を生むのか。それとも問題を生み出している私たちの生活、消費、生産のあり方を見直して自由や平等を重視するような社会に変えていくのか。これはチャンスでもある。

斎藤氏は「そういった希望が日本ではまだ見えにくいかもしれないが、世界的に見ると出てきている。1つはアメリカだ」と指摘する。アレクサンドリア・オカシオ・コルテス(29)米下院議員は民主主義的社会主義者を名乗り、熱狂的な支持者を獲得。「1000万ドル以上の年収のある層への所得税率を70%に引き上げる」「20年かけて化石エネルギーから再生可能エネルギーへと完全転換するグリーン・ニューディール(Green New Deal=GND)」など壮大な理想を掲げている。

 

 

 

また、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は9月18日付で「キャピタリズム。リセットの時」を掲げた。「このままの経済格差を広げていくだけの金融重視の情報産業を推し進めて分断を深化して本当にいいのか。もう1回リセットしてみんなを平等にしたほうがいいのではないか」との論調を紹介した。

若者たちの意識も変わってきている。その1つはローンを背負って大学に行き雇用も安定せず、医療費も膨大な格差社会に住んでいると、これでいいのかという疑問を生んでいる。これに気候変動の危機が加わって若者たちはこれから気候変動の被害に直面するわけで、これだけ経済成長だけを求める社会でいいのかという意識が高まっている。

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